米デル(マイケル・デルCEO)は、年次イベント「Dell World 2014」を11月4日~6日(現地時間)に開催した。株式の非公開化からほぼ1年、デルCEOは「株主を気にする必要はもうない」と話して、以前よりも思い通りに事業経営ができている様子をうかがわせた。プライベートカンパニーになったデルは、どこに向かおうとしているのか。イベントの取材をもとに解説する。(取材・文/木村剛士)
Point1
元気なパソコン事業を強調

マイケル・デルCEO デルは本社を構える米テキサス州のオースティンで、今年もDell Worldを開催した。「すべてのエネルギーをユーザーとパートナーに使うことができている。株主のことを気にする必要はない」。基調講演は、デルCEOのこんな言葉から始まった。デルは、2013年10月に投資会社とデルCEOが共同で株式を買い付け、上場を廃止した。それによって「ユーザーとパートナーに価値を提供することだけに集中できている」とし、思い通りに事業経営ができていることを強調した。
その成果として、デルCEOはハード事業の成長を掲げた。例えば、パソコン事業。2014年上期、ヒューレット・パッカード(HP)よりも約3倍で成長しており絶好調だという。「シェアは19.7%まで復活させることができた」(デルCEO)。HPがパソコン・プリンタ会社を独立・分社化したように、パソコン事業を取り巻く環境は厳しさを増している。それとは裏腹に、デルはパソコン事業の継続・強化を約束した。「真の仕事の価値を生み出すのは、パソコンだと信じている」とデルCEOは話し、タブレット端末やスマートフォンが普及しても、パソコンは生き残るという考えを明確に示した。

会場には世界各国からユーザーとパートナーが集まった また、ストレージ事業では、2014年上期の全世界のストレージ出荷容量は、業界全体では4.3%の成長に対し、デルは14.8%も伸びたという。「EMCは7.7%減、HPは6.2%減、IBMは7.8%減。デルの成長率が驚異的であることがわかってもらえるだろう。デルは、ナンバーワンのストレージベンダーになった」とデルCEOは強調している。

デル本社にはコンテナ型データセンターがある 他のグローバル総合ITベンダーが、ソフトウェアやクラウドを中心としたサービスに経営資源を集中する戦略を推し進めている一方で、デルはITシステムに必要なハード、ソフト、サービスのすべてを揃える戦略を重視する考えを改めて示した。
Point2
次世代の垂直統合型システムを発表
デルは今回のイベントで、会社の目指す方向性として「Integrated Technology Company」という新たな標語を示してみせた。加えて、頻繁に登場してきたのが、「End to End Company」という言葉。これまでは「Solution Provider」とすることで、箱売りからの脱却を強調してきたが、今後はITインフラに必要な製品・サービスをすべて取り揃え(End to End)、それらをシームレスに統合したかたち(Integrated Technology)で提供する企業になるというメッセージを発信したわけだ。
それを具現化する一つの製品として、Dell World 2014で発表したのが、「Dell PowerEdge FX」だ。今回のイベントでは、新しいタブレット端末や次世代の世界初となる5K液晶ディスプレイなど、複数の新製品を発表・展示したが、そのなかでもデルCEO自ら発表したのが、このDell PowerEdge FXだった。Dell PowerEdge FXは、サーバーやストレージ、ネットワーク装置などを組み合わせた垂直統合型システムの新モデル。オンプレミス型システムでもデータセンターでも適用できる次世代の統合システムとして売り込むという。デルが追求するEnd to End、Integrated Technologyを象徴する製品だといえる。
Dell PowerEdge FXはグローバルな戦略製品であり、日本でもDell World 2014の翌週に発表。デル日本法人の町田栄作・執行役員エンタープライズ・ソリューションズ統括本部長は、「デルが目指す方向性を具現化した製品」とアピールして、拡販に強い意気込みを示した。

デル日本法人の町田栄作執行役員がDell PowerEdge FXの日本展開について発表した
デルが次世代の統合インフラとして発表したDell PowerEdge FXPoint3
チャネル重視、さらに鮮明に

ティアン・ベン・ナグ・
バイスプレジデント兼
マネージングディレクター デルCEOは、トップに復帰した2007年から直販に加えて、パートナーを経由した間接販売ビジネスを本格的に開始。そこから着々とチャネルビジネスを伸ばしてきた。
今回のイベント参加者は、デルのユーザーとパートナー。過去最多の約5000人が集まった。デルは今回、パートナー企業の経営幹部を多数招待している。日本からも数社のパートナーが参加。大手ディストリビュータの社長は、デルCEOの自宅に招待されたという。
今回のイベントは、パートナー向けのメッセージやニュースが例年に比べて多かった。全売上高に占めるチャネルビジネスの割合は40%に到達したという。グローバルでチャネルビジネスを統括するシェリル・クック・バイスプレジデントは、「安定的でシンプルな私たちの協業プランをパートナーが高く評価している。間接販売においても存在感を示すことができ、『エンゲージしやすい企業』と言われるようになった」と話し、チャネルビジネスの伸長に自信をもっている。また、南アジアとAPJ(アジア・パシフィック&ジャパン)

シェリル・クック・バイスプレジデント地域のチャネルビジネスを担当するティアン・ベン・ナグ・バイスプレジデント兼マネージングディレクターは、「APJ地域のチャネルビジネスの成長率は、全世界のそれよりも高い。APJ地域の売上高のうち、50%はパートナー経由。フィリピンやベトナム、インドネシアといった新興国は、100%チャネルビジネスだ」と、APJがとくに好調なことを強調した。今回のDell Worldでは、チャネルビジネスに力を入れる姿勢をさらに鮮明にして複数の新サポートプランを用意した。全世界で総額1億2500万ドルを投じて、パートナーをさらに支援する。デモ環境の充実、販売実績に応じた報奨金の増額といったものを組み込んだ。日本では、今年度下期からチャネルビジネス体制を増強し、直販営業部門が担当している顧客数万社をチャネルビジネス部門に移すという戦略を断行している。あまねくパートナーを新たに募集するのではなく、すでに協業しているITベンダーを支援する作戦に打って出ている。
Point4
クラウドでの新たな展開
今回のイベントで、クラウドの匂いをあまり感じさせなかったデルだが、クラウド関連で一つ新たな展開を発表した。それがクラウドマーケットプレイス「Dell Cloud Marketplace」のパブリックベータ版の提供開始だ。クラウドのマーケットプレイスは、外資系、国内を問わず、大手のITベンダーが力を入れるクラウドの販売形態。デルも試験的ではあるもののその流れに乗ったわけだ。
Dell Cloud Marketplaceは、複数のパブリッククラウドサービスを専用サイトを通じて選び、利用できるようにするもの。異なるクラウドサービスを専用の管理ツール「Dell Cloud Manager」で一元管理する。Amazon Web Services(AWS)やGoogle Cloud Platform、Joyentから動作させるクラウド環境を選び、さらに利用するソフトウェアを選択する。現時点で用意しているソフトはDrupal、Magento、MongoDB、phpBB、Redis、Ubuntu、WordPressなどのオープンソースソフト(OSS)。来年にはDelphixやDocker、Pertinoのソリューションを利用できるようにするという。米国在住の利用者を対象として公開し、「ユーザーのフィードバックをもとに改善していく」(バリー・シェアーズ デル・ソフトウェア・バイスプレジデント&ジェネラルマネージャー)予定で、時期は未定だが、日本でも展開される見通し。「End to End」の範疇として、クラウドマーケットプレイスを入れたというわけだが、デルであることのメリットをいかに示すかがカギとなりそうだ。

「Dell Cloud Manager」のダッシュボード画面