クラウドはもはや、多くのITベンダーにとって“必須科目”になりつつある。しかし、本来、TCO削減効果などのメリットがより享受できるといわれている中小企業のクラウド利用率はまだまだ低い。こうした状況にあって、中小企業を顧客の中心とする地方のITベンダーは、クラウドとどう向き合っていくべきか。広島県情報産業協会の有馬猛夫・副会長とセールスフォース・ドットコムの北原祐司・執行役員アライアンス本部ISVアライアンス部部長に語り合っていただいた。(構成/本多和幸)
クラウドでビジネスのフィールド拡大
──地方のIT市場でのクラウドビジネスの現状は? 有馬 地方のITベンダーは、下請けの受託開発だけでは先がないととらえて、何か新しいことをしなければならないとみんな考えている。そういう意味で、クラウド、とくにアプリケーション開発に力を入れれば、地理的な制約を越えて全国にビジネスのフィールドを広げられるのではないかという期待がある。
ただし、業界のニッチなニーズに応えるノウハウをもっているとしても、地方のITベンダーには大規模なクラウド環境を自前で用意することは当然ながら不可能なので、既存のPaaSなどの活用ニーズが高まっている。

セールスフォース・ドットコム
北原祐司
執行役員アライアンス本部
ISVアライアンス部部長 北原 当社は、セールスフォース・ドットコム(SFDC)という名前のとおり、CRMをはじめとする営業支援のためのクラウドアプリケーションの提供からスタートしたが、その後、プラットフォームを開放して、PaaSとしての提供も始めた。日本ではプラットフォームの売り上げのほうが大きくなっていて、有馬さんがおっしゃることを裏づけるトレンドにあると思う。
一方で、地方のIT市場へのアプローチという観点では、当社のCRMを含め、すでに当社プラットフォーム上にあるアプリケーションを再販してもらうビジネスも成功事例が出てきている。例えば九州には、受託開発をやめてクラウドビジネス一本でやっていくというふうに、大胆にビジネスを変革したシステムフォレストというベンダーがある。同社が主導して、九州地区内のローカルベンダー10社以上を巻き込んで、当社CRM製品の導入や定着化支援を展開するパートナー網を形成し、成果を挙げている。顧客との直接的なコミュニケーションは各地域のベンダーが担当し、当社製品のビジネスで先行しているシステムフォレストが、各ベンダーへの営業支援やプロジェクト支援を行っている。ほかの地域でも同様の販売網を立ち上げようとしている最中だ。
クラウドベンダーと地方コミュニティが連携
──地方のユーザーのマインドはどうか。 
広島県情報産業協会
有馬猛夫
副会長 有馬 資産を保有していたい、自前でハードをもつほうが安心という感覚が抜けきっていないという印象がある。さらに、地方の小規模なユーザー企業には、「都会の大企業も使っているならこのソフトはいいものなのだろうから使ってみよう」というマインドがある。つまり、何かしらの“お墨つき”がないと導入しないということ。現実的には、単純ではあるが、ユーザーの琴線に触れる導入事例が広く伝わっていくことが、クラウドが浸透する大きなポイントになる。
ただ、地方のITベンダーには、マーケティングや営業のリソースが不足しているケースが多く、そうした事例を丁寧に説明して売っていくのは難しいという課題もある。
北原 当社の例でいうと、当社主催のイベントやセミナーにパートナーにも一緒に出ていただいてリードを獲得し、メールや電話での営業活動、さらにはフォローのイベントの開催なども一緒にやったりして、パートナーのマーケティング活動を支援している。
また、当社のパートナーには、さまざまな種類がある。SFDCのプラットフォーム上でアプリケーションを開発するパートナーはもちろん、当社アプリやパートナーが開発したアプリを含め、導入のコンサルティングを行うパートナー、再販するパートナーもいる。こうしたパートナー同士の補完的な連携を促すような取り組みも進めている。
有馬 本来、SFDCのビジネスは、地方のITビジネスと相性がいいと思う。九州のパートナー網構築の例もご説明いただいたが、広島県情報産業協会のような地方のコミュニティや団体とうまく連携してもらえば、SFDCと地場ベンダーの両方がビジネスを拡大できる可能性もあるのではないか。
北原 その通りだと思う。最終的に、顧客に信頼され、ニーズをつかんでいて、きちんと支援できるパートナーが必要であることは間違いない。
──クラウドで成功するベンダーの条件は何か。 北原 自社で開発したアプリでも、既存のアプリでも、自分たちが売るものを自分たち自身がユーザーとして使いこなし、場合によっては改善点をソリューションにフィードバックしているベンダーは伸びる。提案する際の説得力の違いにもつながる。
有馬 開発の視点では、とにかくスピードが重要。常にニーズに応えて新しさを追求することが差異化となる。だからこそ、信頼できるPaaSを活用することは、中小のITベンダーにとってビジネスチャンスの拡大に結びつく。