「世界の工場」から「世界の市場」へと変貌を遂げつつある中国。日系ITベンダーは、どのようにビジネスを拡大しようとしているのか。今年4月1日付で総経理に就任した現地のキーパーソンに、これまでの進捗状況や現在の市況感、今後の戦略を聞いた。(構成:真鍋 武)
新日鉄住金軟件(上海)
新日鉄住金ソリューションズ
五味 ・ 総経理
生年 1967年
出身 東京都
●5大戦略で事業拡大 「受注拡大」「ウォレットシェア」「品質向上」「研究開発」「人材育成」の5大戦略を軸に、事業を拡大する。
核となるのは、「受注拡大」だ。顧客対象や提案内容の幅を広げて実現する。強みとする製造業に加え、手薄だった流通・サービス業、金融業への提案を加速。また、得意分野のシステム共通基盤「intra-mart」案件では、経費精算などのパッケージ型案件に加え、基幹系システムとの連携といった新たな切り口の提案を進める。
新日鉄住金グループのITサポートで培った高品質な運用サービスにも力を注ぐ。クラウドサービス「absonne for China」では、ITリソースのアウトソーシングだけでなく、運用のアウトソーシングという切り口でも提案する。独自の業務機能テンプレート群「NS BizBooster」をクラウド上でSaaS提供するなど、サービス充実も図る。
「ウォレットシェア」では、受注拡大に向け既存顧客からの追加案件獲得に注力し、顧客にとって最大のシステム案件発注先になることを目指す。同時に、中国で低コストなサービス提供はあたりまえとみて、顧客の信頼をさらに高めるための「品質向上」を推進する。
「研究開発」では、IoT領域に注目している。工場での点検・保全業務など、人の作業を支援するIoT商材をユーザーと共同で開発し、これを“リバース・イノベーション”として、将来日本で販売する構想だ。
一方、「人材育成」では、現地スタッフを中心とした会社づくりを進める。これに先立って、今年1月に組織再編を実施し、事業を七つのセグメントに分け、各責任者を中国人スタッフとした。
16年度は、5大キーワードを軸に受注・売上・利益の2ケタ成長を目指す。
艾杰(上海)通信技術
IIJグローバルソリューションズ
西俣辰男 董事長総経理
生年 1962年
出身 埼玉県
●新たなクラウドで営業強化 今年1月にクラウドサービス「IIJ GIO CHINAサービス」の新ラインアップとして、ホステッド型プライベートクラウド「仮想化プラットフォーム VWシリーズ」の提供を開始した。これは、VMware仮想化基盤を搭載したサーバーを貸し出すサービスだ。ユーザーは自前でITリソースを購入したり運用したりする必要がなく、初期投資を抑えられる。
これまでの顧客は、中国の日系企業が中心だったが、「VWシリーズ」では、ターゲット領域をローカル企業に広げている。中国でローカルビジネスを推進するには、地場企業との協業が有効にはたらく。そこで、新たに現地DC事業者の上海数訊信息技術(SDS)と手を結んだ。同社は、すぐれたDCを保有しており、クラウドの技術も求めていた。すでにノウハウを保有しており、新サービスで非日系企業を開拓したいIIJと、事業展開にあたってのベクトルがうまく合致している。
中国では、パブリッククラウドの市場は著しく発展しており、ITベンダー間の競争も激しくなっている。この市場で勝ち抜くことは簡単ではない。一方で、プライベートクラウドの領域は、まだ競合も多いとはいえず、自社の特徴を生かすことができる。開拓余地は大きい。
当面は「VWシリーズ」の販売に力を注ぎ、SDSと連携しながら、彼らの既存顧客であるローカル企業の開拓を進める。同時に、IIJ GIO CHINAサービスの既存顧客である日系ユーザーのプライベートクラウドへの移行も進める。まずは20・30社の顧客を獲得が目標だ。
現時点では順調に推移しており、来年半ばには、事業の単月黒字化を達成する見込みだ。
逓天斯(上海)軟件技術
DTS
下川 潤 総経理
生年 1972年
出身 東京都
●地に足をつけた変革 日本本社は、2018年度までの中期経営計画「Change! for the Next」を新たに掲げ、これを各グループ会社に展開している。中国では、手元の業務にきちんと取り組みながら、着実に変革を遂げていく。
大きな方針として、16年度は我慢の年とする。売上高は伸ばさず、利益ある筋肉質な経営を目指す。2年目は、組み合わせのソリューションや人材育成を進め、仕上げとなる3年目に体格を大きくして、骨太な経営体制を整える。この実現に向け、まずは社員のポジション、ミッション、意識の改革を進め、モチベーションの向上に努める。
現在、日系企業の投資意欲は、あまり高くはない。どちらかといえば、維持管理に重きを置いている印象が強い。しかし、システムには必ず寿命があり、大なり小なり複数のシステムで会社の業務は成り立っている。システムの更改や統合といったニーズは、国を問わず必ずある。一件一件、顧客を改めて訪問し、まだ掘り起こせていない課題に対して、御用聞きでなくプッシュ型で解決案を提案していく。特徴があるソフトウェアを組み合わせて、顧客に最適なソリューションを提供する。
独自の購買・販売・在庫管理ソリューション「Ric's」も進化させる。価格帯やスペック、サービスプランを含め、顧客のニーズに適合する製品に強化する。スマートフォン対応も進める。
中国の経済成長は鈍化しているが、サービス業など、衣食住にまつわる領域は順調に発展している。例えばECなどは、IT業界のトップリーダーが市場に参入し、群雄割拠の状態となっている。こうした領域から学ぶことは多い。市場をよく観察し、ヒントを得ることで、新たなBtoBビジネスを創出していく。