近年、北米を中心に急成長しているクラウドERPベンダーの米ワークデイが、日本市場に本格参入した。日本法人そのものは2013年8月に設立していたものの、製品のマーケティングやローカライズ、サポート体制の整備に時間を割き、満を持して新規顧客の獲得に乗り出す構えだ。グローバル市場では、SAPやオラクルなど、大手ERPベンダーへの「アンチテーゼ」として存在感を高めてきた同社だが、日本市場ではどのように顧客基盤を開拓していくのか。カギを握るのは、パートナー戦略だ。
オラクル、SAPへのアンチテーゼ

ワークデイ
金翰新
社長兼ゼネラルマネージャ 2005年に発足した米ワークデイは、当初から、大企業向けを中心に、ERPパッケージをSaaS型で提供してきた。とくに近年、クラウドの浸透によって成長のスピードが加速している。2012年度(12年1月期)1億3400万ドルだった売上高が、14年度には4億6900万ドルまで拡大しており、15年度はさらに7億6500万ドルまで急伸する見込みだ。
ERPのグローバル市場に詳しいガートナー ジャパンの本好宏次・リサーチ部門エンタープライズ・アプリケーションリサーチディレクターは、米ワークデイを「SAP、オラクルのアンチテーゼとして伸びてきたベンダー」と評する。もともと、同社のデビッド・ダフィールド共同創業者兼会長は、米オラクルに敵対的買収の末、吸収されたピープルソフトの創業者でもあり、既存ERP製品とは一線を画す戦略でオラクルや最大手のSAPに新たな戦いを挑んだわけだ。
ただし、同社の売り上げのほとんどは、北米でのビジネスが占める。SAPやオラクルと本気で肩を並べるためには、グローバルでのビジネス拡大が欠かせない。マイク・スタンキー・プレジデント兼COOは、「グローバル企業の日本ブランチではすでに150社以上にワークデイ製品を導入していただいており、日本のマーケットのニーズに応えることができると確信した」と、日本市場への本格参入に踏み切った理由を説明する。同社の事業規模からいえば、タイミングとしては決して早くはない。近年、外資、国産を問わず、多くのベンダーがERPのクラウド化施策を積極的に展開し、日本のユーザーにも浸透し始めているが、そうした動きを横目に、慎重に決断したという見方もできそうだ。
求む、上流提案ができるSIer
日本法人のワークデイ(金翰新・社長兼ゼネラルマネージャ)は、2013年8月に設立されているが、これまで新規顧客獲得のための活動はほとんどしていない。この間、同社が注力してきたのは、ローカライズとサポート体制の構築だ。日本担当のプロダクトマネージャを採用して米本社に勤務させ、日本市場のニーズを製品開発に反映させるスキームもつくりあげ、本格活動の準備を進めてきた。
まずは、同社が最も得意とするグローバル企業向けの人事管理システムから提供を始める。財務会計については、「少なくとも数年内には導入したい」(金社長)としている。将来的には、中堅企業や国内事業中心の企業も顧客として獲得していく計画だという。
久しぶりの大型ベンダーの日本参入とあって市場の注目度は高いが、問題は「どう売るか」だ。大企業向けの人事管理システムに強みをもつERPベンダーとしては、国産のワークスアプリケーションズ(ワークスAP)との競合が予想され、ワークスAPも、グローバル市場では米ワークデイをベンチマークにしている。ただ、ワークスAPが直販の営業体制を整えているのに対し、ワークデイにそうしたリソースがあるわけではない。ワークデイにとっては、パートナーエコシステムをどう構築するかが、日本市場で成功できるかどうかのポイントになりそうだ。
従来、米ワークデイは、アクセンチュアやIBMなど、導入のコンサルテーションから実装、保守まで総合的に手がけることができるグローバルベンダーと協業し、顧客基盤を拡大してきた。日本でも、当面はグローバルパートナーが顧客への提案・販売を担うことになるが、それだけでは訴求できるユーザーが限られる。とくに、中堅企業向けにビジネスを拡大するとなれば、その市場に強い国内SIerとの連携を避けて通ることは難しい。
金社長は、そうした日本特有の市場構造も十分に理解したうえで、「ローカルで成功するための独自のパートナーシップ締結はもちろん進めている」と話す。さらに、「少なくとも、カスタマイズでパートナーに儲けてもらうというビジネスにはならないので、コンサルなど上流のビジネスで力を発揮してくれる数社のSIerと組むことになるだろう」と展望している。(本多和幸)