ASEAN地域は、昨年末にASEAN経済共同体(AEC)が発足したこともあり、一層の経済発展が期待されるエリアだ。しかし、各国の状況を細かくみれば、当然ながら一様に右肩上がりの成長を続けているわけではなく、同地域における日系企業のビジネスも、より精緻な戦略が求められるようになっている。結果として、彼らを支えるITベンダーのASEANビジネスも転換期を迎えているといえよう。早くからタイに拠点を置き、ASEAN地域で成果を上げている数少ない国産パッケージベンダーである東洋ビジネスエンジニアリング(B-EN-G)の取り組みを現地で取材し、ASEAN市場のポテンシャルやITビジネスの成功のヒントを探った。(取材・文/本多和幸)
ASEANビジネスの中核を担うB-EN-Gのタイ法人

B-EN-Gタイ
渡邉祐一
ゼネラルマネージャー/
ディレクター B-EN-Gは、SAPやオラクルの有力パートナーであり、システムインテグレーションが事業の柱の一つではあるものの、近年はパッケージソフトメーカーとしてのプレゼンス向上が顕著だ。看板製品はなんといっても、生産・販売・原価管理パッケージの「MCFrame」だ。また、会計を中心とした海外現地法人向けのコンパクトなERPパッケージ「A.S.I.A.」も順調にユーザーを増やしている。SIも、自社プロダクトも、製造業の基幹システム領域を中心に強みを発揮してきたといえるが、最近では、AWSとパートナーシップを結び、製造業向けの高度なサプライチェーンマネジメントなど、IoTソリューション事業も本格化させる方針を示している。
同社は現在、上海、タイ、インドネシア、シンガポールに現地法人を置いて海外ビジネスを展開しているが、タイ法人のToyo Business Engineering(Thailand)(B-EN-Gタイ)は海外法人で最も古い歴史をもち、ASEAN地域のビジネスで中心的な役割を果たしている。自動車製造業を中心に、日系メーカーがタイに多数進出していることを考えれば、自然な流れでもある。ビジネスの主軸は、MCFrame、A.S.I.A.のライセンス販売と導入・運用支援などだ。
B-EN-Gタイの設立は、2003年まで遡る。もともとA.S.I.A.を提供していたエイジアン・パートナーズが、同年、バンコクに設立した現地法人が現在のB-EN-Gタイの源流だ。その後、A.S.I.A.は2007年にB-EN-Gに事業譲渡され、タイ法人も社名変更し、B-EN-Gタイが発足。翌08年には、MCFrameの提供も開始した。つまり、B-EN-Gタイは、MCFrameでも8年、A.S.I.A.に至っては13年にわたってビジネスを展開してきた歴史があるということになる。現在、ASEAN地域では、A.S.I.A.156拠点、MCFrameは26拠点への導入実績がある。

日本車のシェアは8割を超えるが、タイ経済は決して順風満帆ではないMCFrameのローカルユーザー獲得へ
この両パッケージの成長、とくにASEAN地域での導入増は、B-EN-Gにとって非常にポジティブな要素だったといえる。ただし、ここにきてタイ経済の不調が、大きな課題となってのしかかってきている。
タイでは、日本車は準国産車としての地位を獲得しており、8割以上のシェアを誇る。製造拠点、部品供給体制も含めて国内に製造環境が整っているからだが、タイ工業省によれば、近年、自動車生産は落ち込んでおり、とくに国内需要の低迷が顕著だという。タイ政府は、自動車の国内出荷の回復には向こう3年を要するとみている。また、税制・雇用の優遇措置などに関する制度変更があったとはいえ、2015年の海外からタイへの直接投資が前年の10分の1程度に急落したことも見逃せない。
結果として、タイに進出した日系企業は、総じてIT投資に慎重になっている。B-EN-Gタイの渡邉祐一・ゼネラルマネージャー/ディレクターは、「タイに来て6年目だが、15年は過去経験したことがないほど厳しい年だった」と振り返り、ビジネスモデルの転換期を迎えていることを示唆する。
その一環として、現在取り組んでいる大きなチャレンジの一つが、MCFrameのローカルユーザーの獲得だ。渡邉ゼネラルマネージャーは、「軸足が日系のお客様であることは変わりない」と前置きしつつも、「タイのローカル企業には、日本の製造業や、そのクオリティを支える“カイゼン”(改善)の手法に対する尊敬がある。MCFrameは、カイゼンを支えるパッケージであり、現状、タイ国内では日系のお客様のみだが、ローカル企業への導入を必ず実現する。今年中には最低一件、受注するのが私のミッション」と意気込む。