マイクロソフトが、クラウドにおけるパートナービジネスを加速する。新たにCSP(クラウド・ソリューション・プロバイダ)プログラムの拡張を発表。日本では約20社が参加することになる。また、日本マイクロソフトでは、2016年6月末までにクラウドパートナーを3500社に拡大。2017年6月期においては、エンタープライズ分野における売上高の半分をクラウドビジネスにする考えを明らかにした。(取材・文/大河原克行 フリーランスジャーナリスト)
クラウドビジネスを加速
「マイクロソフトの売上高の92%はパートナーによるもの。われわれとビジネスをやることが最善の選択である」──。
米マイクロソフトが、2015年7月13日から、米フロリダ州オーランドで開催したパートナー向けイベント「Worldwide Partner Conference(WPC) 2015」の基調講演で、同社のケビン・ターナーCOOは、参加した世界130か国以上、1万5000人を超えるパートナーにこう呼びかけた。
会期中、2回にわたって行われた基調講演は、いずれも3時間を超える熱の入ったもの。パートナーに示された数々の提案は、マイクロソフトがクラウド事業拡大の軸足をパートナーに置くことを明確に示すには十分すぎる内容だった。
今回、発表されたパートナー施策のなかで、最も注目を集めたのは、パートナーがクラウドサービスを再販できるCSP(クラウド・ソリューション・プロバイダ)の拡張だ。CSPは昨年のWPC 2014で発表されたものの、あまり本格化していなかった。今回の発表によると、クラウドサービスを組み合わせるためのAPIをマイクロソフトが開発したり、パートナーポータルを整備したりするなど、技術面からも体制を整えることから、パートナーがこの制度に参加しやすくなる。
CSPの拡張内容は、全世界131か国に展開するとともに、これまでの「Office 365」に加えて、「Microsoft Azure」や「Enterprise Mobility Suite(EMS)」「Microsoft Dynamics CRM Online」にも対象を広げる。日本では約20社がCSPに参加することになり、これに伴い、国内5社が参加していたシンジケーションパートナー制度は廃止。大塚商会、リコージャパン、ソフトバンク コマース&サービス、NTTコミュニケーションズ、KDDIは、そのままCSPへと移行する。また、新たにダイワボウ情報システムが参加し、ソフトバンク コマース&サービスとともに、2次店へ再販する仕組みを構築。2次店がもつサポートやソリューションとOffice 365を連携させるなど、独自の提案が可能になる。さらに、Azure対応CSPとして今回認定された日本企業は、マネージドサービスを提供するFIXERの1社。FIXERは全世界でも数少ない早期展開パートナーとして、CSPの制度拡張におけるさまざまな要望を米本社に提案しており、「CSPの拡張は、MSP(マネージドサービスプロバイダ)がAzureを積極的に扱うための地ならしにもなる」とFIXERの松岡清一社長は考えている。
2016年度はトップを視野に

日本マイクロソフト
高橋明宏
執行役常務 日本マイクロソフトの平野拓也代表執行役社長は、「日本マイクロソフトは、国内パブリッククラウド市場において、2014年度は5番手、2015年度は3番手だったが、2016年度はトップを視野に入れることができる」と自信をもっている。クラウドの勢力図を変える要因の一つが、パートナー戦略だ。日本マイクロソフトのゼネラルビジネス担当の高橋明宏執行役常務は、「2500社のクラウドパートナーを、今年中には3500社へと拡大する。SIパートナーや、リセールパートナーに加えて、ISVベンダーを主体とするIPサービスパートナーや、マネージドサービスを提供するマネージドパートナーを通じた販売拡大が、成長のカギとなるからだ。今後も日本におけるクラウドビジネスは、年平均2~3倍で成長させ、2017年6月期には、エンタープライズ分野における売上高の半分をクラウドビジネスにしたい」と語る。CSPの拡張が、パートナー拡大の弾みになる可能性が高い。
CSPの認定条件としては、月締め請求の仕組みを独自にもっていること、24時間365日のサポート体制をもっていること、クラウドサービスへアドオンできる付加価値をもっていること、単一製品ではなく他の製品へも拡張できる体制があることなどとされている。再販価格は日本マイクロソフトによって設定され、Office 365では20%、Azureでは15%のマージンを獲得することができる。
マイクロソフトは、パートナーにとっても、いまがクラウドビジネスを拡大するチャンスだと捉えている。
「いち早くクラウドビジネスにシフトしたパートナーのなかには、3年続けて40%増の成長を遂げている例もある。この1年で、安定的な収益と成長のためにはクラウドシフトが不可欠だという認識が広がりつつある」(高橋執行役常務)とする。
サティア・ナデラCEOは「マイクロソフトはエコシステムのために存在する企業」と語り、平野社長も「クラウドを軸としたパートナーシップを強化し、クラウドの企業として、最もパートナーを大切にする会社といわれることを目指す」と強調する。今回のWPC 2015は、数年後のクラウド勢力図に影響を及ぼすようなパートナー施策を明らかにした、重要なパートナーイベントになったといえそうだ。