福島県郡山市(品川萬里市長)は、タブレット端末とブイキューブが提供するウェブ会議システム「V-CUBE ミーティング」を採用し、場所を問わずに、本庁と14か所の行政センターの間で、お互いの顔を見ながらコミュニケーションをとることができる仕組みを築いている。災害時の情報共有の強化・迅速化を図るほか、日ごろは、会議のペーパーレス化などに活用している。数年前も同様の仕組みを導入したが、利用が低調だった郡山市。今回は、どんなことを重視して、二度目の導入に挑んだのか──。
【今回の事例内容】
<導入機関>福島県郡山市福島県中通りの中部に位置している。人口は約33万人(2014年12月現在)と、福島県で最も多い。面積は757km2。
<決断した人>郡山市総合開発部
ソーシャルメディア推進課
二瓶浩之 情報システム係長
<課題>郡山市は面積が広いので、本庁と14か所の行政センター間の距離が遠い。それだけに、災害時にいかにコミュニケーションを円滑にして、市としての対応を迅速に行うかが課題だった
<対策>タブレット端末とウェブ会議システムを導入
<効果>場所を問わず、フェイス・トゥ・フェイスでコミュニケーションできるようになった
<今回の事例から学ぶポイント>業務の効率化をねらいとして利用されがちなウェブ会議システムだが、「災害対策」のツールとしての活用も効果が大きい
災害時に役立った情報共有
福島県で最大の人口を有する郡山市は、見た目は元気になった。2013年に就任した品川萬里市長は、東日本大震災で半壊し、放置されていた建物を取り壊すことに取り組んだ。その結果、市内のあちこちで見られたブルーシートがなくなり、街の風景がすっきりした。さらに、品川市長は、市役所内のコミュニケーションの改善を図り、震災が発生したときに情報共有を迅速で密にする目的で、ITの活用に乗り出した。
名称は「ライブネットこおりやま」。タブレット端末とブイキューブが提供するウェブ会議システム「V-CUBE ミーティング」を導入して、本庁と市内14か所にある行政センターをつないでいる。品川市長をはじめ、本庁の幹部は定期的に行政センターの職員と会議を開いている。これまでは行政センターの職員が本庁に赴くかたちでその会議が行われた。平常時はいいのだが、地震などによって道路が壊れ、移動ができなくなった際は、本庁と行政センターの間で、お互いの顔を見ながらコミュニケーションをとることができなくなる。そんな事態が起きないようにと、通信環境さえ整えれば、どこからでもリアルにコミュニケーションを図ることができるウェブ会議の採用に踏み切ったという経緯がある。

2013年12月、ウェブ会議システムの稼働開始を祝うオープニングセレモニーに出席する品川萬里市長。机の裏には二瓶浩之・情報システム係長がしゃがんでおり、後方でシステムの運用を支える(写真提供:ブイキューブ) 実際、2014年2月に大雪が降って、郡山市内の交通網が麻痺したとき、市はウェブ会議システムを活用して、積雪量について情報を共有するなど、ITのおかげで迅速な対応ができたという。
今回は使い勝手を重視
実は、郡山市がウェブ会議の活用に挑むのは、今回が初めてではない。市は、2001年に同様の仕組みを導入し、およそ5年間使っていたが、ひと言でいえば、「失敗」に終わったというつらい経験をもっている。当時は、まだシステムの性能や機能が十分ではなく、画質や音質などの面で使い勝手が悪かったので、市役所内のシステム利用がなかなか活発にならなかったというわけだ。今回、ウェブ会議システムの導入に“再挑戦”するにあたって現場で指揮を執ったのは、郡山市総合開発部ソーシャルメディア推進課の二瓶浩之・情報システム係長である。
二瓶係長は、ベンダー各社の製品を検討してシステムの採用を決める際、「タブレット端末から会議に参加できることや、ログインが簡単で誰でも使うことができる操作性を重視した」と語る。過去の経験から学び、今回はとにかく「使いやすさ」にこだわることによって、システム利用を活発にすることを念頭に置いたという。そして、最大30人のメンバーを集めて遠隔会議を開くことができるなど、ブイキューブ製品の特徴を評価し、導入を決定したそうだ。
2013年12月、「ライブネットこおりやま」のオープニングセレモニーを開催するとともに、システムの本格稼働を開始した。
今後は手話通訳も提供
システムを導入して1年が経った今、どんな活用をしているのか──。「操作性がよくて、本当に使いやすい」と二瓶係長はベタ褒めだ。現在は、ウェブ会議システムによって、資料をデジタル化し、会議のペーパーレス化につなげている。今後は、活用シーンをさらに広げて、市民を巻き込みながら「暮らしやすい郡山市」づくりに取り組むことを構想している。例えば、「もう少し画質がよくなれば、ウェブ会議を通じた手話通訳のサービスを提供したい」(二瓶係長)と、今後の活用についての一例を挙げる。
「センター長、ちょっといいですか」「いや、今、本庁と会議中だから……」──。最近、郡山市の行政センターで、こうした会話が増えている。ウェブ会議システムが浸透して、周りが気づかないくらい、あたりまえのように使うようになっている。「今度こそ、うまくいっているようだ」と、二瓶係長はそっと胸をなで下ろしている。(ゼンフ ミシャ)