【上海発】華為技術(ファーウェイ、任正非会長)は8月31日~9月2日、上海市で「HUAWEI CONNECT 2016」を開催した。同社にとって過去最大となるプライベートICTカンファレンスで、世界約120か国・地域から2万人が参加。「Shape the Cloud」をテーマに、上海メルセデスベンツ・アリーナを貸し切り基調講演を行ったほか、約1000項目に及ぶセッションや大規模な展示会を行い、ファーウェイの事業戦略や最新技術を伝えた。(上海支局 真鍋 武)
3人の輪番CEOが登場
「HUAWEI CONNECT 2016」は、これまでファーウェイが年次で開催してきた「Huawei Cloud Congress(HCC)」「Huawei Network Congress(HNC)」「Huawei Developers Congress(HDC)」を一つのICTカンファレンスとしてまとめたもの。集約することで、効率的にパートナーやユーザーに対して自社の取り組みを紹介するとともに、イベントを大規模化させて存在感をアピールする狙いがある。

基調講演は初めて上海メルセデスベンツ・アリーナで開催

初めて上海メルセデスベンツ・アリーナを貸し切って行った基調講演には、胡厚崑氏、徐直軍氏、郭平氏の輪番CEOの3人が登壇した。ファーウェイは、取締役会で選出された3人の代表者が6か月ごとにCEOを務める輪番CEO制度を採用しているが、実は同社が主催するICTカンファレンスで、3人の顔ぶれが揃うのは稀なこと。「HUAWEI CONNECT 2016」は、それだけ重要度が高いイベントに位置づけられていることになる。

(左から)徐直軍 輪番CEO兼取締役副会長、胡厚崑 輪番CEO兼取締役副会長、
郭平 輪番CEO兼取締役副会長
初日の基調講演では、胡・輪番CEO兼取締役副会長が登場し、ファーウェイのクラウド戦略の全体像について紹介した。胡・輪番CEOは、クラウドをビジネスモデルに取り入れた企業が誕生した過去10年間について、“クラウド1.0”時代だと指摘し、その具体例として、グーグルやアマゾン、テンセント、滴滴出行、Airbnbなどの企業を挙げた。一方で今後10年間については、「“クラウド2.0”時代に突入し、エンタープライズを中心とした無数の『Industry Cloud』が登場するようになる」と説明。同時に、「2025年までにすべてのエンタープライズがクラウドの技術やビジネスモデルを活用し、85%以上の企業アプリケーションがクラウド上に置かれるようになるだろう」と予測した。
こうしたクラウド2.0時代に向けたファーウェイの戦略は、「顧客志向であり続けること」「革新的なクラウド技術を供給すること」「より好まれるパートナーになること」「クラウドエコシステムの発展に貢献すること」の4点だという。胡・輪番CEOは、「自社のみであらゆるクラウド・ソリューションを提供することはなく、エコシステムの“後押し役”として、顧客が求める多様な種類のクラウド構築を支援することを目指す」と説明。あくまでファーウェイはICTインフラ領域に専念し、パートナーとの連携によって、エンド・ツー・エンドのソリューションを提供していく姿勢を強調した。
独り勝ちはありえない
ファーウェイが、こうした“後押し役”に徹するのは、無数の「Industry Cloud」が誕生することになるクラウド2.0時代において、自社単独で顧客のニーズを十分に吸収・反映することが難しいからだ。多様な業界、多様な企業が存在するなかで、顧客に最適なクラウドソリューションを提供するためには、それぞれの領域に精通したパートナーとの連携が欠かせない。そこで、各産業連盟への参画や企業とのビジネス連携、オープンソースコミュニティへの参加、デベロッパーネットワークなどの構築を通じて、ファーウェイはオープンなクラウドエコシステムの形成に力を注いでいる。
例えば、2015年にファーウェイは「沃土計画(Developer Enable Plan)」を開始した。これは、今後5年間で10億ドルを投資して、20年までにオープンプラットフォーム開発者を100万人育成することを目標とした取り組みだ。すでにファーウェイは3億ドルを投資しており、この1年間でデベロッパーの数は2000から2万5000に急増しているという。
法人向けICTソリューション事業部(EBG)では、ファーウェイのICTインフラとパートナーのアプリケーションを組み合わせたソリューションを提供する「Business-Driven ICT Infrastructure(BDII)」戦略を基本としている。共同研究を通じて各産業向けソリューションを開発するパートナーの数は400社を超えた。ファーウェイは、パートナーとのオープンラボもグローバルに13か所開設しており、今後さらに拡張していく方針だ。

