【深セン発】華為技術(ファーウェイ、徐直軍・輪番CEO兼取締役副会長)は4月11~12日、アナリスト/報道機関向けのイベント「Huawei Global Analyst Summit 2016(HAS 2016)」を開催した。通信、インターネット、金融などの業界から約500人が参加したこのイベントで、同社は2016年の経営戦略「All Cloud」を発表。製品・ソリューションの全面的なクラウド展開を推進し、ユーザーのデジタル化への転換を支援していく。
(上海支局 真鍋 武)
高成長続ける巨大企業

徐直軍
輪番CEO兼
取締役副会長 ファーウェイの勢いが止まらない。中国最大のICT企業である同社は、いまなお高成長を維持している。2015年度(15年12月期)はすべての事業が2ケタ成長を遂げ、通期売上高は3950億元と前年度比で37%拡大した。もっとも規模が大きい通信事業者向け事業は、グローバルで4Gネットワークの展開が継続し、通信事業者の設備投資が旺盛。サーバーやネットワーク機器、DCソリューションなどの法人向けICTソリューション事業は、パブリック・セーフティ、金融、運輸、エネルギーの各産業向け事業が急速に成長した。コンシューマ向け事業の売り上げはスマートフォンが好調。15年のグローバル出荷台数は、前年比44.3%増の1億660万台と、主要メーカーのなかで最大の伸び率を示している(IDC調べ)。
16年は、All Cloud戦略にもとづき、さらなる事業拡大を進める。イベントで基調講演した徐直軍・輪番CEOは、「これからの数年間で、ファーウェイはすべての製品・ソリューションを“クラウド化”していく」と意欲を示した。All Cloud戦略では、ハードウェアのリソース・プール、完全に分散化されたソフトウェア・アーキテクチャ、完全なリソース配置の自動化を通して、機器・ネットワーク・サービス・運用の四つの観点からICTインフラを再構築し、通信キャリアと法人ユーザーのデジタル化につなげる。これによって同社が定義する高品質なユーザー体験「ROADS(Realーtime、Onーdemand、Allーonline、Do it Yourself、Social)」を実現していくという。
法人事業は「Open+Hybrid+Integrated」

黄瑾
ITプロダクトライン副総裁 とくに法人向けICTソリューション事業では、統合クラウド基盤「FusionCloud」を中核商材として、オープン・ハイブリッドなクラウド・ソリューションの提供に力を注ぐ。黄瑾・ITプロダクトライン副総裁は、「基本戦略はOpen+Hybrid+Integratedだ。これによってエンタープライズ企業のデジタル化を加速させる」と説明する。
Fusion Cloudの主な構成要素は、クラウドOS「FusionSphere」、ビッグデータ分析基盤「FusionInsight」、分散型PaaS「FusionStage」の三つ。FusionSphereはOpenStack、FusionInsightはHadoop/Sparkアーキテクチャ、FusionStageはDockerコンテナのマイクロ・サービス・アーキテクチャと、いずれもオープンソースをベースに開発している。ファーウェイは、自社製品にパートナーの得意分野を組み合わせ、付加価値の高いソリューションとして提供する「Being Integrated戦略」を推進しており、FusionCloudの展開でもパートナーと連携したエンド・ツー・エンドのクラウドソリューションを提供している。すでにFusionCloudを活用したクラウドソリューションのユーザー数は2500社を超えた。

何達炳
マーケティング・
ソリューション・セールス部門
プレジデント 例えば、今年3月には、ファーウェイのクラウド基盤を活用して、ドイツテレコムが欧州向けパブリッククラウドサービス「Open Telekom Cloud」の提供を開始している。すでに同サービスは独SAPなどが採用しているという。
ファーウェイの15年度(15年12月期)の法人向けICTソリューション事業グループ売上高は、前年度比43.8%増の276億元。売上高の75%はパートナー経由によるもので、パートナー網はディストリビュータ・付加価値パートナーが300社、二次チャネルパートナーが8000社を超えた。このうち約350社とは、共同イノベーションを通じて各産業向けソリューションを開発している。ファーウェイは19年に法人向けICTソリューション事業部の売上高100億米ドルを目指しており、同事業部の何達炳・マーケティング・ソリューション・セールス部門プレジデントは、「今後5年間は(15年度の)成長率を維持したい」との目標を示した。
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IoTが注力分野に
「HAS 2016」では、基調講演や各セッションでIoT(Internet of Things)に関する発言が頻出し、ファーウェイのIoTビジネスに対する意欲の高さがうかがわれた。

