【貴陽発】5月25~29日、貴州省貴陽市で中国最大のビッグデータ関連イベント「2016中国ビッグデータ産業サミット(数博会=BIG DATA EXPO 2016)が開催された。今年から国家級のイベントに格上げされた「BIG DATA EXPO 2016」には、中国政府の要人やIT企業のトップ層などが集結し、中国政府のビッグデータ産業振興に対する本気度をうかがわせた。約300社が出展する展示会や60のテーマに沿ったカンファレンスが行われ、4日間で約9万人が来場。昨年以上の盛り上がりをみせた。(上海支局 真鍋 武)
李克強首相が登場
中国政府のビッグデータ産業に対する期待は日増しに高まっている。中国国務院は昨年9月、「ビッグデータ発展促進行動要綱」を公表し、全国レベルでビッグデータ活用を進める方針を示した。今年3月に採択された2020年までの「第13次5か年計画」には、ビッグデータ応用の推進が初めて盛り込まれた。調査会社IDCは、15~20年までの中国ビッグデータ産業規模の年平均成長率を13.5%、20年の市場規模を5兆4400億元と予測する。「BIG DATA EXPO」は、昨年の第1回大会は貴陽市人民政府が主催したが、今年は中国国家発展改革委員会(NDRC)と共催する国家級イベントへと昇格した。

国家級のイベントに格上げされた「BIG DATA EXPO 2016」


開幕式では
李克強首相が基調講演 初日の開幕式には、中国政府の同産業に対する位置づけを象徴するかのように、李克強首相が出席し、基調講演を行った。李首相は、「地理環境と自然条件の制限によって、(貴州は)中国のなかでも未発達な省である」と前置きしつつも、「情報産業においては、ビッグデータ・クラウド・IoTなどが代表する新世代インターネット発展のトレンドのなかで、すべての国家・地域は努力を経て同じスタートラインに立つことができる。場合によっては、遅れた地域が新たなチャンスをつかむことも可能だ」と主張。貴州省のビッグデータ産業の発展への期待を示すとともに、「中国の東部地域で成長してきた企業に、とくに貴州が代表する西部地域にも移転してほしい」と述べた。
貴州省は、今年2月25日、NDRCなどの批准を経て、正式に中国初の「国家ビッグデータ(貴州)総合試験区」に認定された。3月1日には「貴州省ビッグデータ発展促進応用条例」が正式に施行され、産業振興を急ピッチで進めている。すでに貴州は、中国の省政府で初となるクラウドサービスプラットフォーム「雲上貴州」を構築し、1日あたりのアクセス件数は10億件を超えているという。また、省内には政府11部門・委員会、10の業界、20を超える企業のデータセンター(DC)が設置されている。中国初のビッグデータ取引所として昨年営業を開始した貴陽ビッグデータ取引所(GBDEX)では、会員数が410社、累計取引額が7000万元を突破した。
存在感示すデル

テンセント
馬化騰
董事会主席兼CEO 開幕式では、中国政府の要人のほかに、騰訊(テンセント)や百度(バイドゥ)、アリババグループなど、IT業界のトップ層15人が基調講演をした。中国の地方都市で行われるイベントに、こうした面々が集まるのは極めて稀だ。中国政府と足並みを揃えて市場開拓に臨むIT企業にとっても、貴州省への関心が高まっている。テンセントの馬化騰・董事会主席兼CEOは、「貴州省には、DCを建設するにあたって多くの優位性がある」との見解を示した。貴州は年間を通して温度差が少なく、気候に恵まれた地域として知られる。また、資源が豊富にあり、石炭・水力・火力・太陽光パネルによる発電が盛んで電気価格も安い。地盤も安定しており、マグニチュード4以上の地震がほとんどないなど、自然災害のリスクが小さい。馬・董事会主席兼CEOは、「貴州にビッグデータセンターを設けることを検討していく」と方針を語った。
大手IT企業が名を連ねた「BIG DATA EXPO 2016」のなかで、もっとも存在感を示したのがデルだ。同社は外資系ベンダーでは唯一、同イベントの戦略パートナーに参画したほか、米国本社からマイケル・デル会長兼CEOが参加し、開幕式では基調講演を行った。デルは昨年9月、中国市場に対して20年までに1250億米ドルもの巨額投資することを表明している。

