写真現像機のトップメーカーであるノーリツ鋼機は、既存事業の市場縮小を受け、医療、環境など、新しい分野で軸となる事業の立ち上げを図ってきた。その一環として、「食」の新規事業を担うべく、2009年に発足した社内ベンチャー企業がNKアグリだ。サイボウズの業務アプリ作成PaaSの「kintone」をフル活用し、ビジネスそのもののブラッシュアップに役立てている。

【今回の事例内容】

 

<導入企業>NKアグリ
農業を手がけるノーリツ鋼機の社内ベンチャー。
2009年設立。社員12人、協力社員1人、パート60人

<決断した人>
三原洋一 社長
NKアグリ立ち上げ時から参画。kintoneの導入を決定し、自ら経費精算承認アプリを作成した

<課題>
ベンチャーらしいビジネスの変化に柔軟に対応できるIT基盤が必要だった

<対策>
サイボウズの業務アプリ作成プラットフォームのkintoneを採用し、都度必要な機能を追加できるしくみを整えた

<効果>
社内コミュニケーションが円滑になり、安定した生産や需給調整の精緻化などにつながった

試行錯誤を経て3年で軌道に

 NKアグリは、まずはメーカーらしく、「植物工場」の発想で、和歌山県に建設した自社工場で水耕栽培を始めた。既存の農業よりも、計画的に安定供給ができるという仮説のもと、人間が生きている限りなくなることのない食料需要に応えていこうと考えた。

 しかし、NKアグリの初期メンバーは、農業未経験者のみ。最初はネギの栽培から始めたが、はじめはトラブル続きだったという。NKアグリの三原洋一社長は、「水耕栽培は生産・出荷のサイクルが早く、植物工場なら環境も制御できる。設備の環境設定をすれば野菜がどんどんできて、非常に効率のいいビジネスになると思っていたが、とんでもなかった。思いも寄らないディテールが影響していて、全然想定どおりに作物はできなかった。一方で、作物ができていないのに営業が先行して受注してしまい、商品を出荷できなかったり、さまざまなトラブルを経ながら、試行錯誤してきた」と振り返る。そこで、さまざまなデータを取って、作物の出来に影響したと推測できる変化点を徹底的に蓄積し、研究者や研究機関とも連携しながらノウハウを構築していった。同時に、水耕栽培に適していて、需要も大きく売りやすい作物は何なのかという検討も継続して行い、まずはレタスを主力商品とした。創業から3年ほど経つ頃には、安定した生産ができるようになり、販路もあらためて整備し、事業としてのかたちが整った。

 その後、ほうれん草、水菜、リコピン高含有人参とラインアップを広げるとともに、生産拠点も、自社工場だけでなく、全国に提携農家網を拡大している。

変化に対応できるITが必要

 レタスの生産が軌道に乗り、ビジネスが大きくなり始めると、ITツールの導入の必要性を痛感するようになったという。とくに三原社長は、研究機関や提携農家との打ち合わせや営業などで、和歌山の自社工場を留守にすることが多くなった。まずは、現実的な問題として、経費精算の承認がしづらいという課題が出てきた。そこで、知人にkintoneを紹介してもらい、三原社長自ら経費精算の承認アプリをつくって使い始めたという。kintoneの採用に踏み切った理由について、三原社長は次のように説明する。

 「当社はベンチャー企業であり、ビジネスのかたちは毎年変わっていく。パッケージソフトの売り込みはたくさんあったが、ビジネスの変化に応じて使い続けられる柔軟性がなければ採用できないと思っていたので、選択肢には入らなかった。その点、kintoneは低コストで始められるし、必要なアプリをその都度自分でつくることができそうだと感じた」。

 kintoneは定額制で使うことができるため、その後、社員にも開放したところ、すぐに数十のアプリができあがったという。社員それぞれがkintoneの活用方法、具体的にはテンプレートに沿ったアプリ制作だけでなく、カスタマイズなどにも習熟し、徐々にやりたいことをkintone上で実現できるようになっていった。次第に社内コミュニケーションや社内工場の生産管理や出荷管理にも活用するようになり、やがてNKアグリのビジネスそのものを支える基盤になった。kintone上の情報は全社で共有し、チャット機能でディスカッションできる仕組みをつくったため、生産担当者と営業担当者の意思疎通もスムーズになり、販売ロスは創業から4年で0.04%という驚異的な水準まで抑えることができるようになった。三原社長は、「社内のコミュニケーションが円滑になったことで、みんなが一体でビジネスの成長に向けて何をすべきか考えるようになり、うまく回り始めた」と導入効果を説明する。

センサデータを収穫の予実管理に活用

 いまではさらに、自社工場、提携農家の生産現場に温度や湿度、日照などのセンサを設置し、そのデータをkintone上で収集して収穫の予実管理に役立てるという、IoT的な取り組みも進めている。この仕組みの構築は、kintoneの有力パートナーであるジョイゾーが担当した。ジョイゾーの四宮靖隆代表取締役は、「こういうシステムをつくってほしいということではなく、NKアグリはシステムによって実現したい“結果”が明確だったので、非常にスムーズな仕事ができた」と話す。これにより、全国の生産者と連携して高品質のリコピン高含有人参「こいくれない」を安定して生産、流通できる仕組みを構築したとして、総務省が主催する「地域情報化大賞2015」の地域サービス創生部門賞を獲得した。今後は、リコピン高含有人参の生産量を増やし、ビジネスを拡大するとともに、さらなる生産性向上を目指し、IoTソリューションへの投資も拡大していく方針だ。(本多和幸)