「健康」に関する情報が人々の関心を集めている。読売新聞の医療情報サイト「ヨミドクター」も、月間1000万以上のページビューを集める人気サイトの一つとなっているが、オープン以来使い続けてきたシステムが、サイトの成長にブレーキをかける事態となっていた。限られた予算のなかで性能と使い勝手を改善し、「災害時も止めない」というメディアの使命を果たすため、同社が選択したのは、オープンソース技術とクラウドの全面活用という道だった。
【今回の事例内容】
<導入企業>読売新聞東京本社 医療ネットワーク事務局「読売新聞」の医療記事をベースに、医療・健康・介護をテーマとした情報サイトを運
<決断した人>丸山謙一 事務局長
「ヨミドクター」の新たな基盤として、WordPressとAzureの採用を決定した
<課題>モバイル対応が遅れていたほか、システムの老朽化で性能・運用効率が低下。災害対応にも不安があった
<対策>WordPressコンサルティングで多くの実績をもつプライム・ストラテジーに、サイトの全面リニューアルを依頼
<効果>モバイル対応を果たすとともに、表示速度を改善。運用業務の属人化の解消、東西二重化による災害対応の強化、運用コストの大幅減を実現
<今回の事例から学ぶポイント>ユーザーの課題を真に解決できる技術と実績があれば、ベンダー規模の大小を覆して受注を勝ち取れる
CMSの老朽化でサイトが停滞
読売新聞は、「医療に強いメディア」という一面をもっている。「医療ルネサンス」「病院の実力」などの連載で知られるほか、1997年には一般紙初の医療記事専門部署(現・医療部)を組織するなど、この分野での取材・報道には長年力を入れている。2009年には、医療関連記事や、健康・介護に関するコンテンツで構成するウェブサイト「ヨミドクター」を開設。医療相談の投稿などの機能は有料コンテンツとして提供し、収益事業に成長している。
しかし、サイト開設から5年が過ぎた14年頃から、システムの老朽化とそれに伴う問題が顕在化するようになる。まず、スマートフォン時代を迎えていたにもかかわらず、モバイル用サイトをもっていなかった。運用面でも、コーナーの新設・更新時にはコンテンツ管理システム(CMS)独自の文法で内容を記述する必要があり、知識をもつ担当者に業務が属人化していた。また、アクセス集中時にページが表示されにくい状態が頻発していたほか、データセンターのある東京で大規模災害が発生した場合、サイトの運営自体が中断するおそれがあった。
読売新聞東京本社医療ネットワーク事務局の丸山謙一・事務局長は「それまで最大で月間400万PV(ページビュー)に届いていたのが、14年には230万PVまで落ち込んでいました。また、東日本大震災の発生時、医療情報ニーズの高さをあらためて痛感しましたが、肝心の災害時にサービスを継続できる体制になっていたかというと、盤石ではない部分もありました」と振り返る。
15年、システムの全面刷新プロジェクトが始まったが、業者選定において重要なポイントがCMSだった。従来使っていたCMSは有償製品で、保守契約切れが迫っていた。現行CMSの更新という方策を候補に入れる一方、現在のウェブで広く利用されている技術として、柔軟で拡張性にすぐれるオープンソースCMSのWordPressがあることもつかんでいた。異なるCMSを扱う複数のベンダーに声をかけるなかで、WordPressについては、小規模ながらそのコンサルティングや開発・運用で実績のあるプライム・ストラテジーに提案を求めた。
予想外の低コストで二重化を実現
プライム・ストラテジーとコンペになったのは国内有数の大手ベンダーだった。丸山事務局長は「今だからお話しすると、プレゼンやコンペ資料は他社のほうがよい見栄えでした(笑)」と打ち明ける。それでもプライム・ストラテジーを選んだのは、コスト・可用性で圧倒的にすぐれた提案内容と、メディア企業を含む多数の大規模サイトをWordPressで構築・運用してきた実績からだ。
プライム・ストラテジーでは、WordPressの高速動作に特化した仮想マシン「KUSANAGI」を開発しているが、ヨミドクターの新システムではKUSANAGIの基盤として、東日本/西日本の国内2地点で二重化をはかれるマイクロソフトのAzureを提案した。丸山事務局長によると、もし費用が高額な場合、東西での二重化は要件から外すこともやむなしと考えていたという。しかし、予備系の常時待機が要求されるシステムとは異なり、今回は復元目標地点を1日以内としたことで、予備系は多くの時間“寝かせて”おける。使った分だけ払うクラウドのよさを最大限に活用し、わずかな追加コストで二重化が実現できた。
システム刷新と並行して、編集部ではコンテンツの内容にも磨きをかけていた。それが功を奏してPVは大きく伸び、旧システムでも月間1000万PVに届く月が出てきた。これではリニューアル後すぐに性能が限界に達してしまうことから、プロジェクト後期になって、想定PVを月間1000万から3000万に引き上げた。オンプレミスのプロジェクトであればインフラの再設計が必要になるところだが、今回はAzureのインスタンス変更により3倍の想定にも十分対応可能だったという。
今年3月の新システム稼働以降、モバイル対応や運用効率など、当初の課題はすべて解決した。サーバーからWordPressまで運用をプライム・ストラテジーに任せる「フルマネージド」契約だが、それでもサイトの運用コストは従来の約半額に削減できたという。
今後は、性能・運用面で生まれた余裕をサービス強化に振り向け、新規会員獲得や収益性向上を図っていく。また、ユーザー参加型サイトとして立ち上げた「ヨミドクタープラス」で投稿機能を充実させるなど、健康・長寿を目指す読者に向けたコミュニケーションを拡大していく考えだ。(日高彰)