クラウドへのシフトを進める日本マイクロソフト(平野拓也社長)の、新しいパートナーエコシステムのかたちがみえてきた。今夏、米マイクロソフトは、パートナーがクラウドサービスを再販できる「CSP(クラウド・ソリューション・プロバイダ)プログラム」の適用範囲を拡張し、法人向けのクラウドサービスを網羅的に再販できる体制を整えた。ただし、マイクロソフトのクラウドパートナーのビジネス形態は、製品・サービス単位の再販にとどまらない。日本マイクロソフトは、クラウドビジネスにおけるパートナーの類型をより具体的に示し、新規パートナーの開拓や既存パートナーのクラウドへのシフトを強く推し進めようとしている。(本多和幸)
成長領域には新規パートナー

高橋明宏
執行役常務 マイクロソフトの従来のパートナービジネスは、オンプレミス製品の再販やSIが中心だった。しかし当然ながら、クラウドを前提としたパートナーエコシステムのあり方は、これまでとまったく異なる。クラウドの世界には、パートナーにとってより多様なかたちのビジネスチャンスがある。高橋明宏・執行役常務ゼネラルビジネス担当は、「モバイルファースト、クラウドファーストの時代では、さまざまな種類のパートナーがより柔軟につながるネットワークが不可欠になってきている。マイクロソフトがまだリーチできていない領域にも手を伸ばすことができるように、新しいパートナーとの協業を今まで以上に推進していく。既存のパートナーには、ユーザーのニーズに合わせて、われわれと一緒にビジネスを変革していただく。この二つの軸で、クラウドパートナーのエコシステムを構築していく」と説明する。
日本マイクロソフトは、今年度(2016年6月期)、クラウド関連で新規パートナー1000社を獲得し、既存パートナーを含めて3500社のクラウドパートナー網を整備する計画だが、クラウドで新しい協業を進めていくパートナーを四つの類型に分け、エコシステムを構築していく方針を明らかにした。その四つの類型が、「マネージドサービス」「ISV/IPサービス」「クラウドインテグレーション」「クラウドリセラー」だ(図参照)。
マネージドサービスは、「主にホスティングのビジネスをやっているサービスプロバイダを指し、四つのカテゴリのなかで、今、一番成長している」(高橋執行役常務)という。この数年、コンスタントに年率50%以上の成長を続けている領域だ。一方、文字通り、パッケージソフトなど、パートナー自身の知的財産をマイクロソフトのクラウドに乗せ、新たなサービスとして展開するパートナーの区分が、ISV/IPサービスだ。これまでも、WindowsにおけるISVのエコシステムは存在したが、「とくに日本では、当社のISVのネットワークはオンプレミスに偏っている傾向が強かった。新しい時代に対応するためには、このクラウド化をいかに促進していくかがキーポイントになる」と、高橋執行役常務はここも重要領域であると強調する。
これらの二つのパートナー区分は、当面のクラウドビジネスの成長を牽引する領域でもあり、マイクロソフトとこれまでつきあいの薄かった新規のパートナーを積極的に開拓していく。今年10月には、iOS向けMDMの国内トップベンダーであるアイキューブドシステムズとの協業を発表したが、アイキューブドシステムズはこれを機に、サービス基盤を従来の「Amazon Web Services」から「Microsoft Azure」に移行するとともに、MDM製品のWindows対応を強化することも明らかにしている。こうした事例に象徴されるように、クラウドビジネスですでに成功しつつある競合クラウドサービスプロバイダのパートナーをリクルートし、エコシステムに取り込んでいく方針だ。パートナーにとっては、マイクロソフトの顧客基盤を生かして、さらなるビジネスチャンスの拡大を図ることができるし、マイクロソフトにとっては、クラウドで実績のある魅力的なコンテンツを自社の基盤上に揃えることができる。
既存パートナーのクラウド化も支援
クラウドインテグレーションは、SIとプロジェクトサービスを担うパートナーの区分を指す。現状、ほとんどの商談でクラウドの提案も選択肢として提示するよう求められるようになってきており、SIerにとっては、クラウドに対応できなければ商談から外されてしまうリスクが生じてきている。ただし、マイクロソフトはクラウドとオンプレミスを二者択一で捉えているわけではなく、ハイブリッドでの運用こそ現実解となるケースが多いとしている。「オンプレミスとクラウドのソリューションを両方インテグレートして、お客様の状況に合わせて最適化できるスキル、力を備えておくパートナーと協業していく」(高橋執行役常務)方針だ。
最後のパートナー区分であるクラウドリセラーは、既存の再販パートナーを取り込んでいくためのカテゴリといえる。クラウドビジネスは、単純に製品やサービスを再販するだけでは、大きな成長が見込めない。高橋執行役常務は、「リセラーは、マネージドサービス、ISV/IPサービス、クラウドインテグレーションといかに連携していくかが大事。他のパートナーと連携するという方法もあるし、独自でそういうスキルを身につけてトランスフォームしていくという選択肢もある」として、いずれの方法論を採るにしても、クラウドビジネスへのシフトを積極的に進めるリセラーに対しては、積極的な支援策を展開していく意向を示す。
今年度末までに3500社のクラウドパートナー網を構築するという目標を達成した場合、パートナーの類型の内訳は、マネージドサービスが10%、ISV/IPサービスが15%、クラウドインテグレーションが15%、クラウドリセラーが60%ほどとなる見込みだ。ただし、パートナーによっては複数の区分をカバーすることになるので、数字はあくまでも目安だという。
また、すでに100社弱が登録されているCSPについては、とくに新規のパートナー開拓に注力するマネージドサービスやISV/IPサービスで、「これまでのボリュームライセンスやエンタープライズ契約の仕組みを知らなくても当社のビジネスに参入できる新しい契約として訴求していく」(高橋執行役常務)としており、CSPの普及もマイクロソフトのクラウドビジネス拡大の大きなキーポイントになりそうだ。