スモールビジネス向けクラウド業務ソフトを提供するfreee(佐々木大輔代表取締役)は、6月23日、会社設立の書類準備から実印の作成、法人口座の開設まで、クラウド上でワンストップで手続き可能な新サービス「freee会社設立」をリリースした。国内の起業環境改善と開業率の向上に一役買うことで市場のパイを拡大するとともに、新サービスのユーザーをクラウド業務ソフトの優良顧客として囲い込み、顧客基盤を拡大していく戦略だ。(本多和幸)

佐々木大輔 代表取締役 freee会社設立サービスは、パソコンでもモバイルデバイスでも、ウェブブラウザの画面案内に沿って必要な事項を記入していくだけで、自動で設立登記申請書などの必要書類が作成・出力でき、それらを提出する場所も地図情報付きで指示する。さらに、ジャパンネット銀行、ハンコヤドットコムと連携し、freeeのサービスに入力した情報をもとに、法人口座の開設や会社実印などの発注もできるようになっている。また、年額1000円で電子公告サービスも提供していて、官報で決算公告をする場合に比べて5万9000円のコストダウンを実現するほか、設立手続きのサポートを専門家に依頼したい場合も、ワンクリックでfreeeが最適な専門家を紹介するという。
佐々木代表取締役は、「例えば発起人2人、取締役2人で会社を起こそうとする場合、23通以上の書類を準備して16か所以上に押印し、これを法務局や税務署など6か所以上の機関に提出しなければならない。手続きが煩雑で、それぞれの書類の作成方法や押印場所を調べるのも手間だし、行政書士などに依頼するにしても、依頼先をみつけるのもひと苦労だというケースが少なくない」と指摘する。そのうえで、「新サービスは、同じ情報をさまざまな書類に何度も入力しなければならない手間を省いて、可能な限り入力作業を省力化し、会社設立に必要な書類を5分でつくり終えることができる。必要な手順をプロセスに合わせてわかりやすくガイドすることで、起業する人を煩わしい事務作業の負荷から解放し、経営に専念してもらえるようにする」と、メリットを強調する。
同社がこのサービスをリリースした背景には、日本の起業家数を増やし、開業率(既存企業数に対する新規開業企業数の年度ごとの割合)を上げたいという思いがある。
freeeにとっては、開業率の向上が実現すれば、当然ながら顧客対象となる小規模事業者が大幅に増えることになる。さらに、freeeのサービスを使って起業したユーザーは、会計ソフトや給与計算ソフトもfreeeのクラウド製品を導入する可能性が高いわけで、アップセルも容易だ。
弥生の岡本浩一郎社長も、「スモールビジネスの世界では年間20万から30万の新しいビジネスが生まれていて、いまではシニア起業であってもITの活用が前提になっている」と、起業する人が業務ソフトの新規顧客として需要に厚みをもたせていることを示唆する。
起業支援から会計までのワンストップサービスをクラウドで提供することで、毎年生まれる起業家のバックエンドシステム需要を取り込んでいくことができれば、freeeの顧客基盤はさらに拡大することになりそうだ。
ただし、freeeが会社設立サービスをリリースした2日後の6月25日には、同じくクラウド業務ソフトのマネーフォワード(辻庸介社長CEO)も、士業ITアドバイザー協会との提携による「MFクラウド創業支援サービス」の提供を開始したと発表した。クラウド会計を軸にしたスモールビジネス向け業務ソフト市場の競争は活発化するばかりだ。