小売業の東急ハンズ(吉浦勝博社長)は、店舗スタッフにスマートデバイスをもたせて、すべての業務を遂行する体制を整えた。スマートデバイスを効率的に管理するため、子会社でITソリューション事業を手がけるハンズラボ(長谷川秀樹社長)は、アイキューブドシステムズのMDMサービス「CLOMO MDM」を採用。業務に必要なアプリを迅速・柔軟に配布することで、スタッフの業務効率化や接客向上につなげた。
【今回の事例内容】
<導入企業>ハンズラボ小売業向けのITソリューションを提供する会社として2013年4月に設立
<決断した人>長谷川秀樹 社長(写真左)
黒岩裕輔 ITエンジニア
長谷川社長は東急ハンズで執行役員オムニチャネル推進部長も兼務。黒岩氏は生粋のITエンジニア
<課題>店舗内の業務用端末では、最適な情報が収集できず顧客の要望に応えることができなかった
<対策>スマートデバイスの採用を決断してiPod touchを採用。管理するためにMDMサービス「CLOMO MDM」も導入した
<効果>スマートデバイスで店舗スタッフの接客向上につながり、MDMでシステム管理者の業務効率化を実現
<今回の事例から学ぶポイント>コストをかけなくてもIT化によって、社員が業務をしやすい環境をつくることができる
IT化で業務しやすい環境をつくる
他社の店舗と一線を画したユニークで便利な商品を揃える東急ハンズ。最近は、商品スキャンや在庫検索、店舗チェックインができるスマートデバイス用アプリ「東急ハンズアプリ」などによって、バーチャルとリアルを連動させたオムニチャネル化を積極的に推進していることでも知られる。また、顧客向けサービスだけでなく、店舗のスタッフを中心とした業務のIT化にも力を入れている。ただ、IT化を進めるにあたっては極力ITコストを抑えることが必須だった。その役目を果たすため、東急グループ内外の小売業向けにシステム構築を手がける会社として、2013年4月にハンズラボが設立された。
東急ハンズのITコストは、09年度(10年3月期)の時点で売上比0.98%の7億6200万円だった。以降、11年度までは1%前後で推移していたが、12年度に内製化要員を増加。これにより、ITコストが売上比0.78%の6億7800万円に減少した。そして、ハンズラボの設立と同時にハンズラボへのアウトソーシングで、減価償却費以外のITコストを固定化。13年度は売上比0.67%の5億9600万円に減少した。長谷川社長は、「コストをかけず、IT化によっていかに社員が業務をしやすい環境をつくるかが当社の使命」としている。

東急ハンズの店舗スタッフはiPod touchで業務上のさまざまな情報を収集できる 業務がしやすい環境というのは、店舗スタッフも同様だ。以前は、店舗内での業務に関して業務用端末を使っていた。ただ、業務用端末では顧客の要望に対して完全に応えることはできなかった。「お客様の多くは、スマートフォンなどで商品をみて来店するのはあたりまえになっている。お客様の情報と、店舗スタッフが現場で調べることができる情報との間に格差があった」(長谷川社長)。そこで、業務効率化を実現しながら、店舗スタッフが顧客の要望に応えることが可能な環境をつくるために、スマートデバイスの導入を決断したのだ。
iPod touchが最も適している
顧客の要望に応え、しかも業務効率化につながる策として、店舗スタッフにスマートデバイスを配布することになったわけだが、選んだスマートデバイスはアップルのiPod touch。その理由について、長谷川社長は「スマートフォンだと毎月の回線代がかさむ。iPod touchであれば、iPhoneと同様のアプリを使うことができ、しかも初期投資だけで導入後に大きなコストがかからない」としている。アプリのコストに関しては、「Apple Storeに出回っている無料アプリを使えばコストがかからない。ないものは自社でアプリを開発すればいい」(黒岩裕輔・イノベーショングループITエンジニア)というスタンスだ。iPod touchを店舗スタッフに配付すると決断し、今年2月にテストを開始。4月から順次、各店舗で利用が進んで、今では一人1台、2300台のiPod touchが稼働している。それぞれのiPod touchを管理しながらアプリを一斉配信するため、アイキューブドシステムズのCLOMO MDMを採用した。
顧客のメリットを追求
iPod touchで使うアプリは、「配送状況確認」「翻訳」「メッセージ」「スキャン・メモ」「単位換算」「内線通話」など20種類以上に達している。なかには、観光客の多い京都市内の店舗向けに「京都バスアプリ」など、地域に特化したアプリもある。長谷川社長は、「どのアプリケーションも、店舗スタッフのニーズが高かったものを選定している」という。
これらのアプリすべてをハンズラボが各端末に配信しているわけだが、MDMを導入したメリットについて黒岩ITエンジニアは、「アプリケーションの強制インストールを遠隔で行うことができるほか、入社・異動などによる端末利用者の変更作業なども簡単」としている。また、盗難・紛失にあった場合のリモートワイプや端末の探索、拾得者の悪用を防ぐための端末初期化の制限など、強固なセキュリティもメリットにつながっているようだ。
今後、ハンズラボでは「お客様がもっと店舗で楽しめる環境をつくっていきたい」(長谷川社長)との考えを示している。スマートデバイスで店舗スタッフの接客向上につなげたほか、CLOMO MDMでシステム管理者の業務効率化も実現しただけに、今後どのような取り組みを進めるかに注目が集まりそうだ。(佐相彰彦)