日立製作所(東原敏昭・執行役社長兼CEO)は今年4月1日付で、大規模な組織再編を断行した。製品別のカンパニー制を廃止し、サービスとプロダクト主体の事業群を設けた。これと並行し事業戦略の柱として、5月にはIoTプラットフォーム「Lumada(ルマーダ)」の提供を開始。同社の強みであるOT(制御技術)とITを融合し、IoT領域で優位性を築くことをねらったものだ。そのOTの開発・製造などの“心臓部”である茨城県日立市にある「大みか事業所」は6月、エネルギーマネジメントシステムの国際賞を受賞。このユースケースで得た手法やノウハウは、スマートシティや次世代工場などに横展開する考えだ。Lumadaの具体例として注目される同事業所の環境活動を取材した。
震災を契機に電力の統合管理を開始
大みか事業所を管轄するのは、4月の組織再編で新設したサービス&プラットフォームビジネスユニット(BU)だ。このBUは、OTを担当する制御プラットフォーム統括本部とITを担う情報プラットフォーム統括本部に分かれる。日立製作所は、次世代に向けIoTを主軸とする大きな戦略転換を図った。この実現で中核となるOTの制御技術や関連する周辺システムの開発で、事業所の役割は重要性を増している。
事業所は、日立市大甕(おおみか)の太平洋に面する場所、敷地面積約20万平方メートルにある。東京ドーム4個分になる広大な場所には、従業員4000人が働く。電力、鉄道など重厚長大な社会インフラをはじめ、制御システムやソフトウェアなどの製造・開発を担う、まさに同社の“心臓部”といえる。

大みか事業所は東京ドーム4個分の敷地に従業員4000人が働く
2011年3月11日の東日本大震災は、この地にも被害をもたらした。計画停電が相次ぎ、安定した電力供給がままならなかった同年、事業所では、エネルギーマネジメントの取り組みを開始するためフレームワークを構築した。それから5年、着々と全所にこの活動を浸透させ実績を上げたことで、エネルギーマネジメントシステムに関する国際賞「Energy Management Leadership Awards」の「CEM Energy Management Insight Award」を6月に受賞した。

事業所内の電力使用状況がわかるFEMSのモニター

真柄雅利
制御プラットフォーム
統括本部
環境管理センタ長 この活動で中心的な役割を果たしてきた真柄雅利・制御プラットフォーム統括本部環境管理センタ長は、「2010年に比べ、エネルギーパフォーマンスは年約15%、国際規格ISO50001(組織のエネルギーパフォーマンスを可視化し、その改善によるコスト削減を実現するための国際規格)での削減活動、パフォーマンスの測定管理方法が評価された」と受賞理由を分析する。国際規格ISO50001は、12年7月に取得した。国内電機メーカーでは初だ。それまでの間、震災での経験を踏まえて太陽光発電や蓄電池システムなどを導入しBCP(事業継続計画)対応を強化した。加えて、スマートメーターなどを活用したFEMS(工場におけるエネルギー管理システム)として事業所全体のエネルギーの統合管理システムを構築するなど、「聖域を設けずにゼロベースで徹底的に利用状況の観測と分析を断行した」(真柄センタ長)という。
職場別の地道な工夫が奏功
具体的な対象設備は、試験設備や生産設備、照明、空調、OA機器までにおよんだ。電力センサやスマートメーターは約900か所に設置。電力会社向けの制御設備の生産工場では、部品などにセンサを設置し、生産工程の進捗を管理するシステムが導入されていた。前述した通り、太陽光パネルや蓄電池を導入し、コンピュータで管理しているほか、目標電力を超過する前に蓄電池から放電したり、空調設備を制御できる仕組みにした。
真柄センタ長は、「この取り組みは、当社が推進しようとしているOTとITの融合のモデルケースだ」と話す。最近では、国内外から連日のように視察や相談者が訪れているという。事業所の取り組みは、今後IoTの見込み案件を創出する場にもなっているのだ。
一方で、エネルギーマネジメントは、仕組みやコンピュータシステムが整えば実現することではない。そのためには「従業員の協力が最大のポイントだ」(真柄センタ長)と話す。実際には、現場のことをもっとも熟知している職場リーダーが取り組みを先導する体制を敷くとともに、職場別に電力使用状況を示すデジタルサイネージを配置することで、電力使用目標に向けた社員の意識が高まったという。

職場別にリーダーが音頭をとり、エネルギー使用量を制御する仕組みを考えた
現場ならではの工夫としては、例えば、作業工程のタイミングを変更し設備の消費エネルギーピークを控えるように改善した。具体的には、電力を多量に使用する機器テストのタイミングを全体の電力の谷間に行うようにした。また、従来、アッセンブリとテストを繰り返して実施していた作業工程を見直し、アッセンブリ作業をすべて行った後にいっせいにテストする工程にした。このほかでは、直流・交流変換装置のテスト時に電力の浪費が大きいため、製品テストで通電した電力を回収し再利用している。
真柄センタ長は、「この活動から得られた多くの手法やノウハウは今後、スマートシティや次世代工場などに生かされる」と断言する。震災を受けて事業所で実行してきたエネルギーマネジメントシステムだが、結果的には、今年度同社が掲げたIoT戦略とLumadaのユースケースとして、いち早く顧客への展開が始まりそうだ。