レノボがIBMから「System x」事業群を買収し、日本でも事業を本格的に開始してから2年が経とうとしている。レノボ・ジャパンのエンタープライズ事業は、IBM時代に比べて低下してしまった市場でのプレゼンスを、Software Defined Infrastructure(SDI)への注力によって盛り返そうとしている(本紙1637号で解説)が、成否のポイントになるのは、販売パートナー網をいかに再構築するかという問題だ。(本多和幸)
System x の遺産は今
レノボがIBMからSystem x事業を買収した当時、両社とも、「IBMのすぐれたところはすべて引き継ぎ、レノボに移ることで開発力や販売力、サポート力が落ちることはない」と躍起になって発信していた。しかし、それまでSystem xの販売を手がけていたIBM販社から、「レノボ移行後は売り上げがなかなか伸びない」という声が聞かれたのは事実だ。実態はともかく、競合メーカーは「レノボに事業が移管されることでSystem xのブランド力は落ちる」と見込んで大攻勢をかけた。結果として、System xのプレゼンスは相対的に低下したようにみえた。
ただし、従来型のサーバービジネスは、超大規模データセンター(DC)向けのビジネスは例外として、レノボに限らずもはや大きな成長を期待できないビジネスになっているのはいうまでもない。こうした事情を踏まえ、レノボ・ジャパンは、「プロテクト・アンド・アタック」を戦略として掲げた。IBMから継承したビジネスを守り、従来型のサーバービジネスをなるべくシュリンクさせないように収益基盤として維持しつつ、新しい成長領域であるSDIで反転攻勢を期す。とくに、今年1月に日本市場に本格投入した「Converged HX シリーズ」は、その象徴的な製品といえる。米ニュータニックスのソフトウェアとSystem xサーバーを組み合わせたハイパーコンバージド・アプライアンス製品だ。

安田 稔
執行役員専務 同社のエンタープライズビジネスを統括している安田稔・執行役員専務は、「ニュータニックスはすごい勢いで伸びているが、日本で同社製品をきちんとサポートしきれるメーカーはまだないので、われわれが第一人者としてやっていこうということ。そのためには販売パートナーの活性化が不可欠で、パートナー戦略もプロテクト・アンド・アタックでいく。既存のIBMのパートナーにもHXシリーズを積極的に扱っていただくようにするし、HXをきっかけにレノボに新しいパートナーを引き込んでいく」と説明する。レノボ・ジャパンは今年4月、新しいパートナープログラムとして、重要かつ戦略的なパートナーとマーケティングやリード開拓、技術検証、トレーニングなどを共同で行う「Lenovo Togetherプログラム」を発表したが、6月には日商エレクトロニクス(日商エレ)がリセラーパートナーとしては初めて同プログラムに加わった。日商エレは、日本で初めてニュータニックスの販売代理店となり、同社製品の国内販売では6割ほどのシェアをもつとみられる。レノボ・ジャパンが需要を喚起しつつ、日商エレの知見・ノウハウを生かした事例づくりを進める方針で、まさにニュータニックスの“第一人者”を目指していることを裏付ける動きといえよう。
ディストリビュータの動向がカギ

上原 宏
データセンターグループ
事業本部事業部長 日商エレはレノボジャパンにとって市場開拓の先鞭を付けるための戦略的な協業相手なわけだが、SDIビジネスを大きく伸ばすためにはそうした協業の成果を水平展開していく必要もある。もともとSystem xを販売していたIBM販社を含む既存のリセラーがその役割を担うが、彼らとの関係再構築も欠かせない。上原宏・データセンターグループ事業本部事業部長は、「レノボになって変わってしまうんじゃないかと心配されて、離れそうだったパートナーに、それが誤解であることをご理解いただき、戻ってきていただくための姿勢をいまみせている。パートナーの懸念は払拭する必要があると認識している」と話す。その具体策が、ディストリビュータとの協業強化だ。
レノボ・ジャパンは、ダイワボウ情報システム(DIS)、ソフトバンク コマース&サービス(C&S)、大塚商会という大手三社の商流で法人向け製品を流通させている。安田専務は、「3社ともHXシリーズを扱っていただけるようになっていて、非常に期待してもらっている。しっかり在庫をもっていただき、タイムリーなデリバリができるかたちができつつある。運用が簡単で、地方の中堅企業でのニーズも急激に伸びているし、パブリッククラウド代替で採用してもらうケースも出てきている」と手応えを語る。3社それぞれと協力し、場合によっては相乗りのかたちでパートナー向けのイベントを地方で展開するなどして、SDI製品を取り扱うリセラー網を分厚くしていきたい考えだ。とくにソフトバンク C&Sは、もともとニュータニックスのパートナーとして独自に技術者も準備してビジネスを展開しており、着目点は一致しているといえそうだ。
また、既存のIBM販社についても、「IBM特約店」で構成する販売パートナー会「愛徳会」の定期ミーティングにはスポンサーとして毎回参加し、コンテンツづくりにも積極的にかかわっているという。今後は、愛徳会メンバーに対して、HXシリーズをはじめとするSDI製品を販売してもらうためのトレーニングメニューなども提供していくほか、レノボ・ジャパンのパートナーイベントを通じてIBM特約店の経営層に直接リーチし、SDIのビジネスとしてのポテンシャルを訴求していく方針だ。上原事業部長は、「IBMのビジネスはコグニティブとクラウドが中心になっていて、それはそれですばらしいが、明日のビジネスをどうするかという課題に悩んでいる愛徳会メンバーはたくさんいらっしゃると思う。SDI製品は、そういうパートナーと当社、そしてお客様がWin-Win-Winの関係を築くことができる商材だと自負している」と力を込める。実際に、ニュータニックスの取り扱いを独自に開始していた愛徳会メンバーが、レノボ製品を軸に事業を構築し直す例も出てきているという。
一方で、ニュータニックスのアプライアンスをはじめ、SDI系の製品に注力しているハードメーカーはレノボだけではない。それでも上原事業部長は、「IBMから引き継いだグローバルサポート、そしてNEC PC(レノボ・ジャパンとNECが共同出資)の米沢事業場で専任エンジニアがHXシリーズなどの出荷前点検や各種設定サービスを行う『米沢ファクトリー・インテグレーション・サービス』などは間違いなく大きな強みになる。パートナーがめんどうなことは全部レノボに任せてしまうという体制をつくる」と強調する。パートナーにとっての“売りやすさ”を重視していることも、ディストリビュータとの販路開拓、愛徳会へのアプローチのなかで積極的にアピールしていく意向だ。
レノボ・ジャパン社内のリソースも増強し、テクニカルセールスレップ(TSR)という組織を立ち上げた。「単純なインサイドセールス、営業受注処理ということではなくて、レノボの専任エンジニアが、お客様への提案に際してパートナーを技術的に支援できる体制を整えた」(上原事業部長)という。6月から本格的に稼働し、まだ技術者の人数は一桁だが、安田専務は、「SDIビジネスの成長とともにどんどん増やしていきたい」と展望している。