日系企業向けのITビジネスでは、良くも悪くも、導入事例の豊富さが採用の後押しとなることが多い。これは、ASEAN地域の日系企業向けビジネスでも基本的には同じであり、タイでのビジネスの歴史が長く(詳細は連載第1回を参照)、実績が豊富な東洋ビジネスエンジニアリング(B-EN-G)には大きなアドバンテージがある。最近では、日系流通業のタイ拠点向けにERPをクラウドで提供するといった事例も出てきており、ビジネス領域を着実に広げている。
日用雑貨卸のタイ法人で A.S.I.A.採用
タイ経済の停滞が向かい風になっているとはいえ、B-EN-Gの主力製品である生産・販売・原価管理パッケージの「MCFrame」は、製造業を中心に現地でも継続的に実績を積み重ねている(本紙1630号の導入事例紹介記事「THE決断」参照)。一方、会計を中心とした海外現地法人向けERPパッケージ「A.S.I.A.」は、タイではMCFrameよりも長いビジネスの歴史があり、現在、流通業分野で好調な兆しをみせている。本連載第4回で紹介した、NTTコミュニケーションズ(タイランド)との協業によるA.S.I.A.のクラウド化がこれを後押ししている状況だ。現地法人であるBーENーGタイの渡邉祐一・ゼネラルマネージャー/ディレクターも、「会計を中心として、バックオフィスの基幹システムを入れてもらったお客様と長いおつきあいをさせていただけるのは海外現地法人も同じだが、タイでは、スピーディな立ち上げや運用負荷の軽減といったニーズがより大きく、クラウドのポテンシャルは高い」と話す。

SIAM ARATA
中谷 大
マネージング・ディレクター 日用雑貨卸のあらたは、タイでA.S.I.A.をクラウドで活用しているユーザー企業だ。グループ全体としての売上高は6400億円で、1700社のメーカー、サプライヤ、2100社の小売業者と取引がある。アジア圏でのビジネス拡大を目指し、2013年、バンコクに子会社のARATA(THAILAND)を設立したが、現地でのビジネスは、昨年、タイ・サハグループとの合弁会社としてSIAM ARATAを発足させたことで本格化した。サハグループは、タイ国内外で化粧品、衣料品、食品、日用品などの幅広い消費財の製造・物流・販売を手がける同国最大規模の企業グループであり、そのビジネス資産と、あらたグループが卸売業で培った販売・物流などのノウハウを融合させるというコンセプトだ。まずは、国産化粧品メーカーであるディーエイチシーのタイにおける総代理店として、同社製品を国内小売業向けに販売するというビジネスから始めた。
SIAM ARATAの中谷大・マネージング・ディレクターは、「将来的には、日本で売れるようなローカル製品の発掘など、商品開発事業もやっていきたいが、まずはタイでも認知度が高い日本メーカーの化粧品の卸のビジネスという、成功の可能性が高い事業からやっていこうと考えた」と説明する。現在は、ディーエイチシーの化粧品52製品をタイで輸入販売しているが、近く同社のサプリメント製品や、同社以外の製品ラインアップも拡充していく方針だ。
初期投資を抑えつつ 必要な機能を網羅
同社は、タイでのビジネス立ち上げに合わせてクラウド版のA.S.I.A.を導入し、販売管理、在庫管理、購買管理、財務会計といった主要機能を活用している。「日本の本社とスムーズに連携できるシステムであることが大前提で、将来的なタイでのビジネスの拡大を見据えて、ローカルのメーカーとの受発注データの連携なども想定したシステムが必要だと考えていた」(中谷マネージング・ディレクター)という。一方で、導入・運用のコストの問題も大きな課題だった。海外での新規ビジネスの立ち上げという性質上、できるだけ初期投資を抑えて導入できるシステムであることも重視していたという。
中谷マネージング・ディレクターは、最終的にA.S.I.A.を選定した理由を、次のように説明する。「会計と販売管理機能などが一体になっていて、ワンストップでスピーディな稼働が期待できたこと、そして日本語、英語、タイ語に対応していることがまずは大きなポイントになった。ローカルで採用したタイ人のスタッフも、使い勝手や操作性を評価している。また、コストの面でも、他の選択肢はオンプレミスでの提案だったが、A.S.I.A.はクラウドで提供するという提案だったので、初期投資はかなり低く抑えられたし、今後を考えても、自社でITインフラ運用のためのリソースを確保しなくて済むというのは、非常に大きなメリットと感じた」。
14年8月に採用が決定し、翌15年3月には本稼働に至った。当初は取引先も1社だったが、いまでは10社程度まで拡大しており、「日本と違って取引先ごとに業務フローや必要な帳票が違ったりして、システム側に想定外の新しい機能を付加しなければならないケースが多い」(中谷マネージング・ディレクター)という。これには、導入を担当したインテックのタイ現地法人やB-EN-Gタイがその都度対応するかたちを採っており、そうしたサポート体制の信頼感も、A.S.I.A.への高評価につながっているようだ。