【上海発】中国でセゾン情報システムズ(内田和弘社長)のパッケージソフト販売事業が勢いづいている。中国現地法人の世存信息技術(上海)(張圃総経理)は、2015年度(15年12月期)の販売事業売上高が前年度比で約80%成長した。それも、顧客の8割方は中国のローカル企業が占めている。16年度はHULFT IoTの提供を開始し、さらに事業強化を図る。(上海支局 真鍋武)

張圃
総経理 世存信息技術(上海)は、2011年頃から販売事業を本格化。当初から主要ターゲットを現地ローカル企業に置いている。ファイル転送ツールの英語版「HULFT 7e」、その中国語版「海度」に加えて、14年からはアプレッソのデータ連携ソフトの英語版「海度 DataSpider」も提供。同年度には販売事業の黒字化に成功している。
日系IT企業で中国のローカルビジネスが軌道に乗っているケースは極めて少ない。世存信息技術(上海)の好調の背景には、独自の販売戦略がある。ローカル企業のなかでは金融業、通信業、国有企業が中国企業のIT投資の大部分を占めているとみて、主なターゲットとした。IT投資が旺盛であれば、システム環境が発展しているため、データ連携のニーズも多い。さらに、例えば金融業では、大手でなく地方の銀行や保険、証券会社を中心に開拓するなど、外資でも比較的入り込みやすい領域を優先している。また、現地IT企業を通しての間接販売を主体としており、OEM供給やバンドルなどを通して、パートナーの製品に組み合わせて提供するケースが多い。中国のローカル企業は、特定の“お抱えの地場IT企業”に優先してIT導入を依頼するため、外資である世存信息技術(上海)にはパートナーの存在が有効に働く。国有企業など、中国産IT製品を優先採用する企業があることを考慮し、海度を現地パートナー企業にOEM供給して「得安天信」の名称で提供するといった施策も講じている。同時に張総経理は、「この4年間をかけて、人脈ネットワークの構築にも力を注いできた」と語る。
16年夏頃には、新たな戦略商材HULFT IoTの販売を開始する。これは、IoT活用に不可欠な各種デバイスとシステム間のデータ連携プロセスを整えるもの。中国政府は、2020年までの「第13次5か年計画」でIoT活用推進を重大政策に掲げており、発展余地が大きい。すでに地場IT企業は、IoT普及に向けた活動を精力的に行っている。IDC中国によれば、中国のユーザー企業のIoT認知度は、グローバルのそれを9.7%上回る98.8%。張総経理は、「16~17年は大きなチャンス。ここで攻めなければ、競合にIoT市場を先取りされる」とみている。
HULFT IoTの最初のターゲットは、中国の養老施設だ。養老施設は、監視カメラや入居者が装着する感知機器、動態センサなど、デバイスが豊富。さらに、中国では新規産業であるため、規制が少なく外資が参入しやすい。また、昨年12月に開催された世界インターネット大会で、習近平国家主席が養老施設の展示ブースを視察したことを受けて、張総経理は「養老分野への大きなIT投資が期待できる」とみる。これは、習国家主席の行動が、中国政府の各種産業に対する優先順位を示す判断基準とされているためだ。
世存信息技術(上海)は、昨年12月に中国でHULFT IoTの発表会を行い、今年3月にも現地SIer向け説明会を開催して約120人を集客した。説明会で回収したアンケートでは、「このうちの15社程度が扱う意向を示した」(同)という。また、今後は中国科学院のIoT研究発展センターなどと共同実験室を開設し、中国市場でのIoT応用研究を進める予定だ。張総経理は、「世界No.1のIoTソリューションとして、HULFT IoTを中国市場にアピールしたい」と意欲をみせる。