台湾のITベンダーがウェアラブル端末市場の拡大に熱い視線を注いでいる。今後、市場の拡大が期待されるウェアラブル関連のサプライチェーンに食い込むことで、ビジネスの拡大を目指す。台湾ITベンダーは、パソコンやスマートフォン、タブレット端末のサプライチェーンの重要なポジションを占めることで発展してきた。ウェアラブルについても同様に深く関与していく動きが活発化。日系ベンダーとの連携にも意欲的で、現地のITベンダーの幹部によれば、業種・業態を超えた日本の会社との相互補完を模索する取り組みも始まっているようだ。(取材・文/安藤章司)

今年のCOMPUTEX TAIPEI(台北国際電脳展)で展示されていた時計型ウェアラブル端末の一例水平分業の強みを生かす
台湾IT産業は、米国を頂点とするサプライチェーンに深く食い込むことで発展してきた。iPhoneのEMS(製造受託サービス)を手がけることで有名な鴻海精密工業を筆頭に、有名無名のさまざまなメーカーが、部品を製造したり、組み立てサービスを提供したりしている。そして、今、新しくウェアラブル端末の市場拡大が見込まれることから、サムスン電子やLGエレクトロニクス、アップルなど、世界の大手電機メーカーと歩調を合わせながら、ビジネスチャンスを虎視眈々と狙っている。
スマートデバイスを構成する要素は、CPUや無線充電、Wi-FiやBluetoothなどの無線通信、無線タグ、メモリとそのコントローラ、センサ、ディスプレイ、CCDイメージセンサ、EMSをはじめとする組み立てサービスなどだ。台湾有力メーカーの神達電脳(マイタック・インターナショナル)の趙懿・シニアディレクターは、「米国企業がアイデアを出し、台湾メーカーがハードウェアまわりをとりまとめ、中国で製造するサプライチェーンのなかで、いかに重要なポジションを占めるかで勝負が決まる」と捉える。
アップルやグーグル、マイクロソフト、アマゾン、フェイスブックなどが、デザインやコンセプト、基幹となるソフトウェアを開発。これら設計を実現するために台湾ITベンダーが動員され、中国の巨大な工場で製造する。スマートデバイスなどの端末系から、データセンター(DC)で使う独自にカスタマイズされたサーバーに至るまで幅広い。
スマートデバイスは、端末だけでは十分に機能しない。ネットに接続してソーシャルメディアやメール、カレンダー、動画配信、ネット通販などの各種サービスに接続してこそ役立つものになる。ウェアラブル端末なら、それ単体での機能はさらに限られ、クラウド連携がより重要になってくる。だからこそ、米国のベンダーは端末からDCまで幅広いハードウェアを必要としており、台湾のITベンダーはこうしたニーズに応えているわけだ。台湾IT産業に詳しい盤古科技の吉野貴宣顧問は、「台湾のITベンダーは、自らの強みを生かしながら、臨機応変に同業者と連携する能力に長ける」と指摘する。
業種・業態を超えた連携を
では、日本のベンダーにはどのような関わりが考えられるのか──。ウェアラブル端末に限ってみれば、身につけるタイプなので、例えば日本のアパレルメーカーや時計メーカー、眼鏡会社などとの連携が有力だ。
すでに、スポーツ分野では、世界的に有名なスポーツ用品メーカーが、アスリート向けにさまざまなウェアラブル端末を活用している。盤古科技の吉野顧問によれば、今年6月に開催されたCOMPUTEX TAIPEI(台北国際電脳展)の注目商材の一つに、台湾ITベンダーの匯智創作(Atomax)による加速度センサのスポーツ分野への応用が挙げられるという。自転車のペダル部分に取りつけ、「ペダルの回転数だけでなく、踏み込む加速度も計測することで、より緻密な分析が可能になる」(吉野顧問)とのことだ。
また、台湾の研究機関である工業技術研究院の陳右怡氏は、「日本はVR(仮想現実)やAR(拡張現実)などの映像分野の研究が盛んなので、とくに眼鏡型ウェアラブル端末のインターフェースでの協業もあり得る」と分析する。ビジネス分野では、設備管理や介護福祉、現場業務の情報共有など、さまざまな可能性があるが、台北市電脳商業同業公会(TCA=台北市コンピュータ協会)の吉村章駐日代表は、「どれもこれも、こうした業務に精通したSIerやISV(ソフト開発ベンダー)との協業が欠かせない」とみる。
着目すべきは、台湾ITベンダーの日本の会社との関わり方が少しずつ変化している点である。これまでは、主に自社ブランドで製品を販売する日本の大手電機メーカーからの受注方式をメインにしていたが、ウェアラブル端末については、日本のアパレル業界やスポーツ用品、VR/ARといった3Dデジタルコンテンツに強みをもつベンダーや、ビジネス分野でSIerやISVとの連携を模索するなど、非電機メーカーとのつながりに注目している様子が目立つ。
日本のデザインやコンテンツ、サービスの領域はアジア圏では比較的高く評価されており、しかもウェアラブル端末は身につけるものなのでデザイン性、ファッション性が重視されることから、従来の電機メーカー以外との連携の可能性が高まっている。日本側としては、業種・業態を問わず、ウェアラブルのサプライチェーンにどう食い込んでいくかが問われているといえそうだ。