ビックカメラグループで家電量販店大手のコジマ(木村一義会長兼社長)は、全国144店舗や事業拠点の通信ネットワーク基盤を刷新した。ネットワーク基盤の構築はSIerのアイティフォーが担当。年間約1000万円のコスト削減につなげるとともに、通信品質を大幅に高めている。また、通信ネットワークの切り替え作業をわずか3時間で行うなど、手際よく刷新しているのも特徴的である。
【今回の事例内容】
<導入企業>コジマビックカメラグループのコジマは、全国144店舗を展開する家電量販店大手。ビックカメラが都心部で存在感を発揮するのに対して、コジマは郊外型の店舗を多くもっているのが強み
<決断した人>コジマ
荒川忠士
取締役執行役員経営企画本部長
今は経営企画担当役員だが、かつては情報システムもみており、情報と経営企画の両方に精通している
<課題>ベストエフォート(最善努力)型の通信ネットワーク基盤では、通信が混み合う時間帯などで不安定になりやすかった
<対策>SLA(品質レベルの保障)型のアイティフォーの「クローズドIPネットワーク」方式を採用
<効果>通信品質が安定するとともに、クローズド(閉域系)ネットワークであるため情報セキュリティも同時に向上した
<今回の事例から学ぶポイント>ネットワーク障害や改修にフットワークよく対応してくれ、かつネットワーク構築の技術もあわせもつSIerをパートナーに選んだ
ネットワークへの依存度が高まる
コジマがこれまで使っていた通信ネットワーク基盤は、ベストエフォート(最善努力)型の性質が強く、ネットワークの通信量が増えると通信速度が不安定になる課題を抱えていた。コジマはビックカメラグループのなかで最も店舗数が多く、郊外型の店舗も少なくない。これら店舗のPOSレジのデータなどをやりとりするのに通信ネットワーク基盤は不可欠であり、通信品質にバラツキがあるのは好ましい状態ではなかった。
かつては店舗ごとにサーバーを置いて、POSレジで使うマスターデータや売り上げ情報を管理するなどの「分散型」だったが、時代の移り変わりとともに、本部での集中管理方式へと変化してきたことも、通信ネットワーク基盤への負荷や依存度が高まっている要因に挙げられる。コジマは、2015年3月にPOSシステムをビックカメラと一本化するなど、ビックカメラグループを挙げて情報システムの強化に取り組んでいる。こうした流れのなかで、ネットワーク基盤の刷新は避けて通れない道であった。
刷新にあたって複数のベンダーから提案を受けたが、コジマは最終的にアイティフォーの「クローズドIPネットワーク」方式を採用した。このネットワークは論理的にクローズド(閉域系)であり、情報セキュリティを担保していることや、基幹ネットワーク(バックボーン)として評価が高いアルテリア・ネットワークス(丸紅グループ)の「VECTANT(ベクタント)」を採用している。そして、これらのネットワークを提供するだけでなく、通信ネットワークのSLA(品質レベルの保障)をアイティフォーが担っていることも採用の決め手となった。
コスト的にみても年間1000万円ほどの削減になる見込みで、「通信ネットワーク基盤の刷新に大きなメリットを感じた」(コジマの荒川忠士・取締役執行役員経営企画本部長)と話している。従来のベストエフォート(最善努力)型のネットワークに比べて通信品質を安定させることが可能で、店舗の再編などでネットワーク構成を変更するときも、アイティフォーによって迅速な対応が期待できると、コジマでは判断した。
切り替えのタイムリミットは3時間

アイティフォー
野口恭弘
部長 アイティフォーのクローズドIPネットワークが本稼働したのは2015年8月。従来のネットワーク網からの切り替えでは、平日はもちろん土日祝も営業しているコジマ店舗の状況を踏まえて、「営業時間外である深夜の限られた時間帯でネットワークの切り替えをしなければならない」(アイティフォーの野口恭弘・ネットワークソリューション事業部営業三部部長)。加えて、もし切り替えに失敗した場合も想定し、元の状態に復元する時間も確保するとなると全国144店舗のネットワークの切り替えに使える時間は約3時間であることが判明する。
そこでアイティフォーでは、全国店舗のネットワーク端末を遠隔リモートで制御できるように設定し、深夜2時になったタイミングで一斉にクローズドIPネットワークへの切り替えをスタート。アイティフォーは、もともとネットワーク構築に強いSIerであり、ネットワーク機器からVECTANTのような通信回線の販売、これらを組み合わせたネットワーク構築に多くの実績をもつ。
また、コジマとアイティフォーの関係は、実は今回が初めてというわけではない。コジマから直接受注した“元請け案件”ではないものの、アイティフォーは大手通信キャリアから請け負うかたちでコジマのネットワーク構築にこれまでも関わってきている。今回は、その経験も役立った。
11年の東日本大震災に伴う原発事故により、東京電力管内が輪番停電に見舞われたときも、アイティフォーは、コジマにPOSレジなどのIT機器を稼働させるためのUPS(無停電電源装置)を納入している。震災直後ということもあり、全国的にUPSの在庫は払底しており、アイティフォーが唯一みつけたのは、被災地である仙台近くのメーカー倉庫だった。UPSを運搬するための道路の復旧を待って数百台の機材を確保。輪番停電が始まる直前にコジマへの納品を果たすなど「困ったときに何かと役立ってくれる」(コジマの荒川取締役)というフットワークのよさも、アイティフォーの「クローズドIPネットワーク」のSLAを裏付けるエピソードの一つとして語り継がれている。(安藤章司)