サイボウズ(青野慶久社長)のクラウドサービス群「cybozu.com」のユーザーが3月の段階で1万社に到達した。オンプレミス型システムからクラウドへのパラダイムシフトを察知し、今から約4年前の2011年にcybozu.comを提供開始。クラウドへの積極的な投資を約束し、あえて“赤字決算”をよしとするなど、オンプレミスのグループウェアベンダーから、クラウドベンダーへの転換に注力してきた。それが成果となって現れつつある。とはいえ、青野社長は「まだ満足していない」。これまで以上にクラウドに集中投資する考えだ。(木村剛士)
約3年4か月で1万社
cybozu.comは、複数のクラウドサービスを提供するサイボウズのクラウドブランド。主なラインアップは、SaaS分野が中堅・中小企業向けグループウェアサービスの「サイボウズ Office」と大企業向けグループウェアサービスの「Garoon」、PaaS分野がアプリケーションソフトの開発・実行基盤「kintone」になる。
これらのクラウドを利用する企業・団体の数が、3月に1万社・団体に到達した。2011年11月のリリースから約3年4か月での達成になる。このうちkintoneのユーザーは、2000社ほどだという。
kintoneでPaaS市場に参入
サイボウズのクラウドに対する意気込みは強かった。サイボウズは国内グループウェア市場でトップブランドとしての地位を確立していて、財務状況も良好。まさに安泰という表現がふさわしい状況が続いていた。
そのようななかでも、クラウドが今後のITの主流になるとみて、ここ数年は、多額の費用をクラウドにつぎ込んできた。サイボウズ OfficeやGaroonは、まずクラウド版を開発し、オンプレミス版に適用していくというクラウド重視の姿勢を鮮明にしている。
また、kintoneはサイボウズが過去に手がけていない新たな領域のサービスとして注目を集めている。PaaS分野は、セールスフォース・ドットコムなどのライバル企業が先行していたが、使いやすさへのこだわりが評価へとつながって徐々に頭角を現してきた。kintoneはグループウェア分野での利用を想定した特化型PaaSであるため、2000社のユーザーを獲得したことの意義は大きい。サイボウズの思惑はともかく、kintoneにはグループウェア分野以外の利用も考えられるため、パートナー企業の提案次第では、さらに市場を広げていくことになりそうだ。
独自のプロモーション戦略

サイボウズ
青野慶久社長 サイボウズは、cybozu.comを拡販するために、研究・開発とマーケティングに多額の費用を投入している。
例えば、研究・開発分野では、セキュリティ上のリスクとなるぜい弱性を発見するために、「脆弱性報奨金制度」を実施した。cybozu.comのサービスに潜むぜい弱性を一般公募して、有益なものは報奨金を支払うプログラムで、2014年に初めて実施して、報告された241件のうち約158件を認定。687万円の報奨金を支払った。一定の成果を得たことから2015年も継続して実施している。
一方、マーケティング施策では、オウンドメディア「サイボウズ式」を強化。IT系メディアの編集者を責任者に採用するなどで、コンテンツの充実に注力している。関係者の話によれば「獲得した新規ユーザーのうち、3%程度はサイボウズ式がきっかけになっている」という。また、有名女優を採用したワーキングマザーをサポートするショートムービーを製作し、ネットなどに公開。製品の訴求は一切ないものの、話題をさらってサイボウズの知名度を一気に広げた。こうした独自の施策も1万社突破に貢献したとみられる。
kintoneはまだ“1%”
とはいえ、青野社長は、この実績に満足してはいない。2月下旬のインタビューでは、青野社長は「kintoneは、まだやりたいことの1%もできていない」と言い切っている。その意気込みの現れか、青野社長は開発部門(グローバル開発本部)のトップに就任していて、残りの99%の完成を目指す。
また、今年度(2015年12月期)の業績計画は、売上高は前年度に比べて12.3%伸ばすものの、営業利益は8億円の赤字(前年度は2200万円の黒字)を見込むほどの積極投資に出る模様だ。「昨年度に引き続き、広告宣伝投資を積極的に行う」(2014年度決算短信より)という。
赤字化を目指すことを公言する一方で、クラウド関連の売り上げの10%を配当するという“クラウド配当”を実施することで、株主に理解を求めていく。
パートナープログラムの刷新
昨年度から進めている品質向上・機能拡張のための研究開発やマーケティング施策を継続・強化するとともに、今年度新たに動かすのが、パートナープログラムの刷新だ。以前から進めているパートナープログラムの内容は、パートナーがグループウェア製品を販売しやすくするためのサポートプログラムだったが、新たなパートナープログラムでは、グループウェアとは異なる支援が必要なkintoneもパートナーが売りやすい内容に変更する計画。これが奏功すれば、パートナーとの強力なエコシステムが形成され、一気にkintoneが普及することも考えられる。
また、勉強会コミュニティの「kintone Café」は、全国へと波及していて、各地で支部が立ち上がっている。2月20日には、運営事務局も開設した。運営事務局のメンバーであるジョイゾーの四宮靖隆社長は、kintoneの使いやすさにいち早く注目し、定額39万円(税別)でシステムを開発する「システム39(サンキュー)」を提供している。こうした新たなビジネスモデルの創出も、kintoneを盛り上げている。
ユーザー数が1万社という大台にのったcybozu.comだが、今年度はこれまで以上に新たな施策が動き出す。国産クラウドベンダーとしてますます注目される企業になりそうだ。