【杭州発】日系パートナー企業と中国に合弁会社を設立し、自社のテクノロジーパークに有する開発リソースを効率的に運用することで、パートナー企業の中国事業を支援する独自のビジネスモデルを築き上げた東忠集団(丁偉儒董事長&CEO)。人件費高騰や円安元高によって、対日オフショア開発の市場環境は苦しいが、丁董事長&CEOは、「産業集約に向かう今こそがチャンスだ」と捉え生き残りを賭ける。一方、中国国内ビジネスについては、「日系企業だからといって、できないことはない」との持論を展開する。(取材・文/上海支局 真鍋武)
急激な円高が裏目に
──対日オフショア開発の市場環境が厳しくなっています。東忠集団は、今どのような状況にあるのでしょうか。 
東忠集団
丁偉儒董事長&CEO
1964年、浙江省麗水市生まれ。85年、天津の南開大学数学学部を卒業後、杭州計算機工場に入社。90年に来日し、日本のシステム開発の会社に勤めた。96年に株式会社東忠、2000年に杭州東忠科技股・有限公司を設立した。15年、杭州東忠科技は中国の中小企業向け店頭市場「新三板」に登録した。 丁 日本で安倍政権が誕生して金融緩和を行って以降、対日オフショア会社は軒並み経営が苦しくなりました。東忠の場合、オフショア開発のモデルは一般的なそれとは異なりますが、2013~15年にかけては結果的に同じ状況になっています。
ただ、実は円安になって欲しいとは思っていました。もともと円安元高を100%確実な将来として見据え、地方にわれわれのモデルを横展開して、コストを吸収することを考えていたからです。ゆっくりとした為替変動であれば、13年までに吉林や成都にわれわれのモデルを広げる予定でした。しかし、地方展開の前に、急激に円安になったことで、対応に追われてしまったということです。
──改めて、東忠のビジネスモデルについて教えてください。 丁 東忠のプラットフォーム戦略は、パートナー企業と合弁会社を設立し、その会社の総経理や財務などの少数メンバーだけをパートナー企業から任命して、残りの幹部チームはわれわれから転籍させ、さらに実際の開発は東忠科技園の開発リソースで請け負うモデルです。パートナー企業に必要な人材リソースは2人程度ですみます。
日本で単価30万円の案件を受注して、エンジニアの稼働率が7割だと、実質単価は21万です。これに家賃や管理費もかかるので、最後の利益は残りません。しかし、われわれのモデルでは、複数の合弁パートナー間で開発リソースを実質的にシェアすることで稼働率は100%近く、家賃も格安で管理費もかかりません。これだと、単価20万円でも利益が出せます。
同じモデルを吉林でつくろうと準備をしていました。完成していたら、今の円安でも十分に収益が上げられます。そこで、香港株式市場に上場して資金を調達し、吉林を大きく立ち上げようとしましたが、円安ショックの影響で収益力が落ちて、上場を断念せざるを得なくなったわけです。
──今後はどうしていかれるおつもりですか。 丁 今のコスト負担増大の時期こそが、産業集約の時だとして、逆にチャンスだと捉えています。日本は2020年の東京五輪までは好景気で、システム開発のニーズも増えます。一方、日本国内のコスト構造は以前と変わっていないので、オフショアに出さないといけません。しかし、中国は円安の影響で、ニーズはあってもオフショア開発を手がける会社が減りました。厳しくなっている今だからこそ、きちんとしたビジネスモデルをもっている東忠には、チャンスがあるのです。
実際、価格交渉に走るオフショア開発会社が多いなかで、東忠はそこに終始していません。例えば、アイシン・エィ・ダブリュ(アイシンAW)との合弁会社は管理レベルが非常に高く、今でもきちんと収益が出せています。
「誰がやるか」ではなく「どうやるか」
──一方、中国国内のIT市場についてはどうみておられますか。 丁 中国は93年に市場経済が生まれ、ここ2~3年まで体が大きくなることに集中してきました。だから、今まで人間でいう頭脳、ITがいらない時代でした。しかし、ようやく体の成長が止まりそうですから、次はITが求められるようになります。東忠の売上比率も、今は日本が大きいですが、将来は中国が大きくなることは間違いありません。
──中国のIT市場は魅力的ですが、実際には苦戦中の日系ITベンダーが多い印象を受けます。 丁 よく「日本企業だから苦戦している」と考える人がいますが、私は違うと考えています。「日本企業のやり方だから苦戦している」だけです。実際、東忠は100%日系企業ですが、中国国内で苦戦している状況にありません。少なくとも、ローカル市場に入り込めないということはない。
われわれは中国中鉄二院工程集団と合弁会社「成都中鉄東忠科技」を設立しています。中国中鉄二院工程集団は、売上高兆元クラスの大手鉄道建設グループです。合弁企業を設立した時期も、日中間で例の島の問題が起きた直後です。
また、つい先日には他の日系企業に先駆けて、新三板(中国の中小企業向け店頭市場である全国中小企業株式譲渡システム)に上場しました。日本のやり方ではなくて、中国のやり方に合わせればできないことはない。「誰」がやるのかは問題でない、「どう」やるかが問題なのです。
──では、中国のやり方とはどんなものですか。 丁 基本的な考え方は、安定市場と成長市場との違いに合わせること。日本を例えれば、「こたつ」です。安定してバランスをとっていて、無理に動かすと壊れます。ですから、日本の意思決定のポイントはリスクヘッジとなります。一方、中国は毎日の変化が激しいので、「自転車」といえます。スピードを出せば安定しますが、そうでなければ倒れます。つまり、中国ビジネスのヒントは、チャンスをつかむこと。これをつかもうとしなければ、リスクになるのです。だって、他の誰かがそのチャンスをつかむのですから。
──ITビジネスの観点では、日本と中国のやり方に違いはありますか。 丁 中国の場合は、ITベンダー側が主導権を握る必要があります。対日オフショア開発の場合は、日本の産業レベルの方が上ですので、どちらか強い方が主導権を握るとなると、日本側になります。一方、中国の場合は、ユーザー自身にとって未知の領域が多い。彼らが何を目指していて、どれをどんな方法でやる必要があるのか、それぞれを見極めて提案していくことが効果的でしょう。