通信関連のソフトウェアを手がけるキャセイ・トライテック(中原隆志社長)が、テレビ電話端末をベースとする在宅介護サービス向け端末を開発した。かつて携帯電話用ソフトウェアの受託を主力としていた同社だが、M2M需要の高まりやMVNO市場の盛り上がりを商機と捉え、自社企画の製品やソリューションで生き残りを図る。(日高 彰)

東堂園俊治
執行役員 1995年に創業したキャセイ・トライテックは当初、国内大手メーカーの携帯電話に組み込まれるソフトウェアの受託開発を主力としていたが、近年は国内メーカーの携帯電話事業が各社とも不振となり、ビジネス領域の再構築を余儀なくされていた。そのなかで、M2M通信や、法人向けのモバイル関連ソリューションに活路を見出し、現在は通信モジュールやテレビ電話端末、デジタルサイネージシステムなどの開発・販売・保守を新たな事業の柱として育てている。加えて、新規事業として自社ブランドのSIMフリースマートフォンも発売し、ヤマダ電機傘下のインバースネットなどを通じてコンシューマ市場で販売するほか、業務用端末として法人向けのカスタマイズ対応なども行っている。
今回開発した在宅介護向け端末は、昨年発売したテレビ電話端末「タッチフォン」をベースとしているが、介護・医療関係者へのヒアリングをもとに設計した専用の画面を搭載しており、高齢者が安否確認や緊急通報といった機能にワンタッチでアクセスできるのが特徴。3G通信機能を内蔵しており、電源に接続するだけですぐに利用開始できる。高齢者の見守りや在宅医療支援のサービスを運営しているNPO法人とパートナーシップを組み、見守りサービス用の端末として展開する予定。また、介護事業者を顧客にもつSIer向けに端末単体でも提供が可能なほか、MVNOなどの通信事業者に対して介護・医療市場の開拓につながるソリューションとして提案を図る。
キャセイ・トライテックでマーケティングを統括する東堂園俊治・執行役員は、「60~70歳前後のシニア層はすでにモバイル端末を積極的に活用しているが、70代以上では新たな機器を常時持たされることに抵抗をもつ人が少なくない」と指摘し、高齢者向けの“見守り携帯”では介護市場のニーズを満たすことができないため、あえて卓上据え置き型の形態を採用したと説明。
その一方、現在在宅介護サービスで使われている安否確認端末の多くは、固定電話回線を使用しており、システムの拡張性に乏しいほか、サービス契約終了時に高齢者宅の電話回線の撤去で煩雑な作業が発生するなど、介護事業者にとって不便な面が多いという。MVNOの低廉なモバイル回線サービスを利用すれば、通信料は固定電話よりもむしろ安くなる可能性もあるほか、介護事業者側でSIMカードを用意することもできるので、コスト・手間の両面で有利なソリューションだとしている。同社では、介護市場において一定のシェアを獲得した後に、同じ機能をモバイル環境でも使える端末として、介護・医療向けにカスタマイズしたスマートフォンも開発・提案していく計画。
また、東堂園執行役員は「端末に接続する周辺機器のドライバ開発や、携帯電話網との接続性の検証など、われわれが強みとする技術やノウハウをM2M/IoT市場で活用していきたい」と話しており、他社との連携も含め、通信関連のソフトウェア技術を生かすことができる案件を発掘し、収益性を高めていく考え。モバイル業界における“受託から提案への転換”のモデルとなるか、注目される。