国産ソフトウァェアの海外進出を阻む障壁が徐々に崩れ、その流れがアジア圏を中心に広がってきた。同時に先駆企業が壁を突き破る姿をみて、独立系ソフトベンダー(ISV)が、これに続けとばかりに海外市場を視野に入れ始める。某IT系コンソーシアムは「IT業界の野茂英雄を生み出す」と、新たな市場を切り開く“先兵”の養成を強化する。アベノミクス効果で国内IT市場も上向き加減で、中・長期を見据えれば、海外進出は乗り越えるべき山なのであろう。だが、製品に何の特徴もなければ、夢は夢で終わる。(取材・文/谷畑良胤)
日本の野球界を飛び出し、米国の大リーグに挑戦した野茂英雄投手。当時は両リーグの協定がなく、型破りで実現に漕ぎつけた。野茂がいなければ、他の日本人選手が大リーグで活躍する今の姿はない。某IT系のコンソーシアムは、このスタイルにあやかり、野茂のような先駆者をどんどん輩出する手立てを講じようとしているのだ。進出する国によって法律や商慣習が異なる。どこかのISVが先兵としてこの“防波堤”を突き破り、あとに続けて別のISVの道も切り開くということだ。
船井総合研究所でチーフコンサルタントを務める斉藤芳宜は、自身のブログでこんな情報を発信している。「ドイツの貿易黒字がこれだけ大きいのは、輸出の68%が従業員200人以下の中小企業によってもたらされているからだ」。日本の場合、売上高上位10社の合計額が、輸出総額の92%を占めている。「まったくもって逆だ」(斉藤)。なぜこうも違うのか。
ドイツには、特定の業界でしか知名度がないものの、圧倒的なトップシェアをもつ中小企業が多い。これを「ヒドゥン(隠れた)チャンピオン」と呼んでいるそうだ。そのチャンピオン企業は1400社以上ある。ひるがえって日本はどうかといえば、製造業などでトップの中小企業は存在するが、稀である。規制や業界の仕組みに縛られて中小企業が育ちにくく、海外へ進出してトップに君臨する術も身につけていないからだ。

ITベンダーの海外進出は、他の業種と異なって大型の設備投資を必要としない(写真は米サンフランシスコ、写真と本文は関係ありません) IT産業の場合は、ヒドゥン・チャンピオンになるまでに、製造業などのように大型の設備投資を必要としない。その国に適した製品・サービスと儲けるためのビジネスモデルを確立していれば、低リスクで早期にトップに到達できる。愛媛県松山市に本社を置くアイサイトは、中小ISVだ。それでも「狙うは海外進出」と、社長の仙波克彦は豪語する。
例えば、アイサイトのスポーツジムやフィットネスクラブ向け基幹システム「i☆Series」。この領域では、国内トップクラスのシェアだが、アジア圏に進出しても成功するシーズがありそうだ。新興国の国民所得は今のところ低いが、可処分所得が上昇する傾向にあり、そうすれば健康維持に投資するようになる。あるいは日本や欧米のスポーツジムが進出し、そこにシステムを導入する機会も生まれるだろう。
Salesforce.com基盤を中心に、他のクラウドや既存システムを“つなぐ”ビジネスで成長するテラスカイも、同様のことがいえる。同社のSalesforce.comの標準レイアウトでは実現できない自由なレイアウトや入力支援機能をもつ画面をノンコーディングで作成できるツール「SkyVisualEditor」は、世界で唯一無二の製品だ。セールスフォース・ドットコムの世界では、世界的な普及が見込める。サイボウズが売り出し中のクラウド型データベースアプリ「kintone」は、「最初から世界を視野に開発した」と、社長の青野慶久が言う通り、世界にあるどの業務アプリケーションをつないでも利用できる。
世界で勝てなかった国内ISVが、ヒドゥン・チャンピオンとして市場を席巻する日は近い。[敬称略]