大手メーカーのネットワーク機器ビジネスが、転換期に差しかかっている。NEC、富士通の二大国内ベンダーは専用アプライアンスを主軸としたSDN(ソフトウェアで定義するネットワーク)戦略を推し進めているが、汎用的なIAサーバーを使うソフトウェア・アプライアンスのNFV(ネットワーク機器の仮想化)や、ネットワーク機能をサービスとして提供するSaaS/クラウドの商材が相次いで登場。メーカーが得意とする専用アプライアンスを軸としたSDNだけでは、市場の変化や顧客ニーズに対応しきれなくなる可能性が出てきた。(安藤章司)
メーカーのSDN戦略に“待った”
NECは世界に先駆けてソフトウェア制御によるプログラム可能なSDN製品「UNIVERGE PFシリーズ」を、富士通は「IPCOM VXシリーズ」を投入している。両社ともここ数年は、専用アプライアンスを軸としたSDNビジネスが好調に推移。ネットワークの構成を、ソフトウェアによって柔軟かつ迅速に変更できる使い勝手のよさが高く評価された。
富士通の山田徹哉・NFVソリューション事業部事業部長は、「これまで人の手でネットワークケーブルを差し替えていた作業が、手元のパソコンの画面操作でネットワーク構成を瞬時に変えられるのがSDNの魅力」とし、通信キャリアのみならず、一般企業や金融業など幅広い業種で採用が進んでいる。
NECの北風二郎・スマートネットワーク事業部長によると、「ネットワークの迅速な組み替えは、サイバー攻撃を受けた時の防御対策にも大いに役立っている」という。SDN主力でネットワーク制御のオープン・アーキテクチャのOpenFlow(オープンフロー)に準拠し、NECが独自に開発したProgrammableFlow(PF)をベースとしたUNIVERGE PFシリーズは、2011年の発表以来、これまでに250社を超える顧客に納入してきた。

富士通の山田徹哉事業部長(左)と天満尚二アーキテクト
NEC
北風二郎
事業部長 しかし、大手メーカーの強みであるハードウェアとソフトウェアのすり合わせによる専用アプライアンスの方式に待ったをかけるのが、汎用のIAサーバーを使ったネットワーク・アプリケーションソフトウェアのNFVや、SaaS/クラウド型のネットワークサービスの登場だ。NFVではパッケージソフト製品だけでなく、オープンソースソフト(OSS)も出始めており、メーカーのSDN戦略に挑戦状を叩きつける。
ファイアウォールやロードバランサ、スイッチなどのネットワーク機能に加えて、情報セキュリティの統合脅威管理(UTM)までも、汎用IAサーバー上での仮想化の対象となっているなかで、大手メーカー2社はどのような戦略で臨むのか──。一つ目が、オープンでマルチベンダーの環境でも総合ベンダーの競争力を発揮する。二つ目が総合ベンダーとしての強みを生かす。そして三つ目が、ネットワーク全体の運用プラットフォームのポジションを獲得することである。
“オープンな総合力”を生かせ
サーバー上で稼働する仮想マシン(VM)と異なり、ネットワークでは通信をする相手が必ずある。すべて1社でカバーできればいいのだが、現実にはシスコシステムズやブロケードコミュニケーションズシステムズ、F5ネットワークス、A10ネットワークス、パロアルトネットワークスなど専業ベンダーの機器との接続が求められる。ネットワークと密接に関連する情報セキュリティや、SaaS/クラウド型サービス領域も同様で、専業ベンダーが幅を利かせているため、大手メーカーといえども、こうした専業ベンダーとの相互接続性=マルチベンダーに対応したオープンさが必須で、独自性を発揮しにくい。
そのため、サーバーやストレージ、ネットワークのすべての商材をもつ総合ベンダーの強みを生かしたハードウェアとソフトウェアのすり合わせ、加えてオープン、マルチベンダー環境を実現する“運用プラットフォーム”で存在感を発揮していくことで、他社との差異化を図っていく。NECの北風事業部長は、「NFVの仮想化の部分だけに注意を向けると、専業ベンダーや新興ソフトベンチャー企業と、OSS勢の不本意な争いになってしまう」と、自らの強みを生かし切れないまま過当競争の“レッドオーシャン”に飛び込むことは避けたいと本音をのぞかせる。
NECでは、ネットワークを一つのかたまり(テナント=一区画の借り主)と見立てて、テナント単位で制御する「バーチャルテナントネットワーク(VTN)」をSDNの基本戦略に据える。これならば、ネットワークやセキュリティ機器(機能)をオープンアーキテクチャにもとづく自前のソフトウェアによって、包括的な制御が可能だ。各ベンダー機器やソフトとの互換性の検証も込みでNECの総合力を生かし、ワンストップで顧客やSIerなどのビジネスパートナーに提供している。実際、このVTNを打ち出してからはSDN商談が勢いを増しており、直近の上期(4~9月期)は幅広い業種で商談件数が前年同期比で「3倍ほど増えている」(北風事業部長)とほくほく顔だ。
富士通も、「ハードウェア・アプライアンスとNFVのお手軽さ、利便性を合わせもち、かつ大口需要家の通信キャリアだけでなく、広く一般企業への展開を意識したSDN新商材の開発を進めている」(天満尚二・データセンタプラットフォーム事業本部プリンシパルアーキテクト)と、自らのオープンなプラットフォームにNFVも取り込んでいく意欲を示す。
NFVやクラウド型サービスなどの新技術によって、自ら築き上げてきたSDNビジネスを切り崩されるのではなく、むしろこうした新技術をSDNに取り込んで、専業ベンダーやSIerをはじめとした販売パートナーとのエコシステムをどう発展させていくかが、大手メーカーの勝負どころとなりそうだ。