脱インテルでビジネス拡大に動く

 大手セキュリティベンダーのマカフィーが今年4月、インテルから分社し、独立したセキュリティ企業として再スタートを切った。近年、多様化するセキュリティ脅威に対抗するため、大手セキュリティベンダーがこぞって新技術獲得へ向けた投資を行っているが、親会社としてのインテルの存在もあり、その点では遅れをとっていたといえるマカフィー。再び独立したセキュリティベンダーとして歩を進めることで機動力をつけ、M&Aなども視野に入れながら、存在感を高めていこうとしている。(前田幸慧)

インテルからの分社独立でさらなる成長を図る

 ウイルス対策製品の大手ベンダーとして名をはせ、ビジネスを拡大してきたマカフィーは2010年、モバイルやIoT向けのセキュリティ強化を狙うインテルによって、約76億8000万米ドルで買収された。マカフィーはインテルの完全子会社となり、14年にはインテルへの統合によって「インテル セキュリティ」と名を改め、「マカフィー」の名称は製品ブランドとして残しつつ、インテルのセキュリティ事業を担う一事業部として活動してきた。(※日本では、「マカフィー」の名称で商号を継続して利用していた)

 しかし、16年9月、インテルが米投資会社のTPGに保有株式の51%を売却すると発表。その後、半年間の分社化に伴う手続き期間を経て、今年4月、インテルとTPGの両社が共同で新会社マカフィーを設立し、独立したセキュリティ企業として、再び歩き始めた。なお、マカフィーの49%の株式は引き続きインテルが保有し、協業関係は維持しながら、マカフィーの成長をサポートしていくという。

 インテルからの分社化完了を受け、4月21日、今回新たに誕生したマカフィーの日本法人としては初となる事業戦略発表会を開催し、17年の事業戦略を発表した。インテル セキュリティ時代の方針は引き継ぎつつ、セキュリティ人材不足や働き方改革の支援、IoTや社会インフラへのビジネス展開に注力する。

パートナーとの連携を強調 社会の安心・安全を注力分野に

マカフィー
山野 修
代表取締役社長

 「一社だけでなく、他社と協業して、サイバー攻撃から守っていく」という基本方針のもと、山野社長はパートナーとの積極的な連携姿勢を示す。そうした取り組みの一つとして、マカフィーの脅威情報をリアルタイムに共有できるプロトコル「OpenDXL(Data Exchange Layer)」を、他のセキュリティベンダーやデベロッパー向けに開放。マカフィーの保有する脅威情報を他社が利用し、製品などに反映することを可能にした。このOpenDXLを中核に据えたプラットフォームをベースに、各種製品・サービスの連携を図り、オンプレミス、クラウドの両方をカバーするセキュリティ対策を提供する。自社がもたない製品については、パートナーの製品と連携していく考えだ。

 17年の注力分野には、セキュリティ人材不足や働き方改革の支援、IoTや社会インフラへのビジネス展開を挙げる。いずれも、国内IT社会をとりまく代表的なセキュリティ課題だ。

 セキュリティ人材不足への解決支援に向けては、人材面、製品面の両サイドからサポートする。とくに現在、CSIRT構築コンサルティングの引き合いが好調で、「倍々で伸びている」と話す。また、セキュリティサービスの提供によって、顧客のセキュリティ運用の自動化、省力化を図っていく。

 働き方改革の支援では、暗号化や不正アクセス監視といった情報漏えい対策に加えて、ウェブアクセス制御、デバイス制御、CASBやウェブアプリケーション保護といったクラウドの活用などで、テレワークや在宅勤務でも安全に情報が利用できるよう、セキュリティの強化を訴求していく。

 また、新たな分野として、IoTや社会インフラ向けの事業展開を加速していく。今年4月には、電力系統監視制御システムとその周辺技術の海外展開において、東京電力パワーグリッドらと業務提携し、サイバーセキュリティ戦略の策定支援や、経営層から現場、ITとOT(Operational Technology)をカバーするセキュリティ設計など、マカフィーのもつサイバーセキュリティ技術を生かし、社会インフラのセキュリティを支える取り組みを開始した。山野社長は、「新生マカフィーとして、社会やビジネスのさらなる安心・安全を実現していく」と力を込める。

分社化による機動力増強がカギ 積極的なM&Aも視野に

 インテル セキュリティ時代の16年上半期におけるグローバルの業績は、売上高が前年同期比11%増の11億米ドル、営業利益は1億8200万米ドルで、ビジネスは堅調に推移してきた。山野社長によると、「とくに日本は世界的にみてもトップの成長を遂げている」として、具体的な数値は明らかにしなかったものの、国内ビジネスの好調ぶりを示している。現在、日本法人の売上構成は個人向けと法人向けは半々程度。個人向けでは、PC、スマートフォンをはじめとしたデバイスからネットワークまで、家庭全体のセキュリティソリューションを提供。法人向けでは、「売り上げの3分の一を占める」というアンチウイルス製品以外にも、POS端末、ATM、複合機などの組み込み向けセキュリティや、IPS製品などのデータセンター向け製品、SIEMやサンドボックスなど、未知の脅威に対抗するセキュリティ製品が好調に推移。金融、製造、医療といった大企業や官公庁を中心に、「好調に売り上げを伸ばしている」という。

 一方で、近年における他のセキュリティベンダーの動向をみてみると、複雑化、巧妙化するセキュリティ脅威への対応を背景として、最新技術の獲得、自社製品の強化やポートフォリオの拡大を見込んで、積極的にM&Aを展開している。マカフィーは、約6年間インテルの傘下にあったことが影響してか、13年に次世代ファイアウォールベンダーのストーンソフトを買収しているものの、以降は目立った動きをみせていない。山野社長は、「独自の判断でM&Aを行えるようになった」と言及しており、インテルからの独立により、今後は自社製品、技術の強化へ向けた外部への投資も視野に入れている。セキュリティ脅威の動向にすばやく対応できるかが、ビジネス拡大のカギとなりそうだ。