【上海発】NTT DATA(中国)(NDC、松崎義雄総裁)の中国国内ビジネスが好調だ。2014年度(14年12月期)は、国内一般法人向けビジネスの売上高が前年比で倍増した。15年度の売上高も前年比20%増を見込んでいる。自動車メーカーなどの欧米系企業の開拓が堅調に進んでおり、この実績をローカル企業に横展開するケースも増えつつある。松崎総裁に、市場戦略や中国経済の見方について聞いた。(取材・文/上海支局 真鍋武)
地域×グループ連携で差異化
──多くの日系ITベンダーが、中国の日系企業を主要顧客としているのに対して、NDCは欧米系企業の開拓に力を注いでいます。日系企業の対中投資は落ち込んでいますが、欧米系のIT投資傾向についてどうみておられますか。 
NTT DATA(中国)
松崎義雄総裁
東京理科大学理学部を卒業後、1986年4月に日本電信電話に入社。88年7月にNTTデータ通信(現NTTデータ)に転じ、96年3月に香港支店担当課長、99年7月に秘書室課長を務めた。01年2月に辞職したが、09年1月に再入社し、その後はグローバルビジネスを担当。12年7月、NTT DATA(中国)の総裁に就任。 松崎 IT投資の傾向は、日系のお客様と比べてはるかに規模が大きいですし、単金も高くて、意思決定も早いです。NDCでは、従業員約300人の大部分が欧米系を担当していて、日系企業向けの部隊は2割程度となっています。
また、中国の景気減速を日本メディアは積極的に報道していますが、欧米系企業からはそうしたムードは感じられません。むしろ新しいことに一層投資する傾向が強まっています。実際、今は人が足りなくて大変で、とくにコンサルティングやシステム設計などの上流工程の人材や、特定の技術分野に長けている人材が不足しています。安定した人材確保が必要です。
──欧米系企業向けビジネスでは、アクセンチュアやIBMなどのグローバルITベンダーが競合です。簡単に勝てるものでしょうか。 松崎 もちろん、簡単ではありません。しかし、競合に勝てる確率は、確実に高くなっています。チームプレイによって差異化を図っていることが功を奏しています。
例えば、ドイツ系の自動車メーカー向けビジネスでは、グローバルアカウントを設定して、ドイツや日本にいる当社グループの自動車向け部隊と強固に連携しています。地域を跨って顧客にアプローチするだけでなく、人材の行き来も頻繁です。北京には、常駐しているドイツの担当者もいます。連携したミーティングを毎週行っており、四半期に一度は必ず一緒に顧客のもとに足を運んでいます。実は、グローバルITプレイヤーのなかには、こうした地域連携が弱い企業もあるのです。また、中国のなかでは、ネットワークに強いNTTコミュニケーションズなど、NTTグループ間での連携も進めています。
──一方、多くの日系ITベンダーが苦戦している中資(中国資本)系企業向けのビジネスについて、ここ1年の間に成果はありましたか。 松崎 最近では、ドイツ系の自動車メーカーの実績が高く評価されて、中資系の自動車メーカーの仕事をいくつか獲得することができました。それも、欧米系企業との合弁会社ではなく、完全な中資系企業です。日系のお客様よりも、ドイツ系の自動車メーカーと一緒に仕事をしていることが、彼らのマインドに大きく響いています。さらに、中資系といっても、こうした欧米系の事例を横展開するビジネスでは、単金が高く、コスト勝負にはなりにくい傾向があります。競争相手も、日系や地場のITベンダーではなく、グローバルITプレイヤーです。
16年以降も、地道に欧米系の顧客層を増やしていって、中資系に横展開する方向にもっていければいいと考えています。
明暗分かれる中国経済
──中国経済のマクロの見通しを、どうみておられますか。 松崎 悲観的な報道が多いですが、私はそうは考えていません。確かに、GDP成長率は低下してはいますが、それでも7%程度の成長です。日本と比べてみても、段違いに伸びている。
ただし、確かに景気減速につれて、落ち込んでいる分野はあると思います。例えば、公共分野では、重機関係のお客様から、最盛期に比べると案件が半減しているなどの声を聞いています。そうすると、資源分野も落ちてきて、資源を輸送するトラック業も景気が悪化します。
一方で、自動車メーカーのお客様からは、SUVなどの乗用車が非常に好調だと聞きます。日系の自動車メーカーさんも、将来をまったく心配していない。ドイツ系の自動車メーカーさんに至っては、まだまだイケイケのムードです。 つまり、以前はみんなが好景気だったけれども、今は完全に落ち込んでいる分野とすごく好調な分野とで、色がはっきり分かれてきている。きちんと伸びている分野にフォーカスしてビジネスをしていけば、まだ中国ビジネスは拡大できるのです。
また、こうした状況下では、今までのように、ただモノがあれば売れるとは考えにくい。製造業や小売業もきちんとターゲットを絞って、戦略をつくってやらないと生き残れないことがわかってきています。CRM(顧客管理)まわりのニーズは、今後はますます高まるでしょう。
──では、中国IT業界は、明暗どちらに分かれるのでしょうか。 松崎 今は、人材の争奪戦が起きているくらいですから、中国のなかでもホットな業界だと思います。もともとITを使う考えが乏しかったところに、急速にECやモバイルなどが普及し、勢いが変わってきています。
日系ITベンダーにとって大事なことは、こうした新たな動きに対しアンテナを高く張って、いかに自分たちのビジネスに結びつけられるか、常日頃から考えることだと思います。日本には、中国よりも日本のほうがすぐれているのだという幻想を、いまだにもっている人がいます。確かに、システムの運用や異常事態が起きたときの対応などは、日本はすぐれています。しかし、新しいものを採り入れるタイミングやスピードは、中国のほうがはるかに進んでいる。例えば、「支付金(Alipay)」や「微信支付(WeChat Pay)」は、モバイルアプリを活用した電子決済プラットフォームとして、どんどん市場に深く浸透しているし、発展のスピードも速い。こうした先進的なものを自社ビジネスに採り入れる形で動いていかないと、時代に乗り遅れてしまうでしょう。