システム設計・開発、コピー・プリンタ販売、ウェブ制作、事務用品販売──。地方ITベンダーのホームページにある会社紹介欄の「主な業務」には、すべてのIT機器・周辺製品を扱っていることを表示しているケースが多い。地元のユーザー企業は、従業員規模が小さいほど、近隣ITベンダーのよし悪しを知らない。困りごとがあれば、ウェブを検索してヒットしたITベンダーのサイトをのぞく。地方ITベンダーは「何でも屋」であることが生き残りの条件なのだ。(取材・文/谷畑良胤)
岐阜県で、売上高ベースで二番手のインフォファームは、何でも扱うITベンダーの一社だ。1969年、中古タイプライターの販売会社として創業。時代の変遷とともに受託ソフトウェア開発やNECのオフコンディーラー、キヤノンのコピー機販売の会社として、創業者で現会長の辻正が基礎を築いた。息子で現社長の辻博文は15年ほど前に事業を引き継いだが、当時「オープン化」の波にさらされていた。
多くの地方ITベンダーを襲った試練だ。この試練を受けて社長の辻は、「私がベンチャー・キャピタリストとなって、10年余りの間に10億円を投資した」という。自社特有の製品開発を社内に募って、妙案に対して投資を行い、次々と開発した。そこで生まれたのが、SFA(営業支援)やCRM(顧客情報管理)をパッケージにした「戦略箱」だ。現在は同社の中核商材となっている自社開発製品である。
インフォファームは、厳密にいえば「独立系ソフトベンダー(ISV)」のカテゴリには属さない。しかし、地方には、有力ITベンダーが自社開発したソフトが山ほどあって、このなかからヒット製品が数多く生まれているのも事実だ。このシリーズで登場したインフォテリアの平野洋一郎社長は、ISVの勝ち残りの条件をこう述べていた。「市場調査を行って『確証』を得た段階では『Too late』だ」。複数のソフト開発プロジェクトを走らせて、そのなかから市場のニーズに合致した製品だけが生き残る。当然、その製品を開発する資金が潤沢でなければ立ち行かない、と。

地域のSIerがITによる活性化を熱く討論 インフォファームがISV的なベンダーとして、全国で一定の知名度を得るまでになったのは、受託開発や事務機器販売などの売り上げを稼ぐベースがあったからこそだ。加えて、今でも“ベタベタな営業”スタイルを続け、「地元顧客と密に接すれば、シーズ(事業の種)を見つけやすい」と、辻は言う。しかも、受託開発で培った開発人員が揃う。以前の事業体では、どんなに頑張っても売上高に占める最終利益率が数%止まりだ。辻は、「粗利率の高いソフトの販売を伸ばして、営業利益を10%にする」という目算を立てており、「戦略箱」などソフト販売の成長が自社の行く末を定めるとみている。
「戦略箱」は、初代のバージョンからウェブ化した。「国内でも、世界でも、ウェブ化したSFAは初めてだった」。辻は自慢げにこう話す。必要な人に必要な情報を自動的に届ける機能などの使いやすさが受けて、ニコンやパナソニックなど大企業の事業部門に導入が相次いで決まった。
ところが……。ソフト事業全体で年間で黒字になった年は、「戦略箱」のバージョン2(最新バージョジョンは3)を出した当時だけ。継続的な黒字化のめどが立ったのは最近のことだ。「ソフト事業をやめる機会はあった。だが、ポツポツと大型案件が決まるし、撤退の決断は難しい」と辻。「戦略箱」のユーザー定着率は9割を超えるので、他社へのリプレースはほとんど無い。それでも、事業の先行きを読むことには神経をすり減らしてきた。
いい意味でも悪い意味でも、オーナー社長の決断は大企業のそれよりも重い。同社の場合、ベースの事業が安定しているからこそ、判断を先送りすることができたともいえる。[敬称略]