同社では、全世界のモノとインターネットの接続量が、25年までに現在の10倍にあたる1000億を超えると予測している。巨大な潜在力をもつグローバルのIoT市場開拓にあたって、すでに同分野の研究開発にあたる専任スタッフを2300人以上抱えている。
15年には、IoT戦略「1+2+1」を発表し、本格的なIoTビジネスを開始した。これは、IoTを構成する端末インターフェース、ネットワーク・アクセス、プラットフォームの各レイヤでソリューションを開発・提供するもの。パートナーと連携して、これらを自動車、エネルギー、製造、スマートホームなどの各業界向けに最適化して納入する。全方位からIoTソリューションを提供することによって、より高品質でスムーズなIoT環境の構築・運用が実現できるという。
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張順茂
プロダクト・ソリューション・グループ
マーケティング・ソリューション部門
プレジデント HAS 2016では、張順茂 プロダクト・ソリューション・グループ マーケティング・ソリューション部門プレジデントが、1+2+1戦略の核となる5大IoTソリューションとして、IoT向けOS「LiteOS」、NBーIoT(Narrowband IoT)ソリューション、IoT接続管理プラットフォーム、“4 in 1”スマートホーム・ゲートウェイ、アジャイルIoTゲートウェイを紹介した。例えば、LiteOSはIoT端末に必要な通信・管理・セキュリティなどの機能を搭載したOSで、オープンソースをベースとしており、多様な領域でIoT端末を容易に開発できる。世界最軽量の10kB以下のメモリで動作するという。
また、張・プレジデントは、「パートナーと連携したエコシステムを育てている」と強調した。ファーウェイは、IoTの領域でも各業界の有力企業とのアライアンスを進めているほか、各種業界団体や標準化団体への参加・貢献などを通してエコシステムを構築。例として張・プレジデントは、中国工業和信息化部(工信部)が15年に設立した工業互聯網産業聯盟(AII)でファーウェイが副議長を務めていることを挙げた。このほか、通信事業者の協力のもとで率先して取り組んでいるNBーIoT領域では、今年2月に「グローバルNBーIoTサミット」を開催。GSMA NBーIoTフォーラムの枠組みで同技術に特化したオープン・ラボの開設も進めている。ファーウェイでは、16年第3四半期にはNBーIoTソリューションの商用展開を開始する見込みだ。

約500人のアナリスト/報道関係者が集まった
記者の眼
“中国”ではなく“グローバル”ベンダー 今回の「HAS 2016」では、欧米からの参加者が大勢いたことが印象的だった。他の中国ITベンダーや、日本のITベンダーのイベントと比べて明らかに多い。それもあって、基調講演やセッションのスピーチの多くは、中国語でなく英語で行われた。
多くの外国人が参加している背景にあるのは、彼らがファーウェイを“中国の”ITベンダーではなく、“グローバルの”ITベンダーと認識しているからだ。日本人からすれば、ファーウェイは対岸“中国の”ITベンダーという印象が強いが、彼ら欧米のアナリストや報道関係者は、ファーウェイをIBMやSAPなどと同様に、グローバルITベンダーの1社だと認識している。まるで、日本人が「グローバルITベンダー」と呼称する外資系IT企業について、本社が米国にあるのか、独国にあるのか、あまり気にしていないのと同じように。彼らにとっての違いは、本社が中国にあるというだけだ。事実、ファーウェイは“グローバル”のITベンダーだ。2015年度(15年12月期)の海外売上比率は58%。これは日本の総合ICTベンダーと比較しても高い。早期から海外に目を向けた事業を推進し、毎年売上高の10%以上を研究開発費に投じていることが成功の要因だろう。ファーウェイが過去10年間に研究開発に投じた累積額は2400億元におよぶ。
日系ICT企業にとって、ファーウェイは競合先とも協業先ともなり得る存在だ。どちらを選ぶのかは企業の判断だが、中国だけでなく、グローバルで着実に成長している同社の姿勢からは学ぶところがありそうだ。