総務省が平成27年版の情報通信白書(正式名称は平成27年「情報通信に関する現状報告」)を発表した。地方企業のICT導入拡大で20万人に及ぶ雇用創出効果が得られるとする試算のほか、自動走行車やロボットなど先端技術の利用意向、クラウドやデータ分析の活用状況など、情報サービスのマーケティングにも有用な情報が多数含まれている。(日高彰)
43回目の発行となる平成27年の情報通信白書では、IT機器やサービスの普及・利用状況といった年次データに加え、昨今話題となることの多いIoTやウェアラブルといった技術にも注目し、ICTの普及が近未来の社会にどのような変化をもたらすか、「地域」「暮らし」「産業」の三つの観点から展望している。
ここ数年、企業の情報システムで大きなテーマとなっているクラウドの導入については堅調な伸びを示しており、2014年末時点で何らかのクラウドサービスを「全社的に利用している」または「一部の事業所または部門で利用している」と答えた企業は、全体の38.7%。2013年末時点の33.1%から5.7ポイントの上昇となった。業種別では、金融・保険業、卸売・小売業でクラウド利用が進んでおり、規模が大きい企業ほどクラウドを積極的に導入している様子が明らかになっている(グラフ参照)。一方で中小企業は大企業に比べて利用率が低く、前回調査からの伸びも小幅にとどまっている。本格普及がこれからという点では中小企業向けのクラウド市場に伸びしろはあるものの、中小企業の経営者にはクラウドの利点が十分伝わっていないという課題も浮き彫りになっている。
地方創生にICT施策が貢献
白書では、ICTの活用が進んでいる企業は、そうでない企業に比べて「既存事業の成長」や「新規事業の創出」を達成している割合が高いと指摘。ICTの導入は業務の効率化による人員削減にもつながるが、企業が成長すれば事業規模に応じて雇用も増えるため、中長期的には企業によるICTの活用が広がることで雇用が創出されるとしている。
また、事業所の所在地別に比較すると、三大都市圏の政令指定都市では46.4%の事業所が全事業所平均よりもICT活用が進展しているのに対し、三大都市圏以外の政令指定都市にある事業所では同41.0%、地方(政令都市以外)の事業所では同34.1%と、地方では都市部に比べてICTの利用・活用に遅れがみられる事実が明らかになっている。白書では、もし地方企業のICT活用が都市部並みになったと仮定すると、現状に比べて地方での既存事業成長・新規事業創出が増加し、約20万人の正社員雇用を創出すると試算している。
地方では雇用環境の厳しさから都市部への人口流出が続いており、それによって地方企業の活力低下に拍車がかかり、さらなる雇用の縮小につながるという負のスパイラルに陥っているケースが少なくない。白書では、地方におけるICT活用の促進が、この悪循環を断ち切るための一つの手段であるとし、地方中核都市の情報サービス業者が「ICT供給側」たる役割を果たすことを期待している。具体的な方策として、ネットワーク環境の整備、スマートフォンアプリの活用、ICTベンチャー企業誘致など、ICT施策が地方創生につながったさまざまな事例を紹介し、ICTが地方経済に貢献できる可能性を検証している。
差異化要素にならない品質や技術
「暮らし」に焦点を当てた章では、ウェアラブルデバイス、自動走行車、介護・子育て支援ロボットといった先端技術について、消費者の認知度や利用意向、課題をまとめている。一般的に新しい技術や製品は若年層に受容される傾向にあるが、総務省の調査によれば、自動走行車は60代以上のシニア層で最も利用意向が高かったほか、ロボットに関しても介護では大きなニーズがあるものの、子育てでの利用には抵抗を示す人が多いことが確認されている。先端技術の製品化を成功させるためには「社会の課題をいかにして解決するか」という視点が重要になっていることがわかる。
「産業」とICTの未来を展望した章では、情報端末、通信、情報サービスといったレイヤ別の市場動向のほか、IoTやビッグデータ活用の進展について、市場規模の推移や予測など多数のデータが示されているが、調査会社など第三者のデータを用いて分析を行っている部分も多い。総務省独自の調査を全面的に活用した部分としては「各国ICT企業経営層の認識と予測」の節があり、日本、欧米、アジアの計6か国・635社のICT企業を対象に行ったアンケートを用いて、各国企業の経営戦略の違いを分析している。日本のICT企業が自らの強みと認識することの多い「機能・品質」「技術力・研究開発力」は、グローバル市場において必ずしも特異な要素にはなり得ないことや、日本のICT企業は海外直接投資の意向が6か国中最も低いことなどが明らかになっており、経営者に“気付き”を与える内容も多い。
情報通信白書は、第三者が権利を保有する一部図表を除き、出典を明示すれば商用目的でも無償で二次利用できる。総務省のウェブサイト(http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/)で全編のPDFおよびHTMLが公開されており、電子書籍版、スマートフォンアプリ版なども順次用意される。