セールスフォース・ドットコム(小出伸一会長兼社長)が、クラウドアプリケーションのマーケットプレイス「AppExchange」を通じて、地方中小企業のビジネスモデル変革を支援している。京都の建設業である流体計画(山田英樹代表取締役)は今年5月、Salesforce上に開発した建設業向け現場管理システム「現場へGO!」の提供を、AppExchangeを通じて開始した。ユーザー企業が自社で運用していたシステムを汎用化してAppExchange上で販売するのは、今回が3件目の事例となる。(真鍋武)

AppExchangeのエコシステムを活性化


ユーザー企業がサービスベンダーに

 
流体計画
山田英樹
代表取締役
 流体計画は、1998年に京都に設立した建設業で、府内を中心に新築住宅や商業施設の工事/設計・施行を手がけている。同社がSalesforce製品を導入したのは2005年。事業規模の拡大につれて現場の管理業務が複雑化し、システムなしでは手が負えなくなったことが原因だった。山田代表取締役は、「たったの数人で、年間1000件もの案件をExcelへの手入力で管理していた」と振り返る。その後、Salesforce上に独自のシステムを構築。現在は、すべての情報管理を同システム上で行っている。

 日本の建設業は多重下請け構造で、小規模な事業者でも管理業務は複雑だ。山田代表取締役は、「一般的な業界だと、営業担当者の仕事は契約が終着点。しかし、建設業では契約してから実際に工事が完成するまで調整に追われる。例えば、家を建てる場合、少なくとも30程度の業者が関わってくる」という。工事の前には、想定価格を決めて発注を受けるが、実際には工程と進捗に応じて各業者と最後まで金額の調整が必要。そのうえ、見積書だけで少なくとも30~40枚を用意しなければならないなど、特殊な要件が多い。

 全国には約48万の建設業者があり、その多くが中小企業。山田代表取締役は、現場管理のシステム導入が進んでおらず、同じ悩みを抱える企業は多いとみて「現場へGO!」の提供に舵を切った。13年に渡る運用実績とノウハウをもとに、汎用的なアプリケーションとして再開発。見積・発注の管理、工程管理、帳票類の管理を中心に、建設業向けに特化した機能を提供し、管理者の負担を軽減する。ユーザー自身が試行錯誤して開発したアプリのため、ITベンダーが開発した市販アプリと比べて、導入を検討するユーザーにとっては使用感をイメージしやすいという強みがある。流体計画では、従業員数5~100人規模の中小建設業を主要ターゲットに敷いている。

 今後は、全国の地場IT企業と手を組んで販売していく方針だ。地方都市では、受託開発を主業としているIT企業が多い。彼らにとっても、開拓余地が大きい地場の中小建設業に対して、サブスクリプション型のサービスビジネスを展開できるという点でメリットがある。すでに、セールスフォース・ドットコムのパートナーなどを通じて、20社程度と協業の話を進めており、山田代表取締役は、「本業と同等規模の売上高を目指したい」と意欲的な目標を掲げている。

地方企業と開発パートナーをつなぐ

 AppExchangeでは、自社開発のアプリケーションをもつ全国の独立系ソフトウェアベンダー(ISV)やSIerが、低リスクでクラウド・ビジネスを始められるが、ユーザー企業が独自アプリを提供する事例は、元湯陣屋のホテル・旅館情報管理システム「陣屋コネクト」、北海道共伸特機の作業管理支援アプリ「kyosin7」に次ぎ、今回の流体計画が3件目となる。

 実際には、ITの専門家ではないユーザー企業が単独でアプリを開発することは容易でなく、セールスフォース・ドットコムでは、PDO(Partner Development org)として、開発支援を行うパートナー企業を紹介している。地方の受託ソフト開発ベンダーが、これを活用してAppExchange上でアプリを提供する事例もある。ただし、最初の事例である元湯陣屋が陣屋コネクトを提供開始したのは12年4月。これを考慮すれば、まだ成功例は数が限られている。

 
セールスフォース・ドットコム
北原祐司
執行役員
アライアンス本部
AppExchangeアライアンス部長
 そこでセールスフォース・ドットコムは今年6月、新たなプログラム「Salesforce App Summit」を始動した。これは、地方のSalesforceユーザーと開発パートナーを結びつけて、自社で運用しているシステムの汎用アプリ化を進める取り組みだ。セールスフォース・ドットコムの北原祐司・執行役員アライアンス本部AppExchangeアライアンス部長は、「各県から発祥するアプリがあっていい。まだ首都圏以外には大きな市場がある。地方のパートナーと組んで、アプリビジネスを盛り上げていきたい」と意欲を示す。

 また、地方の中小企業には、サブスクリプション型サービスを展開するノウハウに乏しいため、アプリの開発だけでなく、ビジネスプランの策定や販売計画などを含めて総合的に支援する。AppExchangeのビジネスモデルは、実際のアプリの売上のなかから一部を受けとるレベニューシェアモデルのため、セールスフォース・ドットコムにとっても、収益化は必須命題。アプリ事業者はWin-Winの関係を築きやすい。これは、クラウド基盤を提供するだけで、アプリベンダーから料金を徴収できる他のクラウドベンダーとは一線を画す。

 現在、AppExchange上で提供されている日本の独自アプリは約300。セールスフォース・ドットコムでは、投資部門Salesforce VenturesによるISVスタートアップ向け支援プログラムの強化や、SIerとの連携による業界ソリューションの拡充なども並行して推進し、さらにエコシステムを発展させていく考えだ。北原アライアンス部長は、「今後はペースを上げ、3年後にはアプリの数を1000までに増やしたい」と意気込んでいる。