インターネットが普及したことで、在宅勤務を可能にする働き方として注目されたテレワーク。テレビ会議システムや企業向けSNSといったテレワークに有効なツールも充実しているが、企業で採用されることは少なかった。ところが、ここにきてその状況が変わろうとしている。“地方創生”という国策がテレワークを後押ししているためだ。(畔上文昭)
テレワーク週間に651団体
日本マイクロソフトは、8月24日からの一週間、「テレワーク週間 2015」を実施した。賛同したのは651の企業や自治体などの団体。昨年のテレワーク週間に賛同したのは、32法人というから、今年の参加団体数にテレワークの盛り上がりをうかがい知ることができる。
テレワーク週間の目的について、日本マイクロソフトの樋口泰行・代表取締役会長は、「経済成長には労働力が必要だが、少子高齢化などの影響もあって、求人しても集まらないような状況にある。テレワークは多様な働き方を可能にするなど、労働機会の拡大につなげることができる」としている。また、場所を選ばないため、地方で働くことができ、災害時の対応にも有効であるとして、テレワークの普及に大きな期待を抱いている。
テレワーク週間に賛同した各社は、テレワークを実践したほか、テレワークについて議論したり、テレワークのスペースを提供したりした。例えば、カラオケルームの歌広場は、賛同企業にカラオケルームを提供。カラオケルームを利用した日本マイクロソフトの社員は、「外部の音が遮断されていて仕事に集中しやすい」などの感想を語っていた。
また、地方創生に関連する取り組みとして、北海道の別海町で滞在型テレワークを実施した。日本マイクロソフトの社員が家族を連れて別海町に滞在し、日中は仕事をして、時間外では家族サービスをするという取り組みである。家族の夏休みを有効利用するテレワークのあり方を模索した。
国策がテレワークを後押し
盛り上がりをみせたテレワーク週間だが、普及にはさまざまな阻害要因がある。日本マイクロソフトが昨年実施したアンケートによると、仕組みや制度がないだけでなく、“マインド”がテレワークの採用を阻害していることがわかる(表を参照)。インフラやツールが揃っているにもかかわらず、テレワークが普及しなかった理由がそこにある。
そのムードを変えるとして期待されるのが、地方創生という国策である。地方創生には、観光や地場産業の育成などの政策も挙げられるが、多様な働き方を実現するテレワークでは、都心と同様の仕事ができることから、若者を地方に呼ぶ手段としての注目度が高い。
日本マイクロソフトが実施したテレワーク週間の記者向け説明会では、衆議院議員の福田達夫・自由民主党テレワーク推進特命委員会事務局長が登壇。テレワークを国が推進する背景として、「多様な働き方を実現することは、人が豊かに生きることにつながる。それが生産性を上げ、企業の業績を上げることにもつながっていく」と期待を込める。
総務省や厚生労働省などで構成されるテレワーク推進フォーラムでは、「テレワーク普及推進運動」の一環として、11月に「テレワーク月間」を実施する。日本マイクロソフトが実施したテレワーク週間と同様の取り組みが、テレワーク月間でも実施される予定だ。
税制優遇措置なども必要
テレワーク月間以外でも、例えば総務省が「ふるさとテレワーク推進のための地域実証事業」を実施している。地方に整備したサテライトオフィスやテレワークセンターを拠点に、テレワークが地域創生に有効であることを実証するのが目的だ。
問題は、テレワークが地方創生にどこまで貢献できるかである。日本マイクロソフトは、テレワーク週間において別海町でテレワークを実施したが、社員が別海町に移り住むまでには至っていない。それは、賛同した651団体も同じである。テレワーク月間のみ、あるいは実証実験の期間だけでテレワークを実施しても、地方創生にはつながらない。
IT業界としては、テレワーク関連のツールを販売する絶好の機会となるだけに、地方創生の切り札としてテレワークが定着することが望まれる。例えば、テレワークを実施した企業には、税制優遇措置が与えられるなど、国策らしい対応があれば、企業も取り組みやすくなるのではないだろうか。
サイボウズ
まずは“リアルオフィス”に注力
サイボウズは8月4日、新本社オフィスを報道陣に公開した。新本社オフィスのコンセプトは「Big Hub for Teamwork」。意味は“情報やヒトを終結させ、リアルコミュニケーションが活発に行われることにより、サイボウズチームの一体感を高め、エコシステムを含めてハイパフォーマンスを生み出し続けるチームワークの中心拠点”とのこと。リアルオフィスの充実という点で、テレワークとは逆方向に進んだ印象だ。
新オフィスのコンセプトを説明したサイボウズの青野慶久社長は、テレワークについて、「ツールと制度に加えて、風土が必要。それが揃わないとテレワークは機能しない。また、社員へのアンケート結果をみると、テレワークではノウハウが共有できないなど、否定的な意見もあった」とし、まずはリアルコミュニケーションに注力できるリアルオフィスを用意したという。とはいえ、テレワークを否定するのではなく、今後の取り組みとしている。

「サイボウ樹パーク」と呼ばれるコミュニケーションスペースを案内するサイボウズの青野慶久社長