サイボウズ(青野慶久社長)は11月9日、10日の二日間、千葉県の幕張メッセでプライベートイベント「Cybozu Days 2016」を開いた。今回は「共に生きる」をテーマに、初日がユーザー企業、二日目がパートナー向けにセッションや展示などを行った。二日間の来場者数は約3000人。育児や介護などの事情を抱える方が働きやすい環境をつくるため、共に生きるチームになるための方法を考えたほか、kintoneやサイボウズOffice 10、Garoonなどクラウドサービスを含めた主力製品・サービスのアップデートを行った。
クラウドでグループウェア普及期へ
サイボウズはプライベートイベントを2012年から「cybozu.comカンファレンス」の名称で実施し、クラウド環境への移行を訴求してきた。今年は、クラウド版を契約する企業が1万5000社を超えたことを受け名称を変更。開催期間も二日間にし「滞在型」で参加できるようにした。

幕張メッセの大型ブースを二日間に渡り貸し切り、
趣向を凝らしたブースや展示で顧客を楽しませた
青野社長は両日の基調講演で、働き方やチームのあり方を伝えたほか、各製品の来年以降のアップデートを説明した。二日目の展示では、30を超えるITベンダーが「kintone」に関連したソリューションを紹介したほか、kintoneの事例やIoT(Internet of Things)などをテーマにしたセッションが設けられた。セッションは、キリン、ワシ、トンボなど動物や昆虫の名のついた趣向を凝らした会場で開かれ、参加者がドーム型の部屋で聴講した。

初日の基調講演で青野社長は、主力5製品の販売、コミュニティの動向や機能のアップデートを示した。クラウド型のグループウェア「cybozu.com」は、昨年度(2016年3月期)で1万2000社だった利用社数が、今年度途中で1万7000社に達していることを報告し、クラウドビジネスが急成長していることを訴えた。青野社長は「ダウンロード版で急激に伸びたグループウェアだったが、数年前に成長が鈍化した。クラウド版を出してからは、導入に勢いが増している。苦節19年、ついに、グループウェアが普及期に入った」と、創業時から主力に据えていた製品の市場が拡大していると語った。

イクメンで知られるようになった青野慶久社長は、
両日の基調講演で「働き方」改革を訴えた
他の製品では、規模の大きい企業向けのグループウェア「Garoon」についてのアップデートがあった。「連携、基幹をテーマに機能強化を図る」(青野社長)と、他社のSFA(営業支援システム)や基幹システムにある社内データとの連携機能を拡充する。技術面では「Java Script API、REST API、Web Hookに関連する機能を強化し、複数のシステムにあるデータが双方向に高速で連携できる追加機能を来年度以降に出していく」と、追加開発に関する情報を提供した。検索性能の向上については、オープンソース全文検索エンジン「Elasticsearch(エラスティックサーチ)」を使い、大量データを高速に扱えるようにするという。
多様化する働く人に応じた環境を
二日目の基調講演では、青野社長と多彩なゲストで「共に生きる」をテーマに議論を繰り広げ、「情報システム部門と現場部門」「経済格差」「男女」を題材に、社会的なテーマに切り込んだ。女性活躍については少子化ジャーナリストである相模女子大学の白河桃子客員教授と、男女格差について武蔵大学社会学部の田中俊之助教、情報システムと現場については京王電鉄バスの虻川勝彦・管理部システム業務推進担当課長と、介護現場の問題については医療法人ゆうの森の永井康徳理事長と青野社長が壇上で議論した。
青野社長は「当社はかつて、チームワークに溢れる会社ではなかった。離職率が28%に達し、長時間労働もあたりまえだった。今年度はいま現在で4%に減った。100人いれば100通りの人事制度を設け、離職した後は当社に復帰できたり、副業を認めている」と、自らの会社で実践してきた「働き方」の多様化に対応した事例を示した。
パートナー向けとなった二日目は、30以上のパートナーがkintoneや他のサイボウズ製品・サービスと連携したソリューションを紹介する展示があった。展示したほとんどのITベンダーが自社の製品・サービスとkintoneを連携させたソリューションを説明。kintoneの裾野の広がりをみることができた。
各種セッションでも、kintoneを使ったユーザー事例などが紹介された。例えば、JA三浦市は、生産農家と小売現場をつなぐため、kintoneを使い、当日の生産状況に応じ食物を流通させる仕組みをどのように構築したかについて紹介していた。また、基調講演に登壇した京王電鉄バスとゆうの森がkintoneを使った多くの現場に適応したアプリケーションをみせていた。
政府レベルでも「働き方」に関する取り組みが進んでいる。だが、実態としては、長時間労働や賃金格差、子どもや老人を抱える家庭の仕事のあり方などに問題が生じ、改革が前に進んでいない。サイボウズの製品・サービスは、社員や関係会社相互のコミュニケーションを活発にし、業務改善に役立つ。ただ、根底にある課題を解決しなければ、アプリは有効な道具にならない。そこで同社は、社会問題に深く切り込み、自社の製品・サービスを上手く使う方法を示した。プロダクト指向に偏らず、製品・サービスを使う人に着目したイベントは、参加者の共感を呼んだといえる。同社は12月6日、大阪でも「Cybozu Days 2016」を開催した。