決まった時間に決まったメンバーと行うテレビ会議の延長線として、バーチャルの空間をつくり、まるでその場にいるような感覚で社員同士で自由に会話することができるソリューションが注目を浴びている。ICT(情報通信技術)構築を手がけるNECネッツエスアイ(和田雅夫社長)は、プロジェクションマッピング(下掲の「注目のキーワード」を参照)の技術を活用し、遠隔地のオフィスを立体感のある映像として再現する「SmoothSpace」を投入した。「攻めのIT投資」に取り組んでいる企業に提案し、まだ商業化の初期段階にあるプロジェクションマッピングを生かして、オフィス改革ソリューション事業の拡大につなげる。(取材・文/ゼンフ ミシャ)

プロジェクションマッピング技術を使い、遠隔地のオフィスをバーチャル空間として再現。まるで同じ場所にいるような感覚で、社員同士でコミュニケーションをとることができる 「そういえば……。○○さん、資料はもうできた?」。東京本社にいる社員が壁に向けて話しかける。壁の“向こう”にいるのは、映像として映し出された大阪オフィスに勤務する同僚。「急いでやるから、もう少し待って」と即座に回答する。二人は同じプロジェクトに携わっており、情報のやり取りを頻繁に行う必要がある。メールや電話だと、話が正確に伝わらなかったり、面倒がってコミュニケーションをとらなかったり……。会話の活性化を阻む障壁はいろいろある。しかし、バーチャル空間をつくり、あたかもコミュニケーションの相手が隣にいるかのような環境を整えれば、離れたオフィスにいても会話が弾むはず。NECネッツエスアイはそう捉え、得意としているプロジェクションマッピング技術を活用して「SmoothSpace」を開発。昨年12月、発売にこぎ着けた。

NECネッツエスアイ
菊池惣
グループマネージャー SmoothSpaceの構成は、それぞれのオフィスにポリコムのテレビ会議システムを設置し、カメラで撮った映像を送ったり、受信したりする。そして、プロジェクションマッピング技術を使い、立体感を演出しながら、映像をプロジェクターによって壁やスクリーンに投影するものだ。NECネッツエスアイはSmoothSpaceを1拠点あたり400万円からで提供し、機器の設置や付随するシステム構築(SI)によって利益の創出を図る。大手・中堅規模で、多くの拠点をもつ企業を中心に提案し、今後3年間で100セットの納入を目標に掲げている。
米国では、このところグーグルやヤフーなど、大手のIT企業が在宅勤務を廃止して、社員をオフィスに集めることによって会話を促し、イノベーションを生み出すという動きが顕著になってきている。「日本においても、昨年から大手・中堅企業の本社移転が活発で、それをきっかけに、ITによってオフィス改革に取り組むトレンドは確実にある」と、NECネッツエスアイの企業ソリューション事業本部エンパワードオフィス販売推進本部ソリューション企画グループの菊池惣・グループマネージャーは語る。同社の東京・後楽本社内にSmoothSpaceの体感コーナーを開設し、「一日に平均4社のお客様が見学に来られる」(同)と、ニーズに確かな手応えを感じるという。
SmoothSpaceは、朝の出社から夜の帰宅まで、ずっと映像を映してつないでいるので、何かを思いついたときにすぐに担当者に声をかけることができる。こうした利点を武器に、従来型のテレビ会議システムとの差異化を図る。さらに、「エグゼクティブだけではなく、現場レベルでの会話を促すことも強み」(菊池グループマネージャー)とアピールする。NECネッツエスアイは提案活動に際して、「SmoothSpaceの活用によって、交通費の削減や移動時間の短縮ができるのはもちろん、直接の会話によって新しい製品やサービスの開発につながるアイデアが生まれることを最大のメリットとして訴求している」(同)という。
注目のキーワード
プロジェクションマッピング
コンピュータで映像を作成し、プロジェクターによって壁などに映し出すことで、バーチャルの空間をつくる技術。2012年9月、東日本旅客鉄道(JR東日本)が実施した、東京駅の駅舎に建設当時の姿など、いろいろな映像を投影するイベント「TOKYO STATION VISION」をきっかけに、一般に認知されるようになった。今後は、業務改革や遠隔教育、観光案内など、幅広い分野での商業化に期待が寄せられる。
国内UC市場、着実な伸び
「クラウド」に商機あり
テレビ会議など以前からある製品に加え、「SmoothSpace」のような新型ソリューションも仲間入りして、幅を広げつつあるユニファイド・コミュニケーション(UC)。国内のUC市場は、飛躍的な伸びをみせてはいないものの、着実な成長を遂げている。調査会社のIDC Japanによると、2014年上半期(1~6月)には、前年同期比5.1%増を記録し、1141億円に拡大した。14年の通期見通しは、2192億円と、前年比4.6%の増だ。13~18年の年平均成長率は4.0%とみて、18年には、2554億円の市場規模になると予測している。
IDC Japanは、クラウド対応がUC市場の追い風になっていると捉えている。ここに、システムインテグレータ(SIer)にとって商機がありそうだ。大手SIerのSCSKは、このほど、ビデオ会議などUC製品のメーカーである日本アバイアと提携し、アバイア製品をクラウド型で提供する。アジア地域で、アバイア製品をクラウド化して売り込むのは、SCSKが初のパートナーだという。日本アバイアは現在、クラウドパートナーの獲得に取り組んでおり、SIerと組んで事業拡大に動こうとしている。