SAPジャパン(福田譲社長)が、中堅中小企業向けビジネスを強化する方針を打ち出した。同事業の責任者である牛田勉・バイスプレジデントゼネラルビジネス統括本部統括本部長は、「SAPジャパンとしては、過去にない本気度で中堅中小企業向けビジネスに取り組む」と力を込めるが、類似のメッセージを過去何度も市場に発信してきたにもかかわらず、成功を勝ち取ったとはいい難いのが現状だ。今度こそ、SAPジャパンは中堅中小企業向け市場を攻略できるのか。クラウドの浸透やデジタル変革のトレンドを追い風に、攻めの姿勢を鮮明にしている。(本多和幸)

年商250億円以下の企業もターゲット

牛田 勉
バイスプレジデント
ゼネラルビジネス統括本部統括
本部長

 中堅中小企業向けビジネスの強化にあたって、SAPジャパンがまず取り組んだのが、組織体制の変革だ。従来、同社の営業組織にユーザーの規模別の明確なセグメントはなく、中堅中小企業ユーザーは各地域担当の営業チームがカバーするかたちになっていたが、このほど、中堅中小企業を専任で担当する営業組織を設置した。さらに、中堅中小企業を年商250億円以上1000億円以下の「中堅中小1」、250億円以下の「中堅中小2」の二つのセグメントに分類し、新設した営業組織の人員も振り分ける。牛田本部長は、「これまでSAPジャパンがターゲットとしてセグメントした最小規模の顧客層は年商500億円以下だった。250億円以下という区分を設けたのは、非常に大きなチャレンジだ」と話す。これまでよりも、ターゲットとする顧客層を明確に広げたことになる。

 また、同社の中堅中小企業向けビジネスはパートナービジネスが基本だが、ハイタッチ営業とパートナー営業は、従来、別組織だった。中堅中小企業向けビジネス専任の新たな営業組織は、これを統合し中小企業向けビジネスに携わる人員を一つの組織にまとめたものといえる。ただし、この新組織設立に伴い人員の増強も行っており、実質的に中堅中小企業向け商材の拡販に携わる人員は、組織変更前が30人程度だったのに比べ、70人と倍以上に増えたのだという。

 こうした組織変革を行った背景には、中堅中小企業向けITビジネス市場を取り巻く環境が変わってきたと、SAPジャパンが判断したという事情がある。牛田本部長は、次のように説明する。「SAPがIDCに依頼して、13か国で中堅中小企業に対する調査を行ったところ、中小企業でも、今後生き残るためにはデジタルエコノミーへの積極的な参加が不可欠だと考えている企業は40%近くにのぼるという結果になった。また、5社中4社はデジタル変革を進めた結果、効果があったと回答した。一方で、デジタル変革には業務そのものの変革などの痛みを伴うというイメージがあると思うが、回答企業の5分の2が、デジタル変革は思ったより容易だったと答えている。こうした流れを導いたのは、クラウドの浸透だ。クラウドを使うことで、中堅中小企業でも容易にデジタル変革に取り組むことができるようになった」。

 SAPは近年、中堅中小企業のクラウド商材を積極的に拡充してきた。同時に、「日本市場でも、ユーザー側にパブリッククラウドに対するアレルギーがなくなってきた」(牛田本部長)という。つまりは、SAP側のクラウド製品ラインアップの充実により、中堅中小企業でも現実的なコストと労力で“SAPクオリティ”のデジタル変革を成し遂げられる環境が整うとともに、国内のユーザー側にもそれを受け入れる意識が醸成されてきて、中堅中小企業市場を本格的に攻めるべきタイミングがきたというのが、SAPジャパンの見方といえそうだ。牛田本部長が、「これまでの当社の中堅中小企業向け施策とは違う」と強調する根拠もここにあるようだ。

国産業務アプリケーションとの激突も

 具体的な製品としては、クラウドERPの「Business ByDesign」や「S/4HANA Cloud」、営業系アプリケーションの「Hybris Sales Cloud」「Hybris Service Cloud」、人事系の「SuccessFactors」、分析系の「BusinessObjects Cloud」などを重点的に提案していく。

 パートナーとの協業についても、従来の中堅中小企業向けビジネスとは一線を画し、専任の担当者による個別のパートナー支援体制を構築するほか、共同営業・マーケティングなども行う。クラウドビジネスに適した新たなインセンティブプランも用意する。さらに、中堅中小企業市場で実績、強みのある新規パートナー開拓も積極的に行っていく方針だ。新営業組織の発足以降、4月1日現在で、すでに11社の新規パートナーを獲得している。「既存のSAPパートナー250社のうち、すでに数十社は中堅中小企業向けビジネスにシフトしているし、引き続き積極的にパートナーの拡充を図っていく。導入のベストプラクティスも確立されていて、パートナーに儲けてもらうための準備はできている」と、牛田本部長は力を込める。

 新規パートナー開拓のターゲットになるのは、「これまで基幹系のパッケージを手がけてきたベンダーと、フロント系のクラウドアプリケーションを中心に手がけてきたベンダーの両方」(牛田本部長)だというが、とくに250億円以下の「中堅中小2」は、すでに強固なパートナーエコシステムを築いている国産の業務アプリケーションと完全に競合する市場だ。ここを切り崩せるかどうかは、SAPジャパンの中堅中小企業向けビジネスの成否を握るといえよう。

 また、マーケティング施策としては、認知度向上を目的として、中堅中小企業向けのウェブサイトを初めて立ち上げた。これと連動させるかたちで、ソーシャルメディアを活用した情報発信を行ったり、ウェビナー、セミナーを開催するなどの取り組みを進めていく計画だ。