SCSKが「社運をかけて取り組む」(中井戸信英会長)といって憚(はばか)らない「AUTOSAR(オートザー)」には、どんなビジネスチャンスがあるのだろうか──。AUTOSARは、自動車を制御するOSやミドルウェア、ドライバなどを包含した欧州発のオープン・アーキテクチャに準拠したベーシック・ソフトウェアで、自動車向けOSのデファクトスタンダードの有力候補とされている。国内ではSCSKの他にも、APTJ(高田広章会長=名古屋大学教授)が同分野に参入するなど競争が過熱している。(安藤章司)

SCSK
白木世友
事業企画部長 SCSKのAUTOSARビジネスでは、(1)国内自動車メーカー/部品メーカーへの地の利を生かした売り込みと(2)AUTOSARを足がかりとした独自ビジネスの創出の大きく二つを軸としている。
オープン・アーキテクチャのAUTOSARは、ドイツや米国、インドなどのソフトウェア開発ベンダーが先行して製品化している。今年10月にAUTOSAR準拠の製品「QINeS BSW(クインズ・ビーエスダブリュー)」を開発したSCSKは、最後発組といっても過言ではない。少しでも早く商用化を実現し、(1)の国内を中心とした自動車関連メーカーへの売り込みを本格化させたいSCSKでは、豆蔵やイーソルなど組み込みソフトウェア開発に強い5社と協業して、開発や販売にあたっている。
まずは、地の利を生かして国内メーカー向けのビジネスを立ち上げるとともに、将来の自動運転やロボットカーといった領域も視野に入れ、「自動車に絡むIT化がどのような変化を起こしたとしても対応できる」(SCSKの白木世友・車載システム事業本部事業企画部長)体制をつくることで、(2)の独自ビジネスのチャンスを虎視眈々と狙う。
SCSKの前身の1社である旧CSKでは、1980年代から30年余りにわたって自動車向け組み込みソフトウェアの開発を手がけてきた。だが当時手がけていたビジネスは、自動車関連メーカーからの、いわゆる受託開発の方式で、旧CSK側から独自のアーキテクチャや先進技術を提案し、主体的に実装していくポジションになかった。しかし今回、QINeS BSWを手にしたことによって、「自動車メーカーに対して、自社のソフトウェアプロダクトを提案していくポジションになった」(同)ことが、従来型の組み込みソフトウェア開発ビジネスと一線を画す点だ。
自動車のIT化は、「これまでの延長線上では見通せないほど大きな変化を遂げる」とSCSKではみており、手始めとしてAUTOSAR準拠の自社ソフトウェアからスタートし、今後のビジネスの変化を見通したうえで、先手を打っていけるよう舵取りをしていく。ただ、AUTOSAR準拠のベーシック・ソフトウェアを開発するだけでは、欧州をはじめとする海外ベンダーに「追いつきこそすれ、決して追い抜くことはできない」と、AUTOSARを足がかりに非連続の変化をチャンスにつなげることで、自動車向け組み込みソフトウェアビジネスを飛躍的に伸ばしていきたいとしている。
国内AUTOSARビジネスを巡っては、ライバルのAPTJが組み込みソフトウェア開発大手の富士ソフトや永和システムマネジメント、サニー技研、東海ソフトなどから資金を得るとともに、豊田自動織機など自動車関連メーカーとの共同開発も進めている。APTJの高田広章会長は、「総額で10億円規模の資金調達に道筋をつけている」としており、SCSK陣営とAPTJ陣営がAUTOSARビジネスで激しい競争を繰り広げていく様相を示す。SCSKでは、2018年度には有意な売上規模が期待できるとし、将来的には2000~3000億円規模のビジネスに育てていく方針だ。