政府系との提携で顧客獲得へ

【常熟発】KDDI(田中孝司社長)は、IoTソリューションで中国の製造業を本格的に開拓する。中国現地法人の上海凱迪迪愛通信技術(KDDI上海、伊藤博総経理)を通じて、「常熟グリーン智能製造技術イノベーションセンター」を運営する菱創智能科技(常熟)(菱創智能、範文勝総経理)と協業した。菱創智能は今後、常熟市をはじめとする江蘇省の製造業に対して、KDDIのIoTソリューションを優先的に提案する。これによって、KDDIは従来以上に効率的に製造業の顧客を獲得することができる。(上海支局 真鍋 武)

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常熟グリーン智能製造技術イノベーションセンター

「中国製造2025」を体現

 常熟グリーン智能製造技術イノベーションセンターは、中国製造業の高度化を目的として、企業や大学、研究機関が連携し、IoT、FA、工業ロボットなどの新技術の研究開発や商業化を推進する施設。常熟国家高新技術産業開発区に位置し、8700平方メートルの敷地面積に、常設展示スペースや200人規模のセミナールーム、産学連携による研究スペースを内包する。運営元の菱創智能は、常熟市政府と民間企業が共同設立した企業で、センターで得られた成果を製造業に広める役割を果たす。その対象範囲は、常熟市をはじめとする江蘇省全域を予定。7月11日に開催された開所式で、常熟市の王颺 市委書記は、「製造業の自動化、情報化、スマート化とグリーン化を全面的に向上させ、センターをシステムソリューションの『スーパーマーケット』につくりあげる」と意気込んだ。

 背景にあるのは、中国国務院が2015年5月に発表した「中国製造2025(中国製造業10か年計画)」だ。同計画では、IoTなどの次世代情報技術を活用した工場スマート化のモデル構築を推進する「製造業イノベーションセンター」の建設を5大重要プロジェクトの一つに指定している。これを受けて、各地方都市は政府主導で製造業イノベーションセンターの建設を進めており、常熟グリーン智能製造技術イノベーションセンターもその一環となる。

地場企業の開拓が容易に

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KDDI
曽雌博之
執行役員グローバル事業本部長

 今回の協業について、KDDI上海の伊藤博総経理は、「これまでのSI事業から大きく機軸が変わる」と話す。中国では、通信ライセンスの規制が厳しいため、外資企業であるKDDIは国内で通信サービスを提供できない。加えて、データセンター(DC)サービスも単独での展開が難しく、KDDIは地場のIT企業をパートナーとしてDC「TELEHOUSE」を提供している。KDDI上海単独では、日系企業を中心としたSI事業が一つの柱となっているが、基幹系システムやネットワーク構築といったSI案件では、大きな成長が期待しにくい市場環境が続いていた。一方、今回の協業では、これまで容易には入り込めなかった地場の製造業を開拓することができる。政府系の菱創智能が紹介してくれるため、自社で顧客接点をつくり出す手間がかからない。菱創智能は三菱重工業、三菱電機とも手を結んでいるが、IT系での協業先は現時点でKDDI上海のみ。IoT案件では、優先的に顧客を紹介してもらえる。KDDIの曽雌博之 執行役員グローバル事業本部長は、「ポテンシャルは大きい」と期待感を示す。

パートナーにも恩恵

 恩恵を享受できるのはKDDIだけではない。同社は、遠隔作業支援システム「KDDI Vist@Finder」などの自社商材を有するが、中国国内で提供するIoTソリューションの大部分は、日本のパートナー企業の商材だ。実際、常熟グリーン智能製造技術イノベーションセンター内の常設展示ブースで紹介しているのは、シムトップスの「MC-Web Controller」「ConMas i-Reporter」、ウイングアーク1stの「MotionBoard」、東洋ビジネスエンジニアリング(B-EN-G)の「mcframe SIGNAL CHAIN」など。つまり、IoT関連ソリューションを有するパートナー企業にとっても、新たな商機獲得につながる。また、伊藤総経理は、「特定の製品に依存せず、幅広いソリューションを提案していく」と説明しており、今後も有力なIoT商材をもつパートナー企業を拡充していく方針だ。将来的には、製造業向けソリューションにとどまらず、医療、教育関連のソリューションも検討する。

 協業の成果は、菱創智能がどれほどの実行力をもって中国の製造業をイノベーションセンターに誘い込み、案件を創出できるかにかかっている。伊藤総経理によれば、「すでに複数の製造業の紹介を受け、実際の提案を始めている。なかには上場企業もある」という。「まずは、今回の協業を固める意味で、2ケタの実績をつくっていく」(同)ことが第一段階の目標だ。

 また、将来的には、他の地方都市で開設される製造業イノベーションセンターへの横展開も視野に入れる。中国製造2025では、20年までに15か所程度の国家級製造業イノベーションセンターを整備し、25年には40か所程度に拡大することを目指している。常熟の取り組みが実を結び、先進的と評価されれば、他の地方政府から声がかかる可能性もある。

 7月1日、中国の習近平国家主席は香港で、「蘇州達後無艇搭(蘇州を行き過ぎると乗り換えるボートがなくなる)」と話した。江蘇省にあるビジネスチャンスを逃すなという意味だ。中国第2位のGDPを誇る江蘇省は、製造業を含む第2次産業がその約半分を占める。製造業高度化に向けた大きな投資が見込まれる。