今年2月、アマゾン ウェブ サービス(AWS)は「大阪ローカルリージョン」を開設した。「ローカルリージョン」として設置されている拠点は、現在のところグローバルでも大阪が唯一。日本市場向けの“特別扱い”ともいえる施策だ。グローバル市場はいうに及ばず、国内パブリッククラウド市場でも首位固めを着々と進めるAWSの貪欲なデマンド・ドリブンの姿勢が表れている。(本多和幸)

耐障害性を向上させる
複層的な仕組み

 AWSのクラウドインフラは、地域、つまりは「リージョン」単位で世界中に整備されている。現在、グローバルのリージョン数は18。日本国内でも、東京リージョンを2011年にローンチしている。

 一つのリージョンは、複数のアベイラビリティ・ゾーン(AZ)から成る。AZとは、複数のデータセンターで構成されるクラウドインフラのロケーションの単位だ。AWSはいずれのリージョンでも、複数のAZを「自然災害やデータセンター単位の障害など、ビジネスに影響を与えるリスクを最小化するよう地理的に影響を受けない十分離れた場所に配置し、フェイルオーバーにより高い事業継続性を実現している」としており、複層的に耐障害性の向上に取り組んでいるといえよう。ちなみに東京リージョンには四つのAZがあり、グローバルでは54のAZがある。また現時点で4リージョン、12AZの追加も予定されているという。

グローバルで初の
ローカルリージョンが大阪に

 2月13日に利用可能になった大阪ローカルリージョンは、グローバルでも特殊な位置づけといえる。ローカルリージョンが設置されることが、そもそもグローバルで初の試みなのだ。

 大阪ローカルリージョンは東京リージョンと組み合わせた利用が基本で、単独での利用はできない。そのためか、大阪ローカルリージョンにはAZが一つしかない。また、大阪ローカルリージョンはすべてのユーザーが利用できるわけではない。事前申し込みと審査を経てAWSが許可したユーザーのみが利用できる。さらに、大阪ローカルリージョンから提供するサービスは「EC2」「S3」などの主要サービスに限られるのも特徴だ。
 
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岡嵜 禎
技術統括本部本部長

 アマゾン ウェブ サービス ジャパンの岡嵜禎・技術統括本部本部長技術統括責任者は大阪ローカルリージョンについて、「金融、通信、医療、官公庁など、コンプライアンス上、地理的な冗長性をもたせつつ国内に閉じたシステムを構築しなければならないユーザーのニーズに応えた」と説明する。

 一方で、一般的なディザスタリカバリ(DR)のニーズには、「東京リージョンの四つのAZで十分に対応できる」として、大阪ローカルリージョンの用途としては想定していないとも明言。法令で規定されていなくても、大阪ローカルリージョンをDRに活用したいというユーザーは多数出てきそうだが、それにすべて応えてしまっては、あっという間にインフラを増強しなければならなくなるという事情もあるだろう。まずは国内の特定ユーザーの特殊事情に配慮したサービスのための拠点として大阪ローカルリージョンを位置づけているのがうかがえる。

EC2のSLAを4年ぶりに変更
月間稼働率は99.99%に

 こうした特例ともいえる措置を国内で打ち出した背景には、基幹システムのクラウド化のニーズをしっかりとつかみ、市場における首位固めを盤石にしたいという思惑がありそうだ。岡嵜本部長は、「従来はクラウドの世界から遠かった金融機関ですら、基幹業務システムのクラウド化を進める傾向が強まっている」と話す。大阪ローカルリージョンの存在は、これまでクラウドシフトに対するさまざまなハードルを抱えていた金融機関などをAWSに取り込んでいくためのものといえよう。

 いまだにオンプレミスの割合が高く、クラウド移行に伴う商談の規模も大きくなる傾向がある基幹システムは、クラウドベンダーにとってこれから市場開拓のポテンシャルが大きい領域だ。AWSも基幹業務システムの構築で豊富な実績をもつ大手SIerとのパートナーシップを強化しているほか、SAPのERP「S/4HANA」をAWS上で稼働させた事例などを積極的に市場にPRしている印象だ。

 そうした取り組みを後押しするインフラ側の機能向上として、EC2のSLA(Service Level Agreement)を4年ぶりに変更し、月間のサービス稼働率を99.95%から99.99%に引き上げた。また、EC2の耐障害性向上のための具体的な新機能として、物理サーバーに障害が起こったときに複数のインスタンスが同時に影響を受ける確率を軽減する技術である「Spread Placement Group」を全リージョンで利用できるようにしている。さらに、EC2のベアメタル・インスタンスのプレビュー提供も始めた。ヴイエムウェアの仮想化技術をAWSのベアメタル上で動かす「VMware Cloud on AWS」も国内での提供開始を控えているが、これも基幹業務システムのクラウド移行ニーズに応えるものだ。

 2017年12月にMM総研が発表した国内パブリッククラウドの市場調査レポートによれば、IaaSを利用しているユーザーのうち、AWSを利用している割合は35.5%、PaaSは41.4%で、いずれもトップだった。それでも、「AWSは常にユーザーのデマンドにもとづいて機能開発をしている」という岡嵜本部長の言葉どおり、潜在的な市場も見据え、貪欲に機能向上に取り組み、トップベンダーの座を盤石なものにしようとしている。