経済成長が鈍化している中国だが、IT市場にはどのような傾向がみてとれるだろうか。中国のIT市場は、いまだ高い成長率を維持しており、今後も2ケタ以上の伸びが見込まれている。「第13次5ヵ月年計画」で重要項目となっているIT領域には、大きなビジネスチャンスが残されているのだ。ただし、内訳でみると、伸びている領域とそうでない領域があるのも事実。ITベンダーは、市場変化を適切に捉えたうえで、今後の戦略を練っていく必要がある。(取材・文/上海支局 真鍋 武)
2016年の中国IT市場は堅調に推移した。中国工業和信息化部(工信部)によると、SIerやISVが対象となる中国ソフトウェア・情報技術サービス業の16年通期売上高は、前年比14.9%増の4兆8511億元だった。成長率は昨年から0.8ポイント低下。中国経済の成長鈍化に伴い、年を追うごとに落ち込んできているが、それでも2ケタ以上の成長を維持している。
金額ベースでは、前年比で約6000億元増えた。現在の為替レート(1元あたり約16.5円)で単純換算してみると、これは約9兆9000億円に相当。日本のIT市場規模は約15兆円なので、中国では、1年間でその約3分の2に相当する市場が生まれたことになる。日本のIT市場がほとんど伸びていないことと比較すれば、中国は桁違いの成長を遂げている。
工信部の統計によると、分類別の16年売上高では、ソフトウェア製品が1兆5400億元で、前年比成長率は12.8%ともっとも低調。一方、情報技術サービスは好調で、売上高は同16%増の2兆5114億元だった。情報技術サービスの内訳では、オンラインソフトウェア運営、プラットフォーム運営、インフラ運営などの運営関連サービスが同16.1%増、電子商務(EC)プラットフォーム技術サービスが17.7%増、IC設計サービスが同12.7%増、その他サービスが同16%増。一方、組み込みソフトウェアは前年同様に推移し、売上高は同15.5%増の7997億元だった。
地域別の動向では、16年は市場の大部分を占める東部地区が安定的に推移し、東北地区が低調、中西部地区が好調だった。具体的には、東部地区が前年比14.9%増の3兆8000億元、中部地区が同20.6%増の2303億元、西部地区が同17.2%増の5288億元、東北地区が同6.3%増の2801億元。東北地区では、GDP成長率が低迷している遼寧省の前年比成長率が3.8%と、全体を大きく下回る結果となった。
また、ソフトウェア輸出は前年比5.8%増の519億米ドル。前年の成長率は1.7%と低調だったが、円安元高の為替レートが多少解消されたなどの影響で好転した。このうち、アウトソーシングサービス輸出は5%、組み込みシステムソフトウェア輸出は6%伸びた。
今後も中国IT市場は全体的には高成長を維持する見込みだ。工信部が国家発展和改革委員会(発改委)と共同で発表した「信息産業発展指南」によると、20年の中国情報産業売上高の目標値は、26兆2000億元。15~20年の年平均成長率(CAGR)は8.9%となる。このうち、ハードウェアなどの電子情報製造業が14兆7000億元(CAGR:5.8%)、ソフトウェア・情報技術サービス業が8兆元(CAGR:13.2%)、通信サービスなどの情報通信業が3兆5000億元(CAGR:15.5%)を発展指標とした。
また工信部では、「第13次5ヵ年計画」をベースに「ソフトウェア・信息技術サービス業発展計画(16-20年)」「ビッグデータ産業発展計画(16-20年)」「信息通信業界発展計画(16-20年)」の三大計画を策定し、具体的な発展の方向性や工程を明確化している。
「ソフトウェア・信息技術サービス業発展計画」では、目標とする産業売上高8兆元のうち、55%を情報技術サービスで捻出する計画だ。とくに、セキュリティ領域に注力する方針で、情報セキュリティプロダクトの売上高2000億元、今後5年間のCAGRは20%を掲げている。ソフトウェア輸出では680億米ドル、ソフトウェア業の就業人口は900万人を目指す。
「第13次5ヵ年計画」では、クラウド・ビッグデータ・IoTなどの新興技術への注力を明確化しており、とくにビッグデータへの期待は大きい。工信部の三大計画のうち、「ビッグデータ産業発展計画」は、過去5年間は存在しなかった新たな計画だ。ここでは、20年のビッグデータ関連産業売上高は1兆元、今後5年間のCAGRは30%を掲げた。中国の地場ITベンダーでは、ビッグデータ領域への参入が急増しているが、計画ではグローバルトップレベルのビッグデータ企業を10社、500社のビッグデータ応用・サービス企業を輩出する目標を掲げている。この実現に向け、貴州などで先行している「ビッグデータ総合試験区」を10~15建設するとともに、産業集積エリアやモデル地区を打ち出すという。
中国の地場ITベンダーは、政府の方針に足並みを揃えて、自社の事業戦略を策定しているケースがほとんどだ。日系ITベンダーにおいても、こうした政策の解読は、持続的に成長していくうえでの大きなカギとなる。