創業以来120年余り続いてきた“紙の伝票”による業務が、ついに終焉を迎えた。福島県の有力紙・福島民報社は、昨年、伝票による広告管理業務をシステム化した。近年は複写伝票やファクシミリによる効率化を進めてきたものの、「脱アナログまでする必要性は感じていない」状態が続いていた。だが、時代や環境の変化を受けてシステム化を決意。2015年6月のシステム本稼働によって、従来の紙伝票やファクシミリは、原則として全廃するに至った。
【今回の事例内容】
<導入企業>福島民報社福島民報社は1892年の創業、来年125周年を迎える。今年3月の東日本大震災5周年のときは24ページにわたる追悼特集を組むなど、地元福島県の県民紙としての役割を果たしている
<決断した人>清野昭宏
副部長
120年余り続いてきた“紙の伝票”による広告管理業務に終止符を打ち、システム化の指揮を執った
<課題>広告管理の業務に紙の伝票とファクシミリを使う、昔ながらのやり方が残っていた
<対策>インテックの「広告管理システム」によってシステム化
<効果>紙の伝票やファクシミリを全廃し、システムに落とし込むことで業務の効率化を実現
<今回の事例から学ぶポイント>システム化に不慣れなユーザーでも、業務に精通したSIerと組むことでスムーズに移行できる
足かけ10年の粘り強い営業
福島民報社の広告管理業務は、1892年の創業以来、ずっと紙の伝票で業務をこなしてきた。途中からファクシミリが加わったとはいえ、基本的にアナログのまま。福島民報社の清野昭宏・広告管理部副部長は、「紙伝票やファクシミリのよさは、手にもって確実に見られること」だと話す。もちろんパソコンもあるし、電子メールも使っているのだが、これらはあくまでも補助的な存在で、伝票を手書きで起こして、経理担当者は会計システムに紙の伝票を見ながら手で数字を打ち込んでいく昔ながらのやり方だった。

福島民報社の社屋全景
インテック
杉野敦司
主任 ITホールディングスグループのインテックは、全国の地方有力新聞社に、こうしたアナログ業務が色濃く残っていることに早くから着目しており、独自に「広告管理システム」を開発。当初は新聞社ごとに手組みでつくっていたが、途中からカスタマイズ可能なパッケージ製品に仕立てている。インテックが最初に福島民報社へアプローチをかけたのは、今から約10年前だが、そのときは「『急いでシステム化する必要性は感じない』と、やんわりと断られてしまった」(インテックの杉野敦司・メディアセンター開発グループ主任)ものの、粘り強く営業を続けていった。
転機が訪れたのは、編集や組版のシステムを更新するタイミングで、広告管理業務もシステム化する機運が盛り上がったときだった。広告のカラー原稿が増え、広告主によるPDFによる原稿チェックのニーズも高まっていたこともあり、インテックの提案を受け入れることにした。要件定義は2014年6月から秋口までの数か月のあいだ念入りに行い、1年がかりで本稼働させた。これまでの紙伝票やファクシミリで行っていた広告管理業務は、「原則として全廃する」(清野副部長)ことに成功している。
「想像以上」の業務効率化へ
手書き伝票がなくなったことで、広告部門で伝票の書き起こし作業がなくなったばかりか、経理部門も広告部門から回ってきた伝票を会計システムに手入力しなくても済み「業務効率化の効果は想像以上」(清野副部長)だった。
福島民報社では、現在、1面あたり15段で組んでいるが、出稿内容によっては1か月のあいだに30段分掲載してくれればよいとか、4月第三週に計3回掲載してほしいといった変則的な出稿が少なからずある。また、どこの支社支局で受注したものなのか、代理店経由の有無、なかには支局ですでに請求書を客先に手で持っていったので本社から郵送しなくてもいいといった受発注に関することも含めて、アナログ時代は伝票と人手で間違いないよう何重にもチェックし、品質を維持していた。
システムによって自動化できたわけだが、本稼働直後は、一部がシステムに十分に吸収しきれていないところもあった。あるときは「夜の10時過ぎにインテックの杉野さんに電話で問い合わせたこともあったが、まるで杉野さんの目の前に操作画面があるかのように、的確に教えてくれた」(清野副部長)といい、操作や運用について相談に乗ってくれたり、場合によってはシステムの修正対応もしてもらった。インテックの自社製のシステムだけに即断即答で問題を解決できた。
今年の6月を過ぎれば、過年分のデータを参照できるようになる。例えば、毎年恒例のお中元・お歳暮、クリスマス、新年、バレンタインデーなどの過去の出稿状況を参照して、営業に役立てたり、昨年の伝票に手を加えて再利用することで作業を軽減できるようになる。さらに年月がたてば5年前に5周年記念広告を出稿してもらった顧客に、10周年の広告出稿を提案するといったことにも役立てられる。
インテックの広告管理システムは、システムの完成度の高さに加えて、同時被災の可能性が少ない遠隔地にバックアップをとれる事業継続の性能が評価され、今年1月、日本新聞協会の「技術奨励賞」を受賞している。福島民報社では、まだ遠隔地バックアップまではやっていないが、インテックでは、「今後、事業継続の強化につながる仕組みを採用してもらえるよう働きかけていきたい」(インテックの杉野主任)としている。(安藤章司)