ひときわ感慨深げにステージを見守る人がいる。全国高等専門学校プログラミングコンテスト(高専プロコン)の立ち上げに尽力し、現在はNPO法人高専プロコン交流育成協会の顧問を務める堀内征治先生(長野高専名誉教授)だ。今年で26回目を数える高専プロコンが、長野県で開催されるのは初めて。主管校は、堀内先生が長く教鞭を執った長野高専だ。地元開催にさまざまな想いが交錯しただろう。それを知ってか知らずか、ステージでは予選を勝ち抜いた高専生たちが知力と体力の限界に挑むハイレベルな戦いを繰り広げた。(取材・文/畔上文昭)

熱い戦いを繰り広げる競技部門。各校の画面にあるオレンジ色のものが障害物で、それを避けながら白い石畳をいかにうまく、効率よく置くかを競ったぎりぎりの攻防戦

懇親会で高専プロコンへの熱い想いを語る堀内征治先生 「昨年なら勝ち抜いているよ」「今年はレベルが高い」。戦いを終えて、ステージを降りてきた高専生の会話である。
いわゆる“常連校”以外の健闘も目立ったという第26回高専プロコン。10月11日と12日の2日間、長野県長野市のホクト文化ホールで開催された。今大会のキャッチコピーは、「発想(つの)だせ! 技術(やり)だせ! ずくだせ!」。“ずく”は長野地方の方言で、「やる気」とか「気合い」といった意味だ。
高専プロコンは、例年「課題部門」「自由部門」「競技部門」という三つの審査部門を設けている。これを今年も踏襲し、課題部門のテーマは昨年に引き続き「防災・減災対策と復興支援」。競技部門は「石畳職人Z」という石畳(ブロック)とパズルに埋め込んでいく競技を行った。
勝敗がわかりやすい競技部門は、大いに盛り上がるプロコンの花形だ。競技会場は、収容人数の最も大きい大ホール。司会者二人の派手な演出と、ステージ上のスクリーンに映し出される高専生の奮闘ぶりに、応援に自然と力が入ってしまう。
競技のルールを簡単に説明すると、さまざまな形をした石畳(ブロック)を画面上の空きスペースにきれいに埋めていくというもの。画面上にはオレンジ色の障害物があり、そこには石畳を置くことができない。障害物を避け、いかに多くの石畳を、いかにすばやく置くかで勝敗が決まる。結果発表では、スクリーン上に石畳が置かれていく様子が映し出される。石畳の置き方はチームによって特徴があるので、スクリーンを見ているだけでも十分に楽しめる。
競技部門は初日に予選、二日目に敗者復活戦と準決勝、決勝が行われた。決勝の直前でも、高専生が観客席でアルゴリズムを修正していて、競技終了後に「あそこで変えてよかった」という声が聞こえるほど、ギリギリまで頑張っていた。
競技部門の優勝校は、八戸高専。最後の難題も、きれいにブロックを並べていて、会場を大いに沸かせた。ちなみに、主管校の長野高専は決勝で6位だったが、三校が選出される特別賞に選ばれなかった。三位までは決勝の順位で決まるが、特別賞は決勝までの戦いぶりも評価ポイントになるという。堀内先生は「決勝までの結果が不安定だった」と、少し残念そうだった。
高い完成度と実用性

東芝ソリューション
沖谷宜保
常務取締役
経営企画部長 課題部門と自由部門は、初日がプログラムのコンセプトや社会的役割などをアピールするプレゼンテーション審査、二日目がデモンストレーション審査という構成。プレゼンでは、審査委員から実用性の視点から厳しい質問が出ていた。
デモンストレーション審査では、展示会場に審査委員が出向き、実際の動きを確認。コンセプトだけでは終わらせないという審査委員の厳しい目と、完成度の高さをアピールする高専生とのせめぎ合いだ。二日目の展示会場は、見て回るのが困難になるほど盛り上がっていた。ちなみに、課題部門と自由部門でも、プレゼン後に徹夜の作業で完成度を上げるなど、高専生のパワーには感心せざるを得なかった。
結果として課題部門の最優秀賞に輝いたのは、東京高専の「ホップ!ステップ!マップ!」。小学校の安全活動システムで、実際に使ってもらって調整するなどの取り組みや実用性、完成度の高さが評価された。自由部門の最優秀賞は、弓削商船高専の「Smart AIS」。小型船舶の安全運航をサポートするシステムで、実用性が高く評価された。
次回の高専プロコンは、2016年10月9日と10日の日程で、三重県での開催が予定されている。また、課題部門のテーマは、東京五輪を意識して、「スポーツで切り拓く明るい社会」と発表された。
高専プロコンを支援して10年目
東芝ソリューション
高専プロコンには、海外の学校も多数参加している。東芝ソリューションは、高専プロコンが日本と海外の学生が交流する機会であることを評価し、特別協賛を続けて今回で10年目となった。
「この10年、高専プロコンは大きく進化した。以前は、プログラムをつくって終わりだったが、今は実際に使ってもらって修正するなど、高専生の取り組みには企業の活動に通じるものがある」と、東芝ソリューションの沖谷宜保・常務取締役経営企画部長は感心している。また、東芝ITサービスの八木裕二・取締役人事総務部長は、「将来が楽しみ。今後も高専プロコンをサポートしていきたい」と、ギリギリまで頑張った高専生を評価していた。

右から、東芝ITサービスの八木裕二・取締役人事総務部長、二見敏・人財開発センタ長、鈴木均・ITOサービス統括部統括部長