日立ソリューションズ(佐久間嘉一郎社長)は、海外売上高比率で初となる今期15%達成を視野に入れる。ここ半年近くかけて民需に特化した“新生・日立ソリューションズ”の体制を整備し、その柱としてグローバルビジネスの拡大に力を入れてきた。このグローバルビジネスの中心となるのがマイクロソフト製のERP(基幹業務システム)「Dynamics(ダイナミクス)」シリーズである。民需分野では他にも新規事業を複数立ち上げており、成長路線への弾みをつけようとしている。(安藤章司)
Dynamics軸に弾みをつける

佐久間嘉一郎
社長 日立ソリューションズは今年4月以降、民需に特化する新体制へと移行し、海外ではマイクロソフトの「Dynamics」シリーズを軸にERPビジネスを推進してきた。金融・公共分野の事業を日立製作所本体に移管したため、単体ベースの従業員数は約5000人へと半減したが、その分、米国でDynamicsに強いITベンダーを同社米国法人に迎え入れたり、今年5月からはシンガポールに現地法人を設立し、ASEAN地域のDynamics事業の営業体制を強化した。また、開発拠点として同社グループのインド法人に開発体制を整えている。
M&A(企業の合併と買収)や拠点開設などによって、欧米・中国・ASEANなどに20拠点1000人の海外社員を抱えるまで拡大。主力と位置づけているDynamics関連事業は北米市場を起点として、グローバル展開を推進していることもあり、直近では同事業の売り上げの約7割を北米市場が占めている。
だが、この4月以降の上半期に入ってからは、欧州でDynamicsを活用した大型案件を受注するとともに、中国やASEANでもDynamics案件が活発化。同時に、国内でも主に海外進出を積極的に推し進めるユーザーを中心に営業に力を入れたところ、「この上半期の国内のDynamics関連事業の受注見込みは、すでに昨年度(2015年3月期)通期の売り上げ規模を超える見通し」(佐久間嘉一郎社長)と弾みがついた。国内ではこれまでSAPやOracle、日立グループ独自のERPの案件が多い傾向が続いていたが、日立ソリューションズグループの海外でのDynamicsの実績が評価されるかたちで、国内のDynamics事業も勢いを増している。佐久間社長は「Dynamicsのナンバーワン・グローバル・パートナーになる」と鼻息が荒い。
また、国内での新規事業も実績を上げている。例えば得意のCRM(顧客管理システム)のノウハウを応用するかたちで、野球やサッカーといったスポーツや、遊園地などのアミューズメント、音楽や演劇などのショービジネスのファンとの結びつきを強め、ファンの満足度向上やすそ野を広げることに取り組んでいる。こうしたファンビジネス向けCRMは、まずはスポーツ領域で受注が急増。ここ2年ほどで10案件ほど受注しており、向こう3年で3倍の累計30案件の獲得を視野に入れるという。日立ソリューションズの新規事業のなかでも最も成功しているケースになっている。
独自ビジネスがカギ握る
日立製作所本体に金融・公共分野の事業を移管したため、日立ソリューションズの今年度(2016年3月期)の連結売上高は約1000億円減って2500億円程度になる見通し。日立製作所の情報・通信システム事業全体の今年度売上高は前年度比3%増の2兆1000億円の見通しで、金融・公共事業の再編は「情報・通信システム事業全体の今期目標を達成し、今後、さらに大きく伸ばしていくため」(佐久間社長)だと話す。
日立ソリューションズは、日立製作所と連携して手がけるビジネスの割合が比較的多く、昨年度末まででみると金融・公共分野の約半分は日立との連携ビジネスが占めた。一方、民需分野は8割方が日立ソリューションズによる独自の営業で受注獲得を行っている。連携ビジネスの割合が多い金融・公共分野は、多重構造をなくして、日立製作所本体が一気通貫で手がけたほうが効率性の向上や、オーバーヘッドロスの解消による収益力が高まるとの判断に至っている。
とはいえ、情報・通信システム事業の“2兆1000億円”を一段と伸ばしていくには、主要SIerの一角を占める日立ソリューションズ自身の成長が欠かせない。国内市場の成熟度合いや、強みとする分野に違いはあるものの、同じ民需を手がける兄弟SIerの日立システムズ(連結売上高約4300億円)の存在があるなど難しい局面もある。
そこで日立ソリューションズでは、海外市場への切り口としてDynamicsを位置づけて北米、欧州、中国、ASEANの主要市場への進出を加速。情報・通信システム事業全体の海外売上高比率36%目標の水準には達していないものの、今年度は同社としては過去最高の海外売上高比率15%の達成を見込むまで成長させてきた。兄弟SIerの日立システムズも海外進出を積極的に進めているが、こちらはデータセンター(DC)やアウトソーシング、独自開発の業務パッケージソフトなどを主軸としているため、海外でも国内と同様の相乗効果が期待されている。
国内SIerで最も海外ビジネスの規模が大きいNTTデータも、海外ビジネスの立ち上げ時はSAPを活用したシステム構築を得意とする海外SIerを重点的にグループに迎え入れ、海外ビジネスの基礎を築いてきた。日立ソリューションズはDynamicsを軸に、国境を越えて、世界どこでも通用するビジネスの基礎を整備しつつ、さらに一歩踏み込んで日立製作所グループが強みとする社会インフラとSIビジネスをどう融合させ、独自性や存在感を高めていくのかが問われている。