李克強首相と会談する米デルのマイケル・デル会長兼CEO
印象的だったのが、開幕前日に李克強首相と行った座談会だ。中国政府の要人とIT業界の経営者ら約140人が出席したこの会合で、デル会長兼CEOはなんと司会進行役を務めた。政府主催のイベントで、外資系IT企業の本社トップが司会を務めるのは稀だ。それだけ、デルは中国市場に深くコミットしていることになる。デル会長兼CEOは李克強首相との会談のなかで、「中国は現在、デルにとって米国に次ぐ2番目の巨大市場であり、グローバルビジネスの成長エンジンだ」と説明。昨年発表した新たな「中国4.0戦略」については、「中国が『第13次5か年計画』で設定した目標を成し遂げ、革新的かつ持続的で、調和のとれたな社会の発展と繁栄を続けていくという強い確信にもとづいて策定した」と述べた。デルは昨年、貴陽市人民政府ともビッグデータ産業振興の支援に関する戦略提携を結んでおり、このイベントでは連携の強化を発表。地場企業の貴州優特雲科技と協力して、同社のハイブリッドクラウドプラットフォーム「優特雲(YottaCloud)」に対して、ハードウェアとソフトウェア面で支援していくという。

開催前日には中国政府・IT業界の重鎮を集めた座談会が行われた
展示会には外資が多数出展

展示会には名立たるIT企業約300社が出展
展示会には、6万m
2のフロアに約300社が出展し、1000あまりの最新商品を紹介した。特徴的だったのは、デルを筆頭に、SAP、クアルコム、インテル、マイクロソフト、オラクル、Hewlett Packard Enterprise(HPE)など、多くの外資系ITベンダーが出展していたことだ。実は、中国のITイベントでは、外資系IT企業が大きなブースを構えて商材をアピールすることはあまりない。同時期に北京で開催された「第20回中国国際ソフトウェア博覧会(INT’L SOFT CHINA 2016)」でも、外資系IT企業の出展はほとんどなかった。中国政府肝煎りのイベントである「BIG DATA 2016」だけに、政府との関係強化を図りたいという外資系ITベンダーの思惑が透けてみえた。一方、日系ITベンダーの出展はゼロ。唯一日系で出展していたのは、貴陽市に人材育成サービスの子会社をもつ成都生涯科技(ユーキャンチャイナ)だけだった。
会期中には、新たな発表も多数行われた。チップメーカーのクアルコムは、中国の新たな投資会社である高通(中国)控股有限公司の正式な設立を発表。ネットワーク機器メーカーのブロケード コミュニケーションズ システムズは、貴陽高新産業投資集団との合弁会社の設立を宣言した。マイクロソフトやSAPも、貴州省政府との提携強化を明らかにした。
展示会場には、IT関係者だけでなく、地元の住民や学生の参加も多数みられた。会場周辺の学校では、会期中の授業を休講とし、イベントへの参加を推奨するという異例の措置も取られたもようだ。貴州省は中国のビッグデータ産業における先進地域を目指しているだけに、地域住民の関心や産業振興へのモチベーションを高める必要がある。主催者発表によると、今年の「BIG DATA EXPO」には4日間でおよそ9万人が来場したという。
人材不足の解消がカギ
貴州省では、20年までのビッグデータ関連産業規模を5000億元にまで引き上げる目標を掲げている。また、調査会社IDCでは、同省のビッグデータ関連産業規模について、15~20年までの年平均成長率を35.5%、20年の産業規模を3948億元と予測。いずれにせよ、中国全体の同産業の成長率を大きく上回る数字だ。しかし、これは順調に産業振興が進めばの話。実際には、課題も残っている。

日系で唯一出展したユーキャンチャイナの梶原英樹総経理
その筆頭が、人材不足だ。貴州省は、積極的に企業誘致を進めているが、産業の担い手である高度な人材が圧倒的に足りていない。貴陽でコールセンター管理者やIT技術者の育成サービスを手がけるユーキャンチャイナの梶原英樹総経理は、「貴陽では、どのコールセンターも離職率が非常に高い。500席あるコールセンターでも、実際のスタッフは200人しかいないなど、人材不足が深刻な問題となっている」と話す。進出企業は、大きな箱モノを設置して急ピッチで人材採用を進めているが、実際には、きちんとした研修を終えないまま現場に放り出されるスタッフも多く、モチベーションを保てずに早期離職していくケースが多いのだという。企業側にとっては、進出の意欲はあっても、人がいなければ事業活動ができない。実際、『週刊BCN』が今年1月に貴陽の国家高新技術開発区と貴安新区のIT関連地区を取材した際も、現場には人がまばらで、閑散とした状況だった。拠点設立の登記は終えているものの、営業開始には至っていない企業が相当数あるものと推測される。
もっとも、貴州省は人材不足の解決に向けた対策を講じてはいる。貴安新区では、南部に面積63km
2からなる教育機関のキャンパス集合エリア「花渓大学城」を設置し、外部の大学や教育機関の誘致を推進。また、高度なIT人材を育成する試みとして、マイクロソフト(中国)と共同で「貴州マイクロソフトIT学院」も設立した。こうした施策によって、貴州省では数十万人規模で人材を育成する計画だ。
ただし、実際にある程度の人材が育成され、現場で活躍できるようになるのは、少なくとも数年先のこと。貴州ビッグデータ産業が実態を伴った発展を遂げていくには、まだ時間がかかりそうだ。