アクセンチュアとの提携強化も発表された
実際に、こうした戦略は功を奏しており、ファーウェイの16年度(16年12月期)上半期の売上高は2455億元で、前年同期比約40%の成長を記録した。1年前のそれは約30%だったので、成長速度をさらに10%も上げていることになる。
新発表も続々と
「HUAWEI CONNECT 2016」では、新製品・サービスやパートナーとの連携ソリューション、ユーザー事例など、数十の新たな発表も行われた。
ファーウェイ製品では、クラウドソリューションの中核商材である「FusionCloud」で31種類の新サービスを発表。FusionCloudは、クラウドOS「FusionSphere」などで構成する統合クラウド基盤で、今回はコンピューティング、ストレージ、データベース、データ分析などのサービスが強化された。分散型ストレージシステム「FusionStorage」や、PaaS「FusionStage」の最新バージョンもあわせてリリースされた。

クラウド中核商材の「FusionCloud」は31の新サービスを発表
既存パートナーとの連携では、アクセンチュアと新たなエンタープライズ・クラウド・ソリューションを発表。両社は2014年5月に提携しており、これまで共同でソリューションの研究開発を行ってきた。今後、ファーウェイの「FusionCloud」をベースとしたSAP、Oracleクラウドソリューションを提供していくという。
ファーウェイのもう一つの注力分野であるIoTの領域では、エレベータ世界大手のシンドラーと、2年間かけて共同開発した「Connected Elevators Solution」を発表した。これは、エレベータのセンサデータをネットワークを介してクラウド上に蓄積し、リアルタイムでのモニタリングや、保守・メンテナンス業務の効率化、データ分析による故障率の低減などにつなげていくもの。ファーウェイの劉少偉・企業ネットワークプロダクトライン総裁によると、「世界には約1500万台のエレベータがあるが、平均して1台あたり年2日稼働が停止しており、1台あたり月2回のメンテナンスが行われている。これを効率化することができる」という。シンドラーは世界に約150万台のエレベータを保有しており、今後実装を進めていく方針だ。

シンドラーとはIoT活用のエレベータソリューションを発表
またEBGでは、新たなパートナープログラム「Enterprise Solution Partner Program」が発表された。共同ソリューションの開発を強固に支援するもので、ファーウェイはパートナーに対して、製品のオープンAPIや技術サポート、研究施設などを提供。市場開拓面でも協力するという。
展示会も大規模開催
展示会も過去最大規模だった。例年は上海世博中心の1会場だけだったが、今回は上海世博展覧館とあわせた2会場で開催。面積1万8000平方メートルのエリアを設けて、ファーウェイだけでなく、インテルやHGST、SAP、アクセンチュア、インフォシス、OpenStack、GSMAなど、エコシステムに関わる80の業界団体と協賛企業が出展した。来場者の数も多く、初日は自由に歩き回ることが難しいほどだった。

展示会は上海世博中心と上海世博展覧館の2会場で開催
展示エリアは、スマートシティ、セーフシティ、金融、製造、エネルギー、交通といった具合にテーマごとに分かれており、実際の導入事例や各種ソリューションを紹介。パートナー企業では、ドイツテレコムが入り口付近に大きなブースを構えて、来場者の関心を集めていた。同社は今年3月、ファーウェイのクラウド基盤をもとに構築したパブリッククラウドサービス「Open Telekom Cloud」の提供を欧州市場で開始している。
日系では唯一、プラチナスポンサーとしてイベントに参加していた東芝が大きなブースを設けていた。同社は11年にファーウェイとの取引を開始し、主に東芝製HDD/SSDを納めている。東芝電子(中国)の高西雅樹・総公司副総経理によると、「16年に入って、かなりファーウェイとの取引金額が増えている」という。展示会では、東芝製SSD/HDDを搭載した「OceanStor 5300/5500/5600/5800 V3ストレージシステム」「Fusion Server 5288 V3ラックサーバー」を紹介した。

東芝電子(中国)の高西雅樹・総公司副総経理(左)と
戸谷得之・総公司首席技術総監(CTO)
また、展示会場では、無料で昼食や飲料が配布されたほか、バンド演奏やDJパフォーマンスも行われ、来場者を飽きさせない工夫が施されていた。