今やあらゆる業界で企業の再編が進んでいるが、エネルギーもその波が押し寄せている業界の一つ。4社の事業を統合してできたLPガス元売事業者・ジクシスでは、統合の正式決定からわずか半年あまりで、情報系ITインフラの構築を完了した。スピーディかつ低コストでのインフラ構築を実現できたのは、ネットワークやクラウドから業務端末、電話に至るまでワンストップで利用できるサービスを徹底的に利用したからだ。
【今回の事例内容】
<導入企業>ジクシス2015年4月、エネルギー関連4社のLPガス事業を統合して生まれたLPガス元売事業者。LPガスの製造、卸売業者向けの販売、輸出入などを行う
<決断した人>吉田真典
人事総務本部
情報システム部 次長
昭和シェル石油の情報システム部門を経て現職。4社統合に伴う新オフィスのITインフラ構築プロジェクトを率いる
<課題>新会社で必要なITインフラの規模その他要件が確定しないなか、短期間で情報系システムの構築を行う必要があった
<対策>ネットワーク、クラウド基盤、業務端末を丸ごとアウトソーシングできるIIJのサービス群を利用
<効果>クラウドやモバイルなど最新のITを利用しやすいインフラを短期間かつ低コストで構築。サポートデスクのアウトソーシングにより情報システム部門の運用負荷も軽減した
<今回の事例から学ぶポイント>メニュー化されているサービスを利用することで大幅な低コスト化を図ることができる。また、クラウドから端末まで提供元を一本化することで、サポート業務の外注化が可能になった
ユーザー数未定のインフラ設計
国内経済の規模が飽和から縮小へ向かうなか、さまざまな業界で企業の統合を伴う再編が進んでいる。LPガス業界もその一つで、コスモ石油、昭和シェル石油、住友商事、東燃ゼネラルは、各社のLPガス事業を分割し、4社が25%ずつ出資する新会社・ジクシスに事業を統合した。
ジクシスの親会社4社が、LPガス事業の統合に向けて協議を開始したのは2013年末だが、この時点ではシステム要件は未知数だった。例えば、ユーザー数すら決まっていない。ジクシスは4社の一部事業を切り出して発足するため、社員は各社からの出向者で構成されるが、統合準備段階では各社が何人をジクシスに配属するかの規模感も手探りの状態だったのだ。14年8月に事業統合が正式な契約締結に至り、ようやく要件が少しずつみえてきたが、新体制の始動時期は15年4月と決定済み。本社から全国の支店・営業所に至るまでのITインフラを設計・構築するのに、残された時間はわずか半年あまりだった。
決め手はコストとスピード
販売管理や財務会計といった基幹系システムは、すでにコスモ石油ガスで稼働実績のあったERPを同構成でそのまま移植することにした。問題はネットワークや業務端末などのインフラだ。吉田真典・人事総務本部情報システム部次長は、「規模や予算が完全に固まらないなか、自前でサーバーやソフトウェアなどのIT資産を保有するのは、それ自体がリスクになりかねない」と判断。構築期間が限られていることからも、できる限り「保有」ではなく、サービスとして「利用」できるものを使っていく、いわゆる“持たざるIT”を基本方針とした。
ネットワーク、クラウド基盤、セキュリティサービスに加え、ノートPC(約230台)、固定電話(約200台)の調達を含む提案をITベンダー数社から募ったところ、最も低コストでスピーディな導入が可能なプランを提示したのが、インターネットイニシアティブ(IIJ)だった。とくに初期導入コストは各社の間で最大約3倍の開きがあり、IIJの安さが際立っていた。また、向こう5年間の運用コストを含めたトータルの費用でも、同社の提案が最も低コストだった。
全国9拠点のオフィスと、IIJのクラウド基盤「IIJ GIO」をネットワークで結び、ファイルサーバーやActive DirectoryはIIJ GIOの仮想化プラットフォーム上に構築。メール/グループウェアはマイクロソフトのクラウドサービス「Exchange Online」を利用しているが、IIJ GIO上に構築したActive Directoryフェデレーションサービスによって認証を統合している。そして、当初の要件には含めていなかったが、やはりグループウェアなどのリソースは、携帯端末からも使えるほうが望ましいという声が上がり、PCと固定電話に加え、約130台のiPhone 6を追加で調達することにした。
これらのITインフラはIIJのサービスとして提供され、構築や運用・管理はもちろん、エンドユーザー向けのサポートも含めトータルでIIJ側にアウトソーシングされている。
将来を考える余裕が生まれる
吉田次長は、「ネットワークから端末まで一括で提供されるため、窓口を一本化できた点は大きなメリット」と話す。ジクシスの発足から半年以上大きなトラブルは発生していないが、仮に何かインフラに問題が起きても、原因の切り分けなどで悩むことなく、IIJに問い合わせればよいため、運用負荷が軽減される。端末もサービスの一部として提供されるため、「機器の設定やライセンス管理などの手間から解放されるので、将来的なIT戦略など、次なる打ち手に目を向けることができる」(吉田次長)という。
主要な業務基盤はクラウド上に構築されるため、通信断が発生すると業務が完全に停止してしまうおそれがあるが、各オフィスとクラウドの間の通信は、異なる通信事業者の回線で二重化されており、障害発生時の切り替えも自動的に行われる。マルチキャリアの回線による可用性向上は、独立系通信事業者でネットワーク技術に長けたIIJならではのポイントで、「安心感につながっている」(同)という。業務インフラとしての利便性・信頼性は十分確認できたため、同社では今後BCP対策のためのDaaS型仮想デスクトップ環境など、さらに幅広いクラウドサービスの利用も視野に入れていく考えだ。
フルマネージ型のサービスとしてITを導入したことで、短期間でのインフラ構築と、将来に向けたサービスの拡張性を両立したジクシス。今後も各業界で進むと考えられる企業再編時のインフラ刷新で参考になる事例といえそうだ。(日高彰)