部門ごとに導入したためシステムが、運用・管理の問題を抱えるケースは少なくない。最も効果的な解決策は、分散したシステムを物理的にも集約し、組織的な管理体制を構築することだ。そこでは、サーバールームという設備と、ITをいかに効率的に管理するかが求められる。
【今回の事例内容】
<導入企業>広島赤十字・原爆病院1939年に日本赤十字社広島支部病院として開設。戦後設立の広島原爆病院と1988年に合併し現院名に。病床数は598床
<決断した人>島川龍載 事務部 医療情報管理課 主任
新棟建設にあたり情報システム再整備の計画を立案。IT基盤の集約・統合を担当
<課題>各部門がITインフラを個別に導入してきたためサーバーやUPSが分散し、運用コストと管理体制が問題に
<対策>新棟建設にあわせてIT機器をサーバールームに集約するとともに、ITと設備の統合管理ツールを導入
<効果>UPSのランニングコストを大幅削減するとともに、運用・管理の効率化でいち早い異常の検知が可能に
<今回の事例から学ぶポイント>IT機器とサーバールーム設備を一体導入することで、設備のコスト削減と可用性の向上を両立する
部門ごとに分散したIT
広島市中心部、原爆ドームの約1.5km南に位置する広島赤十字・原爆病院。1939年、日本赤十字社の広島支部病院として設立され、45年8月6日の原爆投下で多くの殉職者を出しながら、極限状況のもと被爆者の治療に取り組んだ(現在でも、爆風で窓枠がゆがんだ建物の一部が、病院の隣接地に保存されている)。56年、被爆者医療を専門とする広島原爆病院が敷地内に開設され、88年に両院を合併して現在に至っている。97年には災害拠点病院(地域災害医療センター)に指定され、災害発生時の救急医療拠点としての機能も担う。災害救護は、「人道・博愛」を掲げる赤十字社の最も重要な活動の一つで、今年4月の熊本地震でも救護班の派遣や支援物資の搬送を行っている。
同院では2004年の電子カルテ導入をはじめ、全院で医療システムのIT化を推進してきたが、各診療科・部門の需要に応じて順次システムを導入してきたため、院内のサーバー数は100台以上にふくれ上がっていた。問題となっていたのが、システムの可用性の確保だ。前述の災害時医療拠点としての役割を果たすため、そして法的に定められたカルテの記録・保存義務をクリアするため、医療情報システムは停止が許されないが、病院全体のITを統合的に管理・監視する仕組みがなかったのだ。無数のシステムが部門ごとに運用されており、現場の検査技師などは、本来の医療業務に加えてIT機器の管理も行わなければならなかった。停電に備えるUPSもサーバーなどの機器ごとに取り付けていたため百数十台にのぼり、全体でみると容量に大きな無駄があったほか、3年ごとに必要なバッテリ交換だけでもかなりの手間がかかっていた。
設備もITのように管理できる
12年、このような院内のITインフラを全面的に見直す契機が訪れた。既存施設の老朽化に対応するため、15年9月の竣工を目指した新棟の建設が始まり、分散したIT機器を集約する新たなサーバールームを設けることになったのだ。ルーム内のラックシステムや空調に関して複数社から提案を受けたが、それまで小型UPSでしか接点のなかったシュナイダーエレクトリックが示した「ITと設備の統合管理」という考え方が、新棟のサーバールームには不可欠だと判断、同社の製品と技術支援を採用することにした。
同院で情報システムを担当する事務部医療情報管理課の島川龍載主任は、「ベンダー依存、現場依存の管理ではなく、システムの不具合や障害を病院としていち早くつかみ、対処できる体制を確立したいと考えていました」と話し、シュナイダーの提案はまさにその要求に答えるものだったと説明する。それまで、空調異常などの通知は計器や警報灯に頼っており、警備員が定期巡回で異常を視認するまで、異常を知る術がなかった。シュナイダーの管理ツール「StruxureWare」では、電源ユニットやUPS、空調などの稼働状況に加え、サーバールーム内の温度や消費電力をリアルタイムで監視できるので、システム担当者はサーバー上のソフトウェアの稼働状況を管理するのと同じように、サーバールームの健全性を画面上で一目で確認することが可能となった。
また、サーバーとネットワーク機器に個別に装着されていた132台ものUPSを、同社の「Symmetra PX」1台に集約。個別のバッテリ交換作業から解放され、UPSに関する導入および運用のコストを60%削減(導入後10年間のトータルコスト)することに成功した。
シュナイダーエレクトリックではサーバールームの設計段階から支援サービスを提供しているが、今回サーバールームそのものの設計は新棟全体の建設工事の範疇となり、すでに決められた枠のなかで設置できるラックや冷却システムを選定する必要があった。床高などに制約のある部屋だが、シュナイダーが提案する補助送気ユニットなどを組み合わせることで必要な性能を確保することができたという。
人口減に加え診療報酬制度の改定などもあり、病院経営環境の厳しさが増すなか、UPSコストの6割減という経済的なメリットを得られた点は大きい。また、島川主任によると、院内の医療スタッフからは「システム担当者がサーバールームでIT機器を監視してくれるので、安心感が高まった」という声が寄せられているという。何か異常が発生したとき各部門では手に負えないシステムに依存する不安を解消するという点でも、新たなサーバールームは役割を果たしているようだ。
同院では、世界に二つしかない「原爆病院」の一つとして、戦後70年の被爆者医療の歴史を後世に継承するとともに、災害時も止まらない病院として強靱化したITインフラの活用をさらに進めていく。(日高 彰)