主要SIerが事業モデルの変革に取り組みはじめている。ポスト東京五輪の経済情勢を見据え、事業環境が堅調に推移している今のタイミングで、新たな施策を打ち出しているのだ。受託開発や運用・保守→自動化やDevOps(開発と運用の連携)、ライセンス販売→OSSやサービスの一層の活用、ハードウェア販売・インフラ構築→パブリッククラウドやSDx(ソフトウェアによる定義、代替)など、これまで進めなければならないと理解しつつも、なかなか移行しきれていない“弱点”を補い、2020年以降、「経済情勢が変化しても勝ち残れる」(SIer幹部)体制づくりに取り組む。(安藤章司)
SIerが強気になっている背景には、足下の業績がおおむね順調に推移していることがある。
SIer最大手のNTTデータの国内売上高は、緩やかな右肩下がりが避けられないとみられていたにもかかわらず、2015年3月期は前年度比1.7%増の1兆628億円と反転。今期(2016年3月期)も同1.5%の増収を見込む。野村総合研究所(NRI)の売上高は初めて4000億円を突破し、新日鉄住金ソリューションズも初の2000億円超えを、この3月期の決算で達成している。技術者派遣をメインとするメイテックのSE稼働率は、リーマン・ショック後の2009年に70%台まで落ち込んだが、ここ数年は95%前後の高水準で推移するなど「堅調な受注環境」(メイテックの國分秀世社長)にあると手応えを感じている。
だが、注意しなければならないのは、売り上げのけん引役が従来型の受託ソフト開発であったり、ハードウェアやパッケージソフト販売を伴うシステム構築、インフラ構築が多くを占める点である。これら既存ビジネスはSIerにとって重要な収益源であることに間違いはないものの、景気の後退期に入ると、とたんに人手が余るという側面がある。
SIerの多くの経営者は東京五輪後の反動減を懸念しており、“経済情勢の変化に強い”仕組みづくりが、SIerが打ち出す事業モデル変革の柱となっている。
では、どのような事業モデルに取り組むべきなのか──。まずは、開発やテストの自動化、DevOpsに代表される開発と運用の連携による効率化、ハードウェアやインフラ構築はパブリッククラウドやSDxを採用するといったことが挙げられる。情報システムの「つくり方」「売り方」を大きく変化させるものであり、その多くが「短期的にみて売り上げ減少につながる要因」(SIer幹部)である点が悩みどころだ。
SIer経営者のなかには、「下手に事業モデルをいじるよりも、むしろ現状のままのほうが売り上げを右肩上がりで(少なくとも自分の任期中は)伸ばせる」と考える人がいるかもしれない。その一方、「五輪後に反動がきた場合、リーマン・ショックの二の舞になる」という懸念の板挟みになっているのが正直なところだろう。
こうしたなか、事業モデルの変革に向けて、目に見えるかたちで大きく舵を切ったSIerの1社がJBCCホールディングスだ。同社は年商1000億円超えが長年の悲願としつつも、売り上げ減少につながる「クラウド、ソフト開発の自動化、DevOps、SDxなど、ITの世界的な潮流を取り込んでいくことが本当の意味で勝ち残る道」(JBグループ山田・司社長)と明確に位置づける。もちろん従来型のウォーターフォール型の受託ソフト開発、サーバーやネットワーク機器販売を前提としたインフラ構築も重要だが、「それだけでは有事の備えが十分でない」との認識である。
ITホールディングスの前西規夫社長は、2018年3月期の年商4000億円超えを目指しつつも、「利益重視と明確な成長エンジン、市場開拓型」の三つを掲げ、戦略的な先行投資を加速させる。
いくらITの世界的潮流に則った投資であるとはいえ、先行投資である以上、リスクはつきもの。ここでポスト五輪の見据えた勝負をかけられるかどうかがSIerの経営判断の大きな分水嶺になる。