フジテレビジョンは、ブラウザゲームのシステム基盤として、リンクの「アプリプラットフォーム」を採用した。同社はもともと他社の仮想サーバー型パブリッククラウドを使っていたが、オーバーヘッドロスが大きく、思うような処理速度が出ないという課題を抱えていた。この点、「アプリプラットフォーム」は物理サーバーを直接使うタイプのサービスで、従来の仮想サーバーでは避けられなかったオーバーヘッドロスを大幅に低減。コストを抑えつつ、快適なゲーム環境をユーザーに提供できるようになった。
【今回の事例内容】
<導入企業>フジテレビジョン在京キー局の1社。今回の事例では同社のテレビ放送と連動したゲームコンテンツ開発の取り組みを取材した
<決断した人>フジテレビジョン
赤井誠一 氏
インターネットブラウザを使ったキャラクターゲームなどを担当。「ゲームプレーヤーにとって快適な操作性を提供するためIT基盤は慎重に選んだ」という
<課題>仮想サーバー型のパブリッククラウドを使っていたが、データベースサーバーのI/Oがボトルネックだった
<対策>リンクのNANDフラッシュ超高速半導体ストレージ搭載「アプリプラットフォーム」に切り替える
<効果>データベースサーバーのI/Oボトルネックが解消され、ITリソースや月額費用の予測も立てやすくなった
<今回の事例から学ぶポイント>パブリッククラウドは万能ではなく、また、仮想サーバーと物理サーバーそれぞれの特性も大きく異なる
仮想サーバーの“落とし穴”
ゲームはシステム負荷の予測が難しいジャンルである。ヒットすればユーザーが急激に増えるし、とくにフジテレビジョンが手がけているキャラクターゲーム(キャラゲー)は、テレビ放送のタイミングやキャラクターそのものの人気の兼ね合いで、システム負荷が大きく変化する。こうしたことから、フジテレビジョンは自社で運用しているブラウザゲームのシステム基盤として、国内ベンダーのパブリッククラウドを活用してきた。パブリッククラウドなら、ユーザーの増減に応じて、仮想サーバーを増やしたり、減らしたりしながら、そのつど、最適なITリソースを調達できると考えたからだ。
しかし、実際は「思惑が大きく外れた」(フジテレビジョンコンテンツ事業センターゲーム&インキュベーション事業部の赤井誠一氏)という。仮想サーバーを柔軟に増減できる点はすぐれているものの、データベースサーバーのインプット/アウトプット(I/O)にボトルネックがあり、「仮想サーバーをいくら増やしても、I/Oがボトルネックになって、思うように処理速度が上がらない」(同)という現象に悩まされた。
そこで、「Amazon Web Services(AWS)」や「Microsoft Azure」など海外の大手パブリッククラウドを検討してみたが、「システム負荷の増減などへの対応を考慮すると、月額でいくらかかるのかを予測するのが困難だった」(フジテレビジョンでゲームシステムの開発に従事するU.P SYSTEMの加藤忠相・WEBシステム部ソーシャルゲームシステム課係長)。
ちょうどその頃、サーバー負荷の増減にも柔軟に対応できるというリンクの「アプリプラットフォーム」に出会う。
物理サーバーを借りて運用するホスティングサービスタイプなので、月額料金も明確化しやすい。大手パブリッククラウドベンダーのような柔軟性こそないが、リンク側の運用によって「ある程度のサーバー負荷の増減にも対応してくれる」(同)と、熱意あるリンクの提案をフジテレビジョンは受け入れ、2013年夏頃からアプリプラットフォームへの移行を進めた。
NANDフラッシュに着目

リンク
矢田慎二氏 アプリプラットフォームは、物理サーバーを直接使えるので、仮想サーバーの弱点ともいえる仮想化機構に由来するオーバーヘッドロスがない。サーバーから提供されるITリソースがどれくらいあるのかを予測しやすいのがメリットである。つまり、パブリッククラウドの「月額料金がみえにくい」という課題も解決しやすい。
さらに、フジテレビジョン側の技術者が着目したのは、アプリプラットフォームのサービスメニューの一つに、フュージョンアイオーのNANDフラッシュベースの超高速半導体ストレージ「ioDrive2」を選択できることだ。ioDrive2は、PCI経由でマザーボードに直接接続する半導体ストレージで、通常のHDDに比べて最大80倍の速度が出る。これをデータベースサーバーに適用すれば、I/Oボトルネックは解消できる。
限られたIT基盤予算のなかで、リンク側の営業や技術者と、膝を突き合わせながら「これだけの負荷ならば、これだけの予算」といった具合に、月額料金を明確に算出できるのは、フジテレビジョン側にとって大きな魅力だった。とはいえ、仮想サーバーほど柔軟にサーバー台数を調整できないのは、課題として残ったのは事実で、リンク側に「物理サーバーの魅力を生かしつつ、もっと柔軟にコントロールできないものか」と相談を持ちかけることもあったという。
ITリソースの柔軟な増減は、リンク側でも強い課題意識をもっており、2014年5月からは従来のアプリプラットフォームを拡張するかたちで、いわゆる“ベアメタルクラウドサービス”の「ベアメタル型アプリプラットフォーム」をスタート。最短20分でサーバーを増減できる「迅速さと柔軟性を高めた」(リンクat+link事業部営業部の矢田慎二氏)ことで、優位性を大幅に高めている。(安藤章司)