「世界の工場」から「世界の市場」へと変貌を遂げつつある中国。日系ITベンダーは、どのようにビジネスを拡大しようとしているのか。現地のキーパーソンに、これまでの進捗状況や現在の市況感、今後の戦略を聞いた。(構成:真鍋武)
日立解決方案(中国)
日立ソリューションズ
張若皓 総経理
生年 1958年
出身 上海市
中国赴任生活 2011年12月から
●質の向上
中国国内向けのソリューション事業に力を注いでいる。日系企業向けを中心とする基幹系システム「Microsoft Dynamics」の販売だけでなく、中国ローカル企業に向けて自社商材を提供している。2014年度(14年12月期)の売上高は約1億4000万元。オフショア開発の縮小などの影響で、前年度比で30%ほど落ち込んだが、ビジネスの中身は充実している。ソリューション事業の売上比率が40%に高まり、11年12月に当社を設立して以来、初の営業利益の黒字化を果たした。
ローカル企業向けの商材は、位置情報を活用したスマートコミュニティソリューション「Indoor Positioning Solution(IPS)」や、航空機の給油管理システム、ガス・水道などの地下パイプ管理システムなどがあり、どれも日本本社のノウハウを活用しながら現地で再開発したもの。一見すると、ニッチな分野の商材が多いようにみえるが、実はどれも中国政府が推進しているスマートシティや、工業化と情報化を組み合わせる「両化融合」などの方針に適合するソリューションだ。
15年度は、利益率を高めるための施策として、“質の向上”にさらに力を注ぐ。ソリューション事業では、浙江省嘉興市と連携して、現地の中小企業に向けたSaaSビジネスも開始する予定だ。中国の日系マーケットは、全体のIT市場のほんの一部。ここで日系ITベンダー同士がしのぎを削りあうのは建設的ではない。当社は、中国政府が推進する分野をヒントに、ローカル企業に向けたソリューション事業を強固に推し進める。
NEC飛鼎克信息技術服務(北京)
NECフィールディング
季思東 総経理
生年 1966年
出身 北京市
中国赴任生活 2011年から
●リテール業を新規開拓
NEC製のハードウェアだけでなく、他企業が構築したシステム環境を含めて、マルチベンダー対応の保守サポートを展開している。ただ、保守サポートの単価が下落傾向にあるので、3年ほど前からは、リテール業に向けた新規ビジネスに力を注いでいる。
新規ビジネスでは、リテール業の新規店舗の企画から建設、運営、経営改善までのトータル支援サービスを提供している。とくに案件獲得のとっかかりとして提案しているのが、店舗に設置したカメラを利用した来店顧客の行動分析ソリューションだ。顧客の人数や、性別・年齢などの属性、商品への注目度などを分析することができ、高精度な技術力が高く評価されて、万達広場など、中国ローカル系の大型ショッピングモールを中心に販売実績を積み重ねている。中国では、ショッピングモールが急増しており、各モールで差異化を図るためにITを活用しようというニーズが高まっている。
実際、リテール業向けビジネスは好調で、すでに当社の売上高の7割方を稼ぎ出すまでに成長した。2014年度(14年12月期)の通期業績は、過去最高となる約6000万元の売上高を記録し、黒字化も果たしている。
2015年は、引き続きリテール業ビジネスに力を注ぐ。来店顧客の行動分析ソリューションに、NECの顔認証エンジン「NeoFace」を組み込んで精度を高めたり、クラウド型POSシステムやリテール業向けメッセンジャーアプリ「微鏈」など、自社開発の商材の販売を精力的に進めるなどの施策を打っていく。
日沖商業(北京)
OKIデータ
藤田泰彦 総経理
生年 1970年
出身 東京都
中国赴任生活 2010年8月から
●顧客機軸のマーケティング
OKIブランドのドットプリンタとLEDプリンタを販売している。現状は、売り上げの約7割がドットプリンタ。中国では、領収書の発行にドットプリンタが使用されており、2015年~16年も需要は底堅いとみる。ただし、市場は成熟期にあって、安価な製品を販売する中国の新興メーカーも増えている。楽観視はできない。
OKIの強みは、製品が高品質なことだ。昨年10月からは、中国で初めて5年間無料保証モデルを投入した。また同時期に、華北・華東・華南の3地域別のモデルを発売した。以前は、特定の代理店がいろいろな地域に安価で当社製品を販売して、市場価格を下げてしまうことがあったので、これを管理して、当社の代理店に利益をきちんと確保してもらう。
ドットプリンタの事業規模は今後も維持し、これからはLEDプリンタで成長を図る。中国では、ページプリンタの市場シェアの9割方をモノクロローエンド機種が占めている。しかし、当社はその領域は狙わない。LEDプリンタの特徴を生かし、ミドルレンジからハイエンドの領域で、カラー機の販売に力を注ぐ。
ターゲットは、医療関係やグラフィック関係など、高品質な印刷を求める企業だ。顧客機軸のマーケティングを推進し、大連の開発会社と連携しながら、カスタマイズなどの顧客の要望に一件一件応えていく。ホワイト/クリアのトナーを搭載した5色対応のA3カラー機「C941dn」を筆頭に、LEDプリンタ全体の販売台数を2015年は前年比で30%増やしたい。
北京仁本新動科技
NSD
張力耘 総経理
生年 1964年
出身 北京市
中国赴任生活 2012年10月から
●ローカル企業と政府向けビジネスに専念
当社は、中国国内のローカル企業と中国政府向けビジネスを目的として、2012年10月に設立された。中国に進出している日系IT企業と異なり、当社は日系企業向けITサポートを主要事業にするつもりはない。ローカル企業・政府向けビジネスに専念する。
そのため、これまでは中国での開発体制を整えて、自社製品の研究・開発に力を注いできた。狙いを定めているのは、中国で需要が高まっている高齢者向け健康管理の分野だ。
今年、提供開始を予定しているのは、専用タブレット端末に搭載したアプリケーションを通して、高齢者が養老サービス事業者や医療機関と健康管理に関するやりとりができる「仁本健康在宅養老プラットフォーム」だ。高齢者は、自身の健康状態を登録して、養老サービス事業者や医療機関から適切なアドバイスを受けたり、緊急時に救急車を手配したりすることができる。養老サービス事業者や医療機関は、登録情報をもとに高齢者にアドバイスするだけでなく、診断予約時の担当者の割りあてなどにも利用できる。
すでに、約50端末の利用を想定した実証実験を実施済みで、現在は500~2000端末を想定した実験を実施中だ。品質には自信があるので、政府から高い評価を得ることで、地方の養老サービス事業者に推奨してもらえるようにしたい。また、収集した高齢者の登録データは、政府に有償で販売することも予定している。
今後3~5年で、高齢者向け健康管理ビジネスの売り上げを40億円の規模に伸ばすことを目標にしている。
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