一定の地域でシェアをもつパッケージソフトウェアを、いざ全国区で売ろうとする場合、相当な苦労を強いられる。このネックをクリアするために用いられる方法が、全国で売れている製品に接続して、知名度を上げていく“コバンザメ手法”だ。販売・財務・給与など基幹システムとの連携性を重視し、一緒にユーザー企業へ導入されていく。しかし、メインを張る製品にはなり得ない。愛媛に本社を置くアイサイトは、このネックを乗り越えて、“すき間市場”で独自領域の確立を狙う。従来は、スクラッチ(手組み)開発が担ってきた部分ともいえる。(取材・文/谷畑良胤)

アイサイト
仙波克彦
社長 アイサイト社長の仙波克彦は、地元の愛媛でスポーツジムの運営を手がける企業を引き継いだことがある。このときの経験を生かして開発したのが、スポーツジムやフィットネスクラブ向け基幹システム「i☆Series」だ。
「i☆Series」は、入会管理や会員継続、退会防止などの分析機能を盛り込み、会員の定着をサポートする。全国で450施設に納入した実績がある。それでも、「会員管理という点では、業界二番手」と、仙波は分析している。
競合する製品は、どちらかといえば会員管理や予約管理などに重点をおいた顧客管理システムだ。「i☆Series」は、そのすき間を突いた製品で、会員の体型や年齢、体調や運動目的に適したプログラムを作成するだけでなく、スタッフと会員のコミュニティツールとしても利用できる。
施設の要望を受けて、今も機能を進化させている。ニーズが増えるごとに、小回りの利く地方ITベンダーの威力が増す。大手ITベンダーは、市場規模の小さいスポーツジムに全力を投じることはない。細かい機能開発は、できれば避けたいと思うベンダーが多いなかにあって、アイサイトはここも手がける。
大手ITベンダーからすれば、大手スポーツジムのシステムを全国一元的に攻めるのが常道だろうし、市場自体もそれほど大きいと認識していないはずだ。しかし、地方のIT需要低迷にあえぐITベンダーにとっては、大手が入り込まない市場だけに狙い目なのだ。
実際、大手ITベンダーが認識しているほどには、スポーツジム系の土壌は枯れていない。営利を追求する民間の施設だけでなく、学校や医療、検診センター、カルチャースクールなど、ジムのように会員管理などを求められる施設は、実際には多い。地方公共団体に強みをもつアイサイト社長の仙波は、「ここでトップを取って、弾みをつけたい。海外に目を向ければ、健康指向を反映して、新興国への参入もできる」と、国内の現顧客を死守するとともに、海外を含めた新規市場の開拓を急ぐ。
図面・文書管理ソリューション「D-QUICK7」も同じだ。この領域では、富士ゼロックスなどドキュメント関係で大手ITベンダーの強敵が存在する。だが、仙波は「中小企業にとって使いやすい製品に仕上げて、海外展開ニーズに応える」ことで、市場を切り開くことができると判断した。国産ソフトベンダーが集まる「メイド・イン・ジャパン・ソフトウェア・コンソーシアム(MIJS)」の準会員(4月からは正会員)として海外を巡るうちにたどり着いた結論だ。
「人手が少ない中小企業では、図面の版管理や世代管理を行うのは大変。そこを自動化し、さらに海外で安価に使えるようにクラウド化した」。クラウド版の「D-QUICK7」は、競合がもっていない。小回りが利いて、地方に多く存在する中小製造業の身近にいる強み。これを生かした展開が実を結びつつある。日系の中小製造業で、中国の上海、深セン、香港、タイのバンコクに拠点をもつ企業から引き合いが届いている。[敬称略]