SaaS専業ベンダーとして初上場! 

 マネーフォワード(辻庸介社長CEO)は、2017年9月、東京証券取引所マザーズ市場に新規上場した。SaaS専業ベンダー、そしてFinTech企業としては国内初の上場事例ともいわれる。一方で、同社が開示した財務状況の資料からは、多額の営業損失を出しながらの上場であることも明らかになった。果たしてマネーフォワードは、SaaSベンダーの先駆けであり、上場後も赤字を続けながらエンタープライズIT市場のメインプレイヤーにのし上がった米セールスフォース・ドットコムのような成長を遂げることができるのか。勝算はいかに――。(本多和幸)

赤字上場だが
営業損失は改善傾向

 マネーフォワードの財務状況をみると、2016年11月期の通期決算は、売上高が15億4200万円であるのに対して、営業損失が8億7600万円だった。同社は、B2C、B2Bの両方のサービスがあり、売上比率もほぼ5:5といったところだが、B2Bのクラウド会計アプリケーションなどを中心とした「MFクラウドサービス」事業の売上高は、7億3600万円となった。まもなく17年11月期の通期決算も発表されるが、計画では、前期比73%増の26億8100万円の売上高、6億7500万円の営業損失を見込んでいる。ちなみに、MFクラウドサービス事業の売上高としては、14億5900万円の計画だ。17年11月期第3四半期の決算発表時点では、この計画に変更はない。

 一見して非常に大きな赤字を抱えたまま上場したようにみえるが、同社の言い分としては、「TVCMなどのプロモーションによる先行投資を行った影響が大きい。売上高は順調に成長しており、広告宣伝費を除いた営業損失額は着実に改善している」という。確かに、広告宣伝費を除くと、営業損失は、16年11月期通期で2億8700万円、17年11月期の通期計画では、3400万円まで圧縮される。
 
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辻 庸介
社長CEO

 辻社長は、「主力であるMFクラウド会計のような基幹業務アプリケーションは、解約率が非常に低く、ストックが着実に積み上がる。顧客獲得のためのマーケティングに大きなコストをかければ短期的には赤字が大きくなるが、当社は順調に成長できており、その回収も想定どおりにできている。SFDCなどと似たビジネスモデルだ」と、十分な成算があることを強調する。

 一方で、前言のとおり、売上高が順調に成長することで広告宣伝費を除いた営業損失額は着実に改善しているのであれば、なぜこのタイミングでの上場となったのだろうか。柏木彩・広報部長は、次のように説明する。

 「外部から資金調達できるというのはすごく大きくて、これによりビジネスを加速させることができる。上場のタイミングについてはいろいろ考え方はあるだろうが、市場の状況がよく順調に成長できていることが後押しになった。とくにMFクラウドサービスは、企業の基幹業務を支えるソフトを提供するビジネスなので、市場からの信用度が上場前とはまったく違うと感じる。また、他のFinTech企業が私たちの後に続いていく流れをつくりたいとも思っていた。事実、地銀などと連携して進めているFinTechサービスも、上場をきっかけに前進した事例が多々ある」。

 赤字上場であることについては、「北米のように、SaaSのビジネスモデルに対して市場から理解を得られたことは重要なことだと思っているが、赤字のままでいいとは全然思っていなくて、早く黒字化したいのが本音」としたうえで、「当社が日本のSaaSビジネスを引っ張っていきたいという思いがある一方で、失敗してしまうと後に続く企業に迷惑がかかるので、そこは十分に気をつけないといけない」と話す。

顧客層の拡大策、
チャネルの拡充策も

 この上場を通して、これまでなかなかはっきりしなかったクラウド会計市場の実像もある程度みえてきた感がある。MFクラウドサービスのユーザー数について、同社が直近で発表したのは、2015年までさかのぼり、その数字は「50万事業所」だった。しかし、これはフリープランを含む全サービスへの登録ユーザー数であり、実際の利用実態とは乖離しているのではという指摘も根強かった。ちなみに、ライバルのfreeeは定期的にこのユーザー数を更新してアナウンスしており、現在の“公式ユーザー数”は80万事業所だ。辻社長も、この数字には「もはやあまり意味がない」と認める。

 17年11月期のMFクラウドサービス事業売上高の計画が14億5900万円であるのは前述のとおりだが、これには提携ソリューションにMFクラウドを組み込んで提供するなどのアライアンス事業の売上高も含まれており、純粋なMFクラウドシリーズの販売売上高は12億7100万円を見込んでいる。非常に粗い計算だが、仮に、すべてのユーザーが同社サービスラインアップではミドルレンジにあたる「MFクラウド会計ベーシックプラン」を月額課金で利用していたとすると、ユーザー数は3万5000事業所以上ということになる。MFクラウドサービス事業のおおよその規模感がみえてくる。辻社長によれば、「会計事務所がMFクラウドサービスを自らの基幹システムとして導入して、顧問先の経理代行などを行う事例も増えており、販売の形態も多様化していることから、ユーザー数をはっきり特定するのは難しい」とのことだが、ウェブでの直販以外の有力チャネルとして機能している会計事務所・税理士事務所は、「すでに2400社がMFクラウドサービスを使っている」という。さらに辻社長は、「従来システムでは一人の税理士あたり20社ほどを担当するのが限界だったのが、MFクラウドを使って80社ほどを担当することができるようになった事例もある。MFクラウドは、会計事務所、税理士事務所の生産性向上と収益性の向上にも貢献できる」と強調する。

 同社は11月に、クラウド記帳サービス「STREAMED」を提供するクラビスを完全子会社化し、「紙の書類がどれだけあっても、記帳業務を100%自動化できる体制を整えた」(辻社長)としている。STREAMEDは、領収書や請求書、通帳などの証憑をベトナムのオペレータが1営業日以内にデータ化するサービスで、手書きの領収書も99.9%の確率でデータ化でき、1日あたり1万件を超えるデータ化の実績がすでにあるという。辻社長は、「これまでMFクラウドは、インターネットバンキングを利用していたり、デジタルデータを活用しようという意欲があるユーザーでなければメリットが出づらかった。しかし、クラビスのサービスと連携させることで、あらゆるユーザーの飛躍的な業務効率化が可能になり、当社の潜在顧客も大きく拡大する」とみている。さらに、同12月には、NTTドコモの法人営業網でMFクラウドシリーズを販売することも発表。間接販売チャネルの拡充にも本腰を入れ始めた。クラウドネイティブなSaaSベンダーとして、どんな成長曲線を描くことができるのか。直近の通知表は17年11月期の決算発表で明らかになる。