中国のトップERP・会計ソフトベンダー、用友。日本国内では、目立った活動を行っていないこともあって、その存在はあまり知られていない。しかし、中国でナンバーワンの地位を確立している同社は、現在、業務ソフトベンダーの枠を超えて、インターネット企業への変貌を遂げつつあり、グローバルIT市場でのビジネス拡大にも闘志を燃やしている。アジア発のISVとして、用友に勝ち目はあるのか。また用友は、日系ITベンダーの将来の有望パートナー、もしくは脅威となり得るのか。中国での現地取材を通して、用友のビジネスの今を解剖した。(取材・文/上海支局 真鍋武)
用友の謎を解き明かす

北京市海淀区に所在する用友軟件園
●IT市場黎明期から活躍
用友網絡科技(用友、王文京董事長)は、中国No.1のERP(統合基幹業務システム)・会計ソフトベンダーとして、中国国内では抜群の存在感を発揮している。しかし、日本での知名度はまだまだ低い。まずは、同社を理解するために、会社の成り立ちから解説していこう。
用友は、1988年に「用友財務軟件服務社」として設立された。本社は北京首都国際空港からクルマで45分ほど走った北京市海淀区のはずれにあって、「用友軟件園」としてソフトウェアパークを形成している。会社名の通り、設立当初は会計ソフトを主力製品として提供していた。中国のIT市場は当時が黎明期だったこともあって、1991年には、同市場でシェア1位を獲得している。
その後、1998年にはERPへと手を広げ、中堅・中小企業(SMB)向けの「U8」、大手企業向けの「NC」の販売を開始した。2002年には、中国のERP市場で独SAPを追い抜き、市場シェア1位を奪取した。その後もU8とNCは、汎用ERPとして普及し、現在では用友のスタンダートモデルとして定着している。
2010年には、クラウド戦略を発表。クラウド型ERPとして、SMB向けの「U8+」、大手企業向けの「NC6」に加えて、小・零細企業向けの「T+」の提供も開始した。会計ソフトからERPへと製品レンジを広げ、提供モデルもオンプレミス型からサービス型へと手を広げていることは、日本を含めたグローバルの業務ソフトベンダーの動きと共通している。
●グループ企業が豊富
設立以来、用友は組織体制を年々強化してきた。現在、同社が抱える従業員は、総員約1万2000人。国内外を含めて、およそ150拠点を保有している。特徴的なのは、グループ企業の数が豊富であることだ。中国全土に支店や地域子会社を設置しているだけでなく、SMB向けの用友優普信息技術、小・零細企業向けの暢捷通信息技術といった顧客規模別の子会社や、政府・自動車・金融・医療・教育など、業種別の子会社も保有している。地域・顧客・業種の3軸に子会社を設けることで、市場をくまなくカバーしようというわけだ。このほか、オフショア開発のグループ会社も保有している。
ちなみに、最初の業種別子会社は、2002年に設立した政府関係機関向けの北京用友政務軟件。用友は、政府機関の資本が入っていない民間企業ではあるが、創業者で董事長を務める王文京氏は、用友を設立する以前の1983年~88年まで、中国の最高行政機関である国務院の直属機関で業務に従事した経験があり、政府機関に対して強力なコネクションをもっている。
●日系業務ソフトベンダーを凌駕
売上高も着々と拡大してきた。用友は、2001年に上海証券取引所に上場しており、13年度(13年12月期)の通期連結業績は、売上高が43億6269万774元(約829億円)、営業利益が3億1334万714元(約59億円)、経常利益が5億4790万2307元(約104億円)、純利益は4億1981万5994元(約79億円)。参考までに、日本の大手業務ソフトベンダーの13年度売上高は、大手企業向けERPを提供するワークスアプリケーションズが328億2900万円(14年6月末時点)、SMBに強いオービックビジネスコンサルタント(OBC)が202億6000万円。単純比較すると、用友が2.5倍から4倍も大きい。
売上高の推移をみると、2009~11年度までは、年平均成長率(CAGR)が33.76%と猛烈な勢いで伸びている。中国のIT市場の急激な拡大に伴って成長してきた。
しかし、直近の2年間の伸び率は数%と鈍化した。中国のIT市場全体は、いまだ堅調に伸びているものの、用友が最も得意とする会計ソフトの市場は、成熟期を迎えつつあるのだ。用友がこれから大きく成長していくためには、成長余地の大きいSMBや小・零細企業に対してクラウドサービスを普及させたりするなどの戦略が欠かせない